185 魔力大放出
…………何だ。
「ぜっ、はっ、ぜっ、はっ!」
……何だ。
「くっ……ほいのほい、シャープウィンド・クロス! チャッピーさん! 後ろ気を付けてください!」
何なんだ。
「ち、父上ぇえええ! 母上ぇええええ!! ひぃいいいいいっ!?」
何なんだこのカラム山脈ってところはっ!
「マスター! 右にアサルトフライビーが四です!」
「ほほい! アースブラスト!」
「左! マンティスソルジャー三です!」
「こっの、ほほい、ボルケーノレイン!」
平均ランクA。
倒しても倒してもモンスターが現れる。休む暇なんて一切なく、別種族のモンスター同士が手を組んでいるんじゃないかと思う程だ。
ある程度はポチの速度で振り切れるが、チャッピーがいるとそうもいかない。
振り切れたとしても足場の悪さが、浮遊モンスターを引き寄せてしまう。
カラム山脈を登り始め、最初の三十分は大人しいものだった。
しかし、追われ、逃れ続けた結果、もはや下山は不可能だ。
背後にはいつかの炎龍を思わせる程の……いや、それ以上の数のモンスターたち。
種族が統一されてないせいもあり、対策が非常に困難である。
「マスター! いい考えがあります!」
「おぉ、何だシロ!」
「私の知る物語ではこんな窮地だと大体決まってる事があるんです!」
「だから何だ!?」
「窮地にこそ覚醒! さぁマスター! 今こそ眠れる力を解放して――アイタッ!? 何するですか!」
くそ、前に似たような事言われた気がする。
だが試すには良い機会かもしれないな。
「わかったよ! ちょっとやってみる!」
「嘘!? 本当にあるんですか!?」
ポチは絶対に信じてないだろう声で言った。
まったく。だったら言わないで欲しいものだ。
俺はポチの背に立ち、俺を見上げるブライト少年の肩をポンと叩く。
「いいですか、ブライト様! シロの毛皮を毟る程強い力で捕まってないと振り落とされますからね!」
「はい!」
そう言って、俺は後方に群れるモンスターの大群に杖を構えて跳び向かった。
「なっ!? 正気か父上!」
「マスターはお馬鹿さんですけど、気は確かです!」
フォローにならないフォローをポチが叫ぶ。
声に信頼が込められてなければ怒っていたところだ。
向かってくるモンスターの動きが遅く感じる。大丈夫、俺は強くなった。
あの時の感覚だ……思い出せ。
天獣、紫死鳥との遭遇。強烈な風圧で押しつぶされたあの時、俺は体中から魔力を解放した。
六法士が一人、輪廻の氷笑セイラと対峙した時、体中から溢れる魔力を放出した。
ジョルノが使っていた技。動きの一つ一つに魔力を利用し、流れるように発動した。
MPが十八万を超えた俺ならば必ず出来る。
かつて経験値の侵入を阻んだ、あの魔力の結界。今ならば――――
「だぁああああああああああああっほいっ!!」
内に溜めた力を解放するように、濃度の高い魔力をコントロール。
「ぬっ、く……この!」
動きこそまだぎこちないが、なんとか維持出来そう……か!?
「マスターッ!?」
「なんと、父上が!?」
「と……飛んでる……!?」
これだけ圧のある魔力を放出しているんだ。身体が浮きもするだろう。
だが、これは凄まじい魔力消耗だ。もっと凝縮し、余分な魔力放出を抑えて…………よし、いい調子だ。
これは……もしかして? いや、悩んでる時間はない!
「ホーリーワールド! デュアルドラゴン! フルスパークレイン!」
やっぱりそうか!
