序章「よこたわるもの」
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朝もやに煙る朝
未だに田舎の街は夜を引きずり、
交差点の信号・・早く誰かが訪れるのを待つかの様に、
楽しげに点滅を繰り返している。
新聞配達のバイクが街路を通り過ぎる。
その街路の先にあるのは国道、
次の街に繋がる道路…大動脈の一つ。
その日本全国津々浦々を繋ぐ、国道と言う名前の動脈を守る、
ガードレールの外側に・・
草むらに憐れに転がる死体があった。
未だ国道は閑散とし、たまに通る物流のトラックは
その死体にも気付かずに猛スピードで目的地へ向かって行く。
はらわたが裂かれ、内臓がからっぽになり
大の字になったまま、全裸で空を見つめる少女。
全身の血は抜かれたのか、辺りに流れる血は一滴も無い。
身体も綺麗なままで、おびただしく流れ出した血の跡さえ無い。
しかし、まさに【さばかれた】と表現しても過言ではない程に、みぞおちから下腹部に一直線に切り裂かれ、
そこから覗く光景はドス黒い空洞…空っぽ、まさしく空っぽ…。
血も、内臓も、魂さえも、もうそこには無い。
あるのは、中身を盗まれた、肉の塊。
ただただ・・空を見上げる憐れな少女の死体。
少女の、カサカサに乾ききった瞳に這う昆虫が、
少女の代わりに物悲しさを語っていた。
2013年の初夏、少女をターゲットにした、
猟奇的な殺人事件がこの国道で頻発する。
マスコミがセンセーショナルに取り上げ、日本中が震撼したこの猟奇事件。
まだこの時点では、人々は恐れ震え、好奇の眼差しで傍観してるだけであったが、
まさかこの事件が、日本の未来に重大な影を落とす深刻な事件である事を知る者は、
・・この事件の核心に触れる者は、まだ誰もいなかった。
序章
終わり