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●幼年期の記憶:しーちゃん

ここから姉幼馴染こと「しーちゃん」がからんできます。

わたしは意外なほど幼馴染ものが好きだったようです。エ●ゲやってるときはさっぱ気付かなかったけど。

それでも……僕がここまで生きてきて、その手の感情をさらけ出さなかったとは言わない。


僕は一人の女の子を想起する。


しーちゃん、と僕が呼んでいた、なんというか、こう、幼馴染だ。


より正確には、父の弟の娘……いとこなのだが、しーちゃんは叔父の再婚相手の連れ子だったので、僕と血のつながりはない。


が、それがどうしたというのだろう。


彼女は僕にとって、かけがえのない親友であり……姉のような存在だった。


幼馴染というのはそういう意味で、僕は彼女に心持のおよそすべてをさらけ出していたと思う。


僕は素直になれと、生まれてこのかた何度も様々な局面で言われてきた。

違う、僕はそれなりに素直だったのだ。


ただその「自然な素直さ」を率直に出すと、人からは皮肉とか呼ばれたりするのだ。


ある瞬間から、僕の心のある部分は凍りついてしまったのだろう。


それでも……それでもしーちゃんは、それすらも理解してくれた。


かけがえのない親友とは、姉とは、そういう意味合い「でもある」。


要するに僕は彼女には頭が自然と上がらなかった。


誰に対しても皮肉と冷たい言葉と、恐れを知らない客観的意見を述べる――自分の唯一の身内、父親に対しても――のが僕の常であった。


もちろん在る程度のユーモアに包む。糖衣に包む。


それでも物事の本質を掴むのに長けたいくらかの人にはしっかりと見破られていて――そう、世の中そんなに甘くはない、まあこういうふうに言われたものだ。


「なかなか計算高い」

と。


おそらく、しーちゃんは僕のそういうところを見抜いていた。おそらく、じゃないな。確実に。


それでありながら、というべきか、彼女は僕を受け入れてくれた……多分、僕が生まれてこのかた、それ以上他人に受け入れられたことはない、というくらい。


なぜなのだろう。


わからない。


ただ彼女は僕の姉たらんとしていた。


いや、正確に言えば「お姉ちゃんぶっていた」。


なるほど、今(というのは大学くらいの年代を指す)にして思えば、それは彼女なりの背伸びだったのだろう、と、当時は「?」と思っていた彼女の行動に、了解がつけられる。


いや、誤解してほしくないのは、僕はその行為に皮肉とか冷笑を浴びせるつもりは毛頭なく……むしろ笑う奴がいれば、僕は殴るだろう。


僕はただただ彼女に感謝していた。


僕のすべてを受け入れ、理解してくれ、愛してくれた彼女のことを。


僕が他人に受け入れられなかったり、学校で疎外感を覚えていたり、そういうのは、ごく当然の成り行きなのだ。


皮肉、客観的分析を第一に持ってくるような、いわゆる「情の薄い」人間に、誰が親愛の念を抱けるだろう? 猿だってわかる。いやむしろ猿のほうがわかるかもしれないな。


つまり僕は、大衆を軽蔑していた鼻もちならない猿以下の人間だということだ。そこまで言う。いうよそりゃあ。


今にして思えば、そんな人間を、誰が愛するだろう。


僕自身ですら愛せない人間を……


それでも、しーちゃんは愛してくれたのだ。


僕の人生で、しーちゃんが存在したことは、ひとつの幸福な定点となっている。そうでなければ、僕はよりこの世に悲観絶望していただろう。


僕が多少なりとも人間存在に対して、何がしかの温かみのようなものを、最後には期待してしまうのも、しーちゃんの教育……刷り込みのようなもの、それのおかげかもしれない。いうまでもなく、それは僕にとって、最低スレスレを回避する定点だったのだ。

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