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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第八章 ~聖戦士編・後編~

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◆248 ドリニウム鉱石

「マスター! そこですそこ! 右! 右! はい左!」

 シュッシュと前脚を前後にパンチを模するように叫ぶポチ。

「賢者パンチ! 賢者パンチっ! け~んじゃパンチ! こはぁあああっ!」

 ヒュドラ。この時代に存在したといわれる九つの頭を持つ蛇のモンスター。
 強力な再生能力を持ち、アズリーの愚者の拳を正面から持ちこたえている。
 その二十匹のヒュドラを前に、アズリーも引けをとっていない。
 一人のアズリー()を前に、全てのヒュドラで当たれない大型モンスター特有の弱点が浮き彫りとなっているからだ。
 触手に捉えられたポチは、四肢を幾度となく掴まれながらもその度に迫る触手をポチレーザーで焼き切っている。
 一進もせず、一退もせず。
 アズリーとポチは戦いながら形勢を逆転出来る術を探していた。

「むはぁっ!」

 マントを(ひるがえ)しながらヒュドラの首を身体ごと蹴り上げるアズリー。

「一瞬だけ時間を作るぞ! ポチ!」
「タイミングは!?」
「とろぴかる~!」
「猫まんま!」

 アズリーの合図とポチの息が一瞬で合い、ポチは(きわみ)ブレスを吐き、アズリーは一気に魔力を放出した。
 アズリーは一瞬だけ究極限界(アルティリミット)状態となり、膨大な魔力放出によってヒュドラが怯む。
 この隙を()き、魔法陣を宙図(ちゅうず)するアズリー。

「ほほい! モンスターネームロック! コード、『ヒュドラ』!」

 瞬間、まるで時が止まったかのうようにピタリと動かなくなるヒュドラ。
 それでも、アズリーの顔に余裕は生まれなかった。背後でデッドグッドフレグランスを威嚇し続けるポチを助けるために、後方へ跳んだのだ。
 だが、この時既にほぼ全てのヒュドラの身体が動き始める。

「くそっ! やっぱりこのレベルの相手にゃキツイか! ほれ! ポチ、手を!」
「いやぁあああっ!? 私脚しかありませんっ!?」
「んなボケはいいんだよ! 引っこ抜くぞ! おりゃ!」
「とうっ!」

 ポチの右前脚を掴み引っ張るアズリー。
 すると、デッドグッドフレグランスの触手は樹木が割れるような音を発しながら引き千切られたのだ。

「あ」
「っ!? ひょええええええええええええええええええええええっ!?」

 触手から一気に解放されたポチはアズリーの腕力で洞窟の奥へと消えていく。

「……ま、大丈夫だろう! ほい! 盾頑防壁(じゅんがんぼうへき)!」

 ヒュドラがジリジリと近寄り、アズリーの後を追ってくる。
 アズリーの放った盾頑防壁(じゅんがんぼうへき)は、きんと甲高い音を発しヒュドラの進路を塞いだ。
 アズリーとヒュドラたちの間に見えない光の壁が構築される。
 ヒュドラの強力な圧に罅が入る盾頑防壁(じゅんがんぼうへき)
 だが、アズリーにとってそれは十分な時間を稼ぎとなったのだ。

「確かこうだったな……ほいのほいのほい! 炎極地獄(えんごくじごく)!」

 かつてバディンが放った灼熱の炎地獄の魔術。
 アズリーはそれを見様見真似で発動し、盾頑防壁(じゅんがんぼうへき)の奥。つまりヒュドラやデッドグッドフレグランスがいる方へ放ったのだ。

「「ギァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」

 二十匹のヒュドラとデッドグッドフレグランスは、悲鳴のような奇声をあげ、身体を焦がしていく。

「もういっちょ! ほいのほいのほい! 炎極地獄(えんごくじごく)!」

 非常に高度な魔術の重ね掛け。
 これにより、炎熱で焼き尽くす時間は初期化される。

「おらっ! ほほい! インフェルノ・カウント10&リモートコントロール!」

 上級系の火魔法が更なる熱を加え、アズリーの視界は太陽のように眩しくなった。
 やがて魔法も魔術も消え、焦げ(くさ)(にお)いがアズリーの鼻を突く頃には、視界から脅威は消え去っていた。

