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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第五章 ~古の放浪編~

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143/496

◆142 全力全開

「ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」


 アズリーとポチを捉えて離さない巨大な瞳を持つその巨人は、大地を揺るがす雄叫びをあげた。

 抱き合うように身を寄せる二人は、横歩きをしながら静かに後退していく。

 巨大化しているポチに覆い被さられているアズリーが、ずれている眼鏡を直しながら囁く。


「……ポチ君、助けてくれたまえ」


 ポチの本名を言うアズリーだが、既に遠くに見えるジョルノに気遣う事はなかった。


「……アズリー君のお力でなんとか……」

「無茶言うなよ。だが……」

「そうです。なんとかしないと、死、あるのみですよ……!」


 アズリーは頭の中にいる感情を抑え、理性と知性を総動員させながら現状打破の道を探る。


「ど、どうするんですか、マスターッ!」

「そんなの…………逃げるしか……ねぇだろ!」

「その言葉を待ってました!」


 そう言うと同時にポチが駆け始め、アズリーが背中の毛を片手でわしっと掴みながら引っ張られる。


「て、てめっ! 俺を置いてくつもりだっただろ!?」

「そんな訳ないじゃないですかっ! たぶん!」


 後ろ手に背中を掴むアズリーはポチの動きに、柳が風に靡くように揺らされている。

 ポチが走りながら気合いを入れる。疾風と軽身の発動である。


「多分って、ぬお! ……くっ、このぁああああっ!」


 アズリーも気合いを入れ、剛力と剛体を発動させる。

 ポチの背中を掴んでいた左手が一気に膨張し、肥大を見せると、真っ赤な顔のアズリーがようやくその背に跨る。


「って、マスター!? 向きが逆じゃないですかっ!」

「しょうがないだろ! いいからこのまま走り続けろ! って避けろ避けろ避けろ避けろぉおおおおおおっ!」


 いつもの向きとは逆に跨ったアズリーは、正面に見据えたジャイアントマーダラーが開く口を視認し、ただひたすらに叫ぶ。


「避けろって、どっちですか!?」

「左! あ、やっぱ右! 上だ上だ上だぁあああああああああああ!」

「くっ、いきます!!」

「ほい、フワァールウィンド!」


 ポチの跳躍と合わせるように足下に魔法を放ったアズリー。

 想像以上の大ジャンプを見せたポチは、上空で悲鳴を上げ、下降と同時に更に音量を上げた。

 着地の瞬間にアズリーが同じ魔法を放ち、地面との衝突を免れたポチだったが、一瞬にしてやつれてしまったのは言うまでもない。


 二人が後退した事を見送り、二体のジャイアントマーダラーと戦うリーリアが叫ぶ。


「おい! あの二人逃げたぞ!」

「はははは、逃げちゃったねぇ~」

「ったく…………これどーすんだよ! ボケナスジョルノ!」

「ま、二人で何とかするしかないねー」

「くそっ。あの疫病神共っ!」


 そう吐き捨てたリーリアを横目に、ジョルノが二人が向かった方を見つめる。


「おい! 手伝えよジョルノ!」

「はいはい」


 剣を片手に軽く振りながらリーリアの下に加勢に向かうジョルノ。

 その口元は、どこか何かを含んでいるようだった。


 空からの落下に息を切らし、心臓に手を当てるポチが叫ぶ。


「もうっ! 寿命が五年は縮まりましたよ!」

「俺もだよ!」

「そんなもの、あなたにはないでしょう!!」

「お前もだよ!! ほら、止まるな! 前行け前!」


 絞るような声と共に再び駆け始めたポチの背で、アズリーが宙図(ちゅうず)を始めた。

 ジャイアントマーダラーも二人を追うように歩き始める。


「攻撃魔法ですかっ!? そんなもの、この距離で届くんです!?」

「やるっきゃないだろう! ほいのほい、ファイアランス!」


 中級系火属性魔法ではあるが、アズリーはこの時、飛距離を考えてこの魔法を放った。

 ファイアランスは対象に当たるまでの飛距離に優れ、同時に宙図(ちゅうず)しやすいといった利点があったからだ。

 そして、アズリー自身が公式無視の改良魔法式にしているため、その威力は本来の上級系魔法に匹敵する。

 ジャイアントマーダラーに届かせる事、そして上級系魔法がどれ程効果を示すのか、判断するためでもあった。


