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◇いざなぎの姫◇  作者: 振木岳人
私立青嵐学園、学園生活編
8/113

グリルハウス「極東テキサス」




私立青嵐学園


長野市の北部に近年出来た、新興住宅地の一角にそびえる私立学園。


新興住宅地が出来る以前…田畑しか無い農地にポツンと学園は存在し、田舎の私学と言う、泥臭いイメージしか無かったのだが、

昨今の「大」住宅地造成ブームに便乗し、最新鋭の近代施設を持った、

田舎ではあっても「ハイセンス」な学園に生まれ変わったのだ。


そして私立らしく、公立学校とは違うセールスポイントを全面的に打ち出し、

多くの学生を呼び込む事に成功した学園である。


【文武両道】

【頭でっかち、筋肉バカはいりません】

【学園生は必ず部活に所属する事】


明治初期の頃は単なるさびれた私塾だったのだが、現会長である緋後松蔵ひじりまつぞうのスローガンの元、

拡大は留まる事を知らず、今では地元の子供達のみが進学する私学の殻を完全に破り、

全国から生徒が集まるまでに至っている。


昭和の時代から平成にかけて、あっという間に全国的にも優秀な「進学校」「スポーツ振興校」に登り詰めたのだ。


そして最早、長野市北部の新興住宅地は、私立青嵐学園の学園都市と言っても過言では無い程に、

青嵐学園を中心とした賑やかな経済・生活圏が成り立っていた。


私立青嵐学園を起点として、東西南北を縦断する片側二車線の大通り。

その南北通りのちょっと北側、様々な店が並ぶ道沿いに「FEテキサス」と言う名前のレストランがある。


FEと言うのはもちろん、ファー・イースト「極東」を意味しており、店主が【極東のテキサス】を看板にしているのは、

それなりのクオリティを自負している表れかも知れない。


そんな、ログハウス造りの「極東テキサス」のテラスに、朝食代わりのチキンブリトーを、

ホットコーヒーで流し込む徹平の姿があった。


春と言っても四月の中旬を過ぎないと桜さえ咲かない長野。

未だに寒さは人の肌に突き刺さり、客は暖を取る為に店内のカウンターやボックスに陣取っているのだが、

徹平だけがテラスのテーブルにこじんまりと居座り、通り過ぎるサラリーマンや青嵐学園の学生達を尻目に、

黙々と「朝からヘビー」な料理をやっつけている。


すると


(うむ、このハッシュポテトと言う物もなかなかに美味だな)


徹平の足元、歩道際で徹平のおこぼれを、美味そうにほうばる柴犬がいた。




徹平「あんまり食べ過ぎるなよ、栄養過多で仏になるぞ」




(ぬかせ小僧、こちとら大化の改新から土地神護っとんじゃ。今さら栄養が云々なんぞ、片腹痛いわ)




徹平「昨日は元寇の頃からって、言ってなかったか?」




(…いちいち小うるさいガキめ、だから人間は好かん)




そう。


何故徹平は一人で、この寒空の下で朝食を取っていたのかと言うと、

昨日、神社の広場で徹平が【下着泥棒】の濡れ衣を着せられた事件の、

その事件の張本人である柴犬に、徹平の朝食を分け与えていたのだ。




徹平「人間嫌いのクセに、女の下着は大好きなんだな(笑)」




(もうその話はよかろう!悪かったと言っておる)




徹平「ま、時の概念を忘れた者には、戯れの一つも必要か(笑)

ほどほどにしとけよ、スケベ爺さん」




(うん、ほどほどにしとく。だからハッシュポテトもう一個くれ)




尻尾を振りながら徹平の足元に「お手」を繰り返す柴犬。




徹平「もう全部食っちゃたよ」




(うわあああん!お前はひどいやつだ!面白い情報を手に入れたが、誰がお前なんかにしゃべるか!)




徹平「何だよそのフラグ(笑)」




(興味あるだろ?興味あるだろ?)




徹平「無えよ、そろそろ時間だから俺行くわ」




(つまらん…。ホントつまらんヤツじゃのう…)




まるで漫才の様な会話を重ねる徹平と柴犬。

その二人の間に、いきなり割って入るかの様に、店内からエプロン姿の少女が勢い良く出て来る。




少女「大変お待たせしました♪当店自慢の特製テキサスレンジャー弁当です。

冷めてもレンジ不要!美味しく食べれますよ」




そう言いながら、茶色の紙包みを徹平に渡す。




徹平「ありがとう」




特製テキサスレンジャー弁当を受け取る徹平。

よく見るとエプロン姿の少女は、そのエプロンの下に制服を来ているではないか。




徹平「君、もしかして青嵐学園の…?」




少女「はい♪家の手伝いが朝晩の日課でして」




どうやらこの少女は極東テキサスの、店主の娘らしい。




少女「あっ!そろそろ急がないとお互い遅刻しますよ!」




そう言いながら少女は徹平にウィンク、慌ててエプロンを脱ぎながら店内に駆けて行った。


店に入って行く少女の背中。しばし見つめる徹平の足元で、柴犬はまた、本領を発揮する。




(あの娘、白と青のストライプだった)




徹平「いい加減殴る」




(この角度なら、見たくなくとも見えるんじゃ!不可抗力と言う言葉を知らんのかお前は)




徹平「はいはい」




徹平がいよいよ席を立ち、茶色の紙包みと鞄を手に歩き出そうとした時、

柴犬が淡々とした口調で喋る。


先ほどまでの漫才の様な、喜怒哀楽に溢れた口調はそこにはなく、今伝えている情報が、いかに重要なのかと言う事を、

柴犬はその抑揚の無い声で表していた。




(得体の知れない陰陽師が一人、この街にいる。目的は全くわからん、そして松蔵も気付いていない)




徹平「そっか…感謝する」




柴犬の話を「ピタリ」と止まって聞いていた徹平、言い終えるとまた、ゆっくり歩き出した。




(我が名は【百楼・びゃくろう】、いにしえより北の土地神を護る狛犬じゃ)




徹平「あらためて、俺は高槻徹平。四国土佐【いざなぎ】の流れを持つ、

裏緋後の退魔師だ」




徹平は冗談やおどけた仕草を一切排除し、鋭い眼光で百楼とあいさつを交わす。

そして、テラスから歩道に出て、学園に向かおうとした時、

極東テキサスの店の扉が開き、先ほどの少女が元気に飛び出して来る。




少女「いってきま~す♪」




店内にいる店主や手伝う母に向かって大きな声で挨拶し、徹平の横を横切って元気に駆けて行く。


どんどん小さくなるその後ろ姿を徹平は眺めながら




徹平「白と青のストライプ…か…」




と、小さな声で呟いた。


ふと、店内からの視線に気付く徹平。

その視線の先を確かめる様に、店内を覗き返す。

すると、店の厨房の中から徹平を見詰める人物が一人、確かにいる。

少女の父…店長が、徹平に向かってピースサインをしているのだ。


(これからも極東テキサスをよろしくね♪)と言うサインなのかな?と、会釈して返す徹平。

実は、店主のそのピースサインには別の意味が込められていた。


フォークシンガーの様な、肩にかかるかかからないかの丸みを帯びた長髪。

そして揉み上げからアゴに繋がる立派なアゴヒゲ。

更に上唇を隠すか隠さないかのラインでまとめられた見事なヒゲ。


どこぞの往年のアクションスターを彷彿させるその店主は、

徹平を凝視しながらピースサインで次の事を伝えようとしていた。







(娘に手を出したら2秒で殺す)







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