「ふぅ……ヒュドラがまっすぐデッドグッドフレグランスのテリトリーに入ってくれなかったら危なかったなぁ……あれ? あの鳥犬はどこ行った?」

 一息吐いたアズリーだが、肝心のポチの事を思い出す。
 頭をポリポリと掻きながら、ポチが飛んでいったであろう洞窟奥を歩いていくアズリー。

「おっ、いたいた。おいポチっ、大丈夫か?」

 頭部に見事なタンコブを作っていたポチをアズリーが揺する。
 すると、うめくようなポチの声がアズリーの耳に届く。

「おい、おい! しっかりしろポチ!」
「う~~ん、むにゃむにゃ……もう食べられませんよー……」
「全世界でポチしか言わないような寝言だな」
「食べますけど。むしゃむしゃ」
「こら、マントを食うんじゃない! ほれ! 起きろ!」

 今度はポチの身体を強めにガクガクと揺するアズリー。

「あ、マスター! ご馳走様ですー!」
「そこはせめておはようだろう?」

 ポチの寝起きの言葉に呆れるアズリーは、ポチのタンコブを見て首を傾げる。

(はて? 天獣の力を得て頑丈なポチがここまで外傷を負うのは珍しい。俺の腕力以外の要素が働いて……い、るっ!?)

 咄嗟に投げ放ってしまった角度から、ポチの頭の着弾点を予想し頭上を見上げたアズリーは、その眩い光景に目を疑った。

「な、なんだこりゃ…………」

 異変に気付いたポチは、アズリーの視線を追い、頬を両の前脚で覆った。

「て、天井が……真っ赤です……!」
(いや、微かに鉄鉱石のような色合いも見える。斑に入る赤色部分だけ発光しているのか……)
「……これが、ドリニウム鉱石か」
「おー! やはりこれがそうなんですね! さぁ! ちゃっちゃと削って持って帰りましょう! ……………………ところで、こんな硬そうな鉱石をどうやって削るんです?」

 可愛らしく首を傾げたポチは、そんな純粋な質問をアズリーに向けた。

「もしかして、これが今日一番の強敵なのでは?」

 ヒュドラやデッドグッドフレグランス以外にも、ここに来るまでに幾度かモンスターと戦ったアズリーたち。
 そんな過去を払拭する程、目の前に現れた問題は、正に鉄壁だった。

(しっかし、ここの雰囲気どこかで見たような?)

 ポチと同じように首を傾げたアズリーは、頭の中の記憶を辿っていた。
 しかし、もう少しで思い出せるというところで、自らの使い魔に邪魔されてしまう。

「マスター! ゲート・イーターとかどうです!?」
「おぉ! そりゃいいな!」

 珍しいポチのアイディアに助けられ、ぱっと顔が明るくなるアズリー。
 その時には、既にアズリーの頭の中からは先程の疑問は綺麗になくなっていた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「うし、こんなもんだろう。ストアルームに天井が崩れない程度にドリニウム鉱石は詰め込んだし、ガルムの希望は満たしているだろう」

 腰に手を当てて一息吐くアズリー。
 そんなアズリーを横目に、ポチは改めてゲート・イーターによって削られた場所を見る。

「何か凄くサッパリしましたね、ココ。まるで細長いお部屋みたいになっちゃいましたよ?」
「ふっ、こうやってこんな適当な部屋が古代遺跡みたいな扱いになっていくのだよ、ポチ君!」
「おぉ! つまり私たちが今、歴史を作っているんですね!?」
「ふははははは! その通りだ!」

 大きく笑うアズリーを見て、ポチも真似るように大きく笑う。
 それは洞窟内に響き渡り、反響した。
 やがてその反響がなくなり、アズリーとポチは呼吸困難に陥る程笑い、静かになった。

「「こへっ!」」

 自分で招いた事態に、ジタバタしながら二人は徐々に回復をみせる。

「あ~~~~…………苦しかったぁ……!」
「し、死ぬかと思いました!」
「流石にアレは魔法じゃどうにもならんからな。これからは気を付けよう」
「ですね!」

 ポチが両前脚をグっと脇に寄せ意気込む。
 そんなポチをくすりと笑ったアズリーは、そのまま地面に空間転移魔法陣を設置した。
 行先は当然ソドムの街。
 起動を知らせる発光をその目で見た後、ポチが空間転移魔法陣に乗り、静かに消えていく。
 その際、ポチはチャッピー仮面と同じポーズをとっていた。

「ったく、黙って転移できんのかアイツは……」

 溜め息を吐きながら空間転移魔法陣に乗るアズリーは、最後に削られた場所を見ながら……やはり首を捻った。

(う~~~~ん、どこかで見た気がするんだが……?)
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