「ど、どうですかっ!? 当たりましたかっ!?」

「大変だポチ!!」

「どうしました!? マスターッ!」

「小バエでも払われるかのように『パチッ』ってなったぞ、『パチッ』って! こりゃ特級の大魔法でも効果は薄いぞ!」

「何呑気に言ってるんですか! 早くなんとかしてくださいよ!」

「そんな事言ったって有効な魔法がないんだよ!」

「前に見せてくれた《ポチ・パッド・ボム》はどうですかっ!? ポチって付いてますよ!」

「ボムじゃ威力が足りないし、《ポチ・パッド・ブレス》だと範囲が広すぎてジョルノさんやリーリアさんを巻き込んじまう!」

「はっ! そ、そうです! アレですよアレ! 《驚異のオリジナル魔法》ですよ!」


 息を切らし、走りながらポチが叫び、思い出すようにアズリーは息をのんだ。


「そうか、ゲート・イーターかっ!」

「です!」


 二人の脳内に一筋の光が宿り、同時にそれは二人の顔に笑みを作り出した。


「距離が遠い! ポチ! 百メートル以内まで近づけるか!?」

「嫌です! ですが、やってみます!」

「ほほい、パワーバリア・カウント2&リモートコントロール!」


 即座に対物衝撃魔法を二人に発動するアズリー。

 ないよりはマシ、と考えた上での発動だという事はポチも気付いているだろう。

 そのポチは円を描くように方向を変え、弧を描くように跳び上がる。正面から再びジャイアントマーダラーがブレスを吐こうとしていたからである。

 宙図(ちゅうず)に集中するアズリーは、跨っている向きを正す事なく、ポチに身を任せている。

 リーリアと二体のジャイアントマーダラーの怒号、そして剣撃による衝突音が近くなってくる。

 ジョルノは、近づく二人の気配を肌で感じると、くすりと笑った。二人の撤退がただの撤退で無かったと、最初から知っていたのだろう。


「何だよ、やつら戻ってきたぞ!?」

「そんな怒るなよリーリア。これがポーアさんたちの戦い方なんだか、らっ」


 ジョルノはにこりと喋りながら鉄塊の剣撃をかちあげる。


「あんな逃げ腰の戦い方、私は知らない、ねぇっ」


 受けに回ったジャイアントマーダラーを、リーリアの一撃が押し、敵の身体を浮かせ、吹き飛ばした。

 ギョっと驚いた顔を見せる巨人たちは、不気味さ漂うリーリアの笑みに背筋を凍らせる。


「その口、耳まで届きそうなくらい開いてるぞ」

「知らないねぇっ!」


 大剣を担ぐように走り出すリーリアの背中を追うように、後ろからポチが駆けてくる。


「行きますよ、マスター!」

「――ぉおおおおおおおおおおおおおおっ――――っほい! 喰らえ、ゲート・イーターッ!!」


 跳び上がるポチの背の上を反対向きに跨る魔法士アズリーは、一つ目のジャイアントマーダラーの肩を跳び越えた時、その巨大な後頭部に向けて漆黒の魔法を放った。

 瞬間、一つ目のジャイアントマーダラーの頭は消え去り、落下の最中、ポチが地面に向けて吐いた(きわみ)ブレスにより、着地の衝撃を和らげた。

 突如戦闘不能になった仲間に意識を奪われた残りの四体。その犯人をアズリーと捉え、四体は一斉にアズリーたちに殺気を向ける。

 戦闘はまだ終わっていないのだ。

 そして、その事を理解していないジョルノとリーリアではなかった。一瞬出来た隙を突き、二人は一体ずつ(とど)めを刺していたのだ。

 ずるりと落ち始める巨大な頭部が落ち切る寸前、アズリーが再び叫ぶ。


「エネミートラップ&グラビティストップ!!」


 がくりと肩に……いや、身体全体に重さを感じた残りの二体。

 その実力から膝を地に付けさせる事は出来なかったが、作り出した隙は、二人にとって十分なものであった。


「ポーアさんナ~イス♪」

「……ちっ、気に食わないねぇ!」


 十字を切るように二人の身体が舞い、ジャイアントマーダラーの肩の上で納刀した時、全ては終わっていた。

 崩れるように落ちて行く二体の身体を利用し、ジョルノとリーリアが降りてくる。

 四つん這いになり、涙目になり、息を切らし、鼻水を垂らすポーアとシロ。


「ぜっ、ぜっ……こひゅっ! 全世界の空気が欲しい……かっは!」

「ひぃいいいはぁああああ、ひぃいいいはぁああああ…………マスタ……空気、分けてくださ――――かっは!」


 ジャイアントマーダラーの身体が四方に倒れる頃、ジョルノは呆れた顔で。リーリアは不満げな顔で二人を見下ろしていた。

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