◆300 皆の決意
2018/2/28 本日七話目の投稿です。ご注意ください。
意図してか意図せずか……リナはハッキリと言葉にした。
追いかける背中、その人物の名前だったからなのか、オルネルの目が変わる。
「おい! 今そんな事言ってる場合じゃないだろう! ガストン様の意志はどうなる! ……っ!」
語気を強く、声を荒げるオルネルだったが、リナの瞳には、それに打ち勝つ程の力があった。
言葉が出なくなってしまったオルネルの代わりに、しかしそれをオルネルに向かって言い放ったのは、トレースからの救援者。
「おい、そこのお前」
バルンが口を開いた。
「な、なんですか……!」
「それに乗るならさっさと乗りなよ。この子は乗らないって……そう自分で決めてるんだから」
登場した時とは明らかに違う声色。
短い期間といえど元六勇士。その覇気はオルネルの口を結ばせた。
そして次に声を出したのは、オルネルの後方からだった。
「オルネルさん。いかがしますか?」
振り返るオルネル。
そこにいたのは、いつの間にかリナと同じ目を宿していた……空間転移魔法陣の作成者。
「フユ……」
オルネルの言葉にフユが答える事はない。まるでリナと同じ目が答えと言わんばかりである。
「お前も…………お前もなのか……っ」
目を強く瞑り、拳に力を入れるオルネル。
今、この中で一番冷静なのはオルネルなのだろう。皆の体力、残る魔力、その疲労度。どれをとってもガストンの足手まといにしかならない。
オルネルはわかっている。だが、それをリナもフユも……わからないはずがなかった。
わかって尚、ここで立ち向かう事を選んだのだ。
「そんなの……玉砕もいいところだ! 一体何を考えてる!」
「…………考えてないんだろ」
「あなたに何がわかるって言うんです!」
オルネルがバルンの背中に言い放つ。
「わかるさ。アズリーって、あの馬鹿の事だろう?」
バルンは、少しだけ声に落ち着きを入れて答えた。
「……知って、いるんですね」
「君たち程知ってるとは言わないけどね。ただ、その子がそう言ってしまう理由が……何となくわかるだけさ」
「…………では、あなたも?」
バルンの意思を確認しようとするも、バルンがオルネルに答える事はなかった。
ただ、バルンは頭の後ろに両手を回しながら呑気に歩き始め、皆に言ったのだ。
「いやー、トレースさんからのお願いがガストンさんの救援だからな~! そうじゃなかったら絶対残らないのに~!」
妙に芝居がかった言葉だった。しかし、リナとフユはそれを聞き、見合ってくすりと笑った。
バルンの姿に、どこかアズリーの姿を見たのかもしれない。
バルンもまた、アズリーに影響された一人なのかもしれない。
目を丸くして聞いていたオルネル。そんな主に呆れたのか、はたまた活を入れようとしたのか、マイガーがオルネルの臀部に突進してきた。
それはやはり、マイガーなりの激励なのだろう。
「っ! おっと!? な、何するんだよ、マイガー!」
「糞野郎は糞でもちびって縮こまってな。俺は止められたってやるぜ!」
決して周りに流された訳ではない強い目。マイガーは無意識に震える脚を一歩前に進めた。
それを見たオルネル。直後顔に襲ってくる熱い感覚。
(……ったく、使い魔が震えながらも前に出てるんだ。俺が出ないでどうするんだって話だよな……!)