「何と!? 宙図なしで何でそんなにも大魔法を連射出来るんですか!?」
「あとで聞け! あとっ! ヘルスタンプ! アイシクルショット!」
「凄い……! 大魔法の連射で、溶けるようにモンスターが倒れていく……!」
ブライト少年の言葉通り、俺はモンスターの特性や種族など気にせず思いつく限りの大魔法を放った。
大魔法に消費される魔力より、この状態を維持する事の出来る時間の方が問題だったからだ。
時間にして約三分といったところだろうか。
ジグザクに逃げ回っていたポチたちが俺と合流し、その背後に迫った最後のモンスターたちを一掃した時、俺は膝を突いてポチの鼻先に倒れてしまった。
「わふ、お疲れ様です。マスター」
「おぇ……辛い、だるい、吐きそう……もう限界……!」
「ちょっとちょっと! そこに吐いたら噛み千切りますよ! 爪とか髪とか!」
痛みのない部分の選択にポチの優しさを感じるが、そこで笑っていられる余裕は、今の俺にはなかった。
ポチの鼻先から地に仰向けに倒れ、モンスターの死臭も相まって、俺はその場で嘔吐した。
気持ちが悪いというより、先程の魔力解放の副作用。もしくは身体の防衛反応だろう。
ポチとブライト少年は俺の背中を、様子が落ち着くまでさすり続けてくれた。
チャッピーも羽で俺を静かに扇ぎ続けてくれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから俺はポチに背負われ、山頂手前に丁度いい横穴を見つけ、そこで一日目の野宿を決めた。
火をおこし、周囲の安全確認を終えたポチが戻ると、ようやく回復してきた俺に詰め寄ってきた。
「さ、説明してもらいますよ!」
「えー、面倒臭い。あと、顔近いぞお前」
「マスターこそ、顔背けないでくださいよ」
だって顔近いんだもん。
ポチもそうだが、当然ブライト少年も興味深々なようだ。
チャッピーは未だに俺を扇ぎ続けている。顔に疲労が見える。本当に疲れている。
もう大丈夫なんだけどなぁ? まぁ、涼しいから嬉しいけど。
ポチに顔を背け続けても、ポチの顔は固定されたように動かな――
「ご飯はいつなんですかっ?」
その説明かよ。
「シロさん、そうじゃないでしょうっ」
ふむ、ポチに冷静に突っ込みを入れられる程度にはなったか。
こういった弟子の成長を見るのも楽しいものだな。
「あ、そうでしたそうでしたっ」と、本当に忘れていただろうポチは、てこんと自分の頭を叩いて舌を出して見せた。
「さ、ちゃんと説明してもらいますよ! マスター!」
ぼりぼりと頭を掻いた俺は、二人の視線に押し出されるように口を開いた。
「一時的に魔力の栓をな、ポンと引っこ抜いたんだよ」
「「魔力の栓?」」
二人して同じ方向に首を傾げて見せ、思わず吹き出しそうになる。
勿論ポチに怒られるからこらえてはいるが、これは面白い。
「魔力ってのは普段は人間の身体の中にあるもので、魔法や特殊技能を使う時にだけ外に出るんだよ」
「しかし、たまに強い魔力を感じる事はありますよ?」
「そ。でもそれは生きていく上で放出する日常的な力だ。だから魔力の強い人間程零れる魔力も多い」
こくこくと頷く二人。
「今回俺がやったのは日常的に零れる魔力の穴を一気に拡げたって事だ。自分で言うのもなんですが、結構な量だったでしょう?」
ポチにそう説明し、そしてブライト少年に聞く。
「えぇ、あれ程の魔力は初めて感知しました」
「だから急激に魔力が漏れ、内包する魔力が枯渇したんですよ」
「……そういう事でしたか」
得心したように少し目を伏せたブライト少年を横目に、ポチが疑問になったであろう事を聞いてきた。
「宙図無しで魔法が使えたのは何故です?」
それは気になるよな。
「うーん……説明したいのは山々なんだが、難しくてな? あの状態だと出来るって事くらいしか言えないなぁ」
俺の嘘に気付いてか気付いてないのかわからないが、ポチは目を細めて「ヘー、ソウデスカー」と呟いて言った。
まぁ、意図には気付いてくれたみたいだからいいだろう。
正直俺もよくわかっていない点もある。
だが、おそらくあの魔力解放状態は、簡易的なスウィフトマジック空間だ。
自身の頭の中にある魔法陣を際限なく発動出来るものだろう。
本当は魔力の衝撃波を使いモンスターを退治しようと思っていたのだが、自然と身体がそう動いた。
あの状態になった時に身体が気付いたんだ。
しっかし……あれは使いどころの難しい技だな。
うまく調整して三分。それだけで十八万もの魔力が一気に消費された。ギヴィンマジックを使っても無理だろうし、いつでも使えるという訳じゃない。
十の魔の錬度を上げた方がよっぽど効率的だ。
いざという時、そんな時がきてはいけないのだろうが、そんな時にしか使えないだろう。
そんな事を考えていると、またもあの方からの念話連絡が届く。
『どうしたんです、ジュン様?』
『あ、あぁ、ポーア殿か!』
何やら少し慌てた様子だが…………はて?
『すまない! 昨晩は気が動転していてな。カラム山脈を越える際は、必ず麓にある洞窟を通ってくれ。山には無数のモンスターが蔓延っているからなっ。くれぐれも弟を……ブライトをあそこへ連れて行かないでくれ』
もっと早く知りたかったです。それ。