オルネルが頭を掻きむしりながら叫ぶ。
「あ~~~~もうっ! お前たちといるとな! 俺が馬鹿らしく見えるのは何でなんだよ、まったく!」
そんな言葉にリナもフユも、何も答えない。
ただ、その隣に立つ事でオルネルに応えたのだ。
そしてオルネルはそこから更に一歩進み、ビリーを見据えるマイガーの頭をひと撫でする。
「痒くなるからやめろやボケ……」
「なら帰って風呂入りゃいいんだよ」
「ちびった糞で尻が汚れてるからか? あぁん?」
「悪魔の血が汚いからに決まってるだろう」
「はっ! 上等だ!」
そしてフユがプラチナの首を撫でる。
「怖いよね……うん、私も怖いよ……」
「ブルルルルッ」
「うん、勝ってプラチナをアズリーさんに紹介しなくちゃね!」
「ヒッヒイイイイイインッ」
高く脚を上げて自らを鼓舞するように振る舞うプラチナ。
そんな二人のやり取りを見た後、リナがバラードを見上げる。
「リナしゃま! 私あいつ嫌いでしゅ!」
「ビリー……先生…………」
変わり果てたビリーの姿、それを見て胸を、心を痛めるリナ。
しかし、こんな時リナはいつも思うのだ。――師ならどうするかを。
「うん、まずは止めなくちゃ。後は……――」
「――止めた後に考えればいいでしゅ!」
皆が決意を固め歩を進める。
向かう先は地獄。潜り抜けなければ師の背中が見えない地獄。
リナもフユもそう思っていた。
「がっふ……ひゅー……ひゅー…………」
ガストンの呼吸は最早危険な状態にまでなっていた。
左肩から噴き出る血液と、大地に残る夥しい数の血痕。
「よく持つな……ガストン?」
「何、それは儂が一番…………驚いている……ヤツらが逃げるまでの…………辛抱」
俯きかけるガストンの背後に、二つの気配。
その気配にビリーはニタリと笑い、ガストンは俯く顔を止めた。
「何故…………残った……」
「じゃあガストンさんは、何で戦ってるんですか~?」
「ふん…………そんな事、忘れてしまったわ……ぐふぅ!」
「っ! ハイキュアー・アジャスト!」
バルンがガストンに回復魔法を放つ。瞬間、ガストンの外傷はみるみると消える。
しかし、ガストンの顔色が戻る事はない。それだけ内部の損傷が激しいのだ。
「なるほど、その鞘が杖なのか。しかし、お前が大魔法をスウィフトマジック化出来る事を知っているとは……少々驚いたな?」
ビリーがバルンの背中にある鞘を指差して言う。
「ちょっと魔法に詳しい人と知り合いになったもんでね」
「名は?」
「教えるとでも思ってるのかねぇ……」
目を細めるバルンを前に、ビリーがくすりと笑う。
「今の回復魔法……何故私が許したかわかるか?」
「…………さぁね」
「お前にとってそれが最後の魔力だと知っていたからだよ、クククク」
直後、ビリーの笑い声が止まる。
「ほいのほいのほい! 聖生結界&リモートコントロール!」
「なっ!?」
後方から飛んできたガストンへの内部回復魔術。
大地に膝を突くガストンは、静かにその温かみへ身体を委ねる。
(――――リナ……か。何故、何故、何故、何故………………いや、言うだけ無駄か。あの小僧の生徒なのだから……)
――ほぉ、この時代にこれ程難解な魔術を使える者がいるとはな。しかし、この魔術……いや、魔術自体にそれはない。もっと根本的なところに感じるこの懐かしさは…………一体? そしてあの掛け声…………どこかで聞いた事があるような?
「ふん! ギヴィンマジック!」
続き駆け付けたオルネルがガストンの足下に向かって魔法を放つ。
「――ほいのほい! オールアップ&リモートコントロール!」
そしてフユがガストンの身体に強化魔法を掛けた。これによって身体への苦痛、負担を減らしたのだ。
「まったく……馬鹿しかいないのか、儂のところには……」
――まただ。あの掛け声、この身体強化魔法。どこかで、どこかで見た事がある。誰だ? 我が主ではない。もっと温かく、そして熱いヤツだった……。
「ははははは、そんな死にぞこないに何をしても無駄だ! ふん!」
そう言ってビリーは魔力弾をフユの後方へ飛ばした。
狙った先にあったのは、空間転移魔法陣。
「これで逃げられる事もないだろう。たとえ魔力が残っていたとしても、私がそれをさせないからな」
「逃げる必要などない」
いつの間にか立ち上がっていたガストン。
欠損した左腕、まるで自分がその左腕の代わりをすると言わんばかりに、フユがそこへ立つ。
そしてそんなガストンを守るようにバルン、オルネル、リナが前に立ち、バラード、マイガー、リッキー、プラチナがビリーの後方に立った。
十八の強い視線を受けながらも、ビリーが笑う。
「ふふふふふ……これで、勝てるとでも?」
「勝てる勝てないではない……」
ガストンの目が見開かれる。
「今ここに立つ勇気! それこそが小僧の! アズリーの残した最大の戦果よ! ハハハハハハハハハッ!!」
ガストンが声高らかに笑い、この場にいない愚者を褒め称えた。
そして、
――――アズリー……?
ガストンの魂の器となったバディンに……変化が起きる。
22時、23時に残りの二話を予約投稿しております。
是非ご覧くださいませ。
というか、300話! 凄い! 未知の領域!




