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僕らは買ってきた荷物を区分けする。冷蔵庫は年代物だが、二人暮らしするぶんにおいては別に不自由ない。これもまた、僕が子供のころからあった冷蔵庫だ。使い方は誰よりもよく知っている。


「なんかこうやって生活するのも慣れちゃったよね。同棲みたい」


「ふむ、そう見えないこともないか」


しかし内心では盛大に吹いた。


同棲か……甘美な響きだ。とくにエロゲなんぞをやっていると、この言葉はまさに甘美に響く。


あのですね、マニアックな話になるけど、世の中には「恋人とイチャイチャすることだけを主眼としたエロゲ」ってものがありまして、シリウス『こいびとどうしですることぜんぶ』とか、SMEE「ラブラブル」、続編「同棲ラブラブル」とか。ほら、タイトルだけで全部わかっちゃうこのコンセプト!

そういうのプレイしてると、同棲ってやつに、そりゃ目もくらみますわな。批評の界隈においては一顧だにされず「ストーリー性皆無」とか嘲笑もんだけど、このジャンル。けど、この手のB級的な味わい、コンセプト明確故に、ノリ一発、甘さ最大限でごり押しするのは、まさにエロゲの原点にして極致じゃないですか。


我々批評家はそういった「ダイレクトな訴求力」「明快なコンセプト」を順守する作品を、しばしば「前衛性がない」「実験性がない」「結局は今までやってきたことじゃないか」みたいに片づける。僕もそれをしがちだ。


が、こと「楽しい!」の一点にのみ議論を集約させるという、批評のひとつの形からしてみれば……あー、めっちゃ話ずれたやん。


ともかく、事実上はいくらでも同棲扱い出来るのだが、いかんせんしーちゃんの方に恋愛感情が見受けられないこの淋しさ。


とはいうてもねー、僕の方からアタックかけようにも、「ゆー君としーちゃん」として培ったこれまでの付き合いを崩す、っていうのに、相当躊躇いがちになるのですよ。ジェンガとかドミノ倒しのレベルではなく、そうだな……例えれば、十年間所蔵してきた本の数々を、ある日突然全部売っぱらうのに近いかもしれない。心理的感覚からしてみたら。怖いでしょう?


恋人を得る得られないの問題ではない。だってすでに僕としーちゃんは、最大限に仲が良いのだから。


それを崩してまで……


いや、違うな。


「今は」崩したくない。


それよりも、今のこのひだまりの状況を十全に甘受していたい。贅沢だとは思うが、多分、しーちゃんも、僕ががっつくよりは、それの方を望んでいるだろう、と勝手に解釈しておく。


童貞心丸出しだな……とか言わないでほしい。僕だって色々考えているのだ。


話を最初に戻そう。なぜしーちゃんが僕の家にいるのか。


これは、ひとつの不幸な出来事があったからで。


しーちゃん、住んでる高級マンション追いだされたのだ。


めっちゃ語弊がある言い方やん。なんかしーちゃん悪いことしたのか、って。


なんも悪いことはしてない。ただ「シーナ・ヒラサキ」であったからこその事件だった。


かいつまんで説明するとこうだ。


しーちゃんのマンションは、さすがにセレブ向けの住宅だけあって、設備はしっかりしていて、セキュリティも万全……のはずだった。ところがフリークマニアの熱情とは恐ろしいもので、どんな手を使ってきたか、そのセキュリティを抜けて、そのマンションに住むセレブたちの個人情報をストーカー的に漁っていったのだ。ゴミとか、帰宅時間、誰が住んでいるか。


へんたいだー! というは容易い。だが問題はそこから生まれ出る個人情報漏洩である。このtwitter全盛時代、スターと一般人が「友達感覚」になるのを、一般大衆は求めている。それが「応援してます!」「ありがとう!」の連鎖だったら全く問題ないのだが、「昨日何食ったの?」「えーと……」の領域にまで、大衆は求めるようになっていった。お前の友達じゃねえだろうが、と言いたくなるが、これが世界的な潮流なのである。


で、その賊ども、その個人情報を、こともあろうにtwitterで流しやがった。もちろん即刻逮捕であったが、その賊のリーダーが、平崎詩名の熱烈なファンで、そもそもこの計画を立てたのも、しーちゃんに「オチカヅキ」になりたいという変態性からくるものであった。


そこで話は終わっていればよかった。


だが、マンションの住人、および近隣住民は、表向き「設備点検のため」セレブ住民の一部避難を求めたが、実のところはしーちゃんを追いだす、ということをしでかしやがったのだ。


要するに、しーちゃんがいたからこういうことになったのだ、みたいな、極めて日本人的な汚い押しつけである。明らかにおかしい理屈なのだが、なんつーか、そこらへんに住む古参連中が、ある種の妬みを持ってたようで、その上こんなセキュリティ破壊までもたらされるようでは、よけいにしーちゃんに対して、いろいろな思惑が混ざった怨念をかもしだす、という、すげー嫌な空間になったという。そのマンション。


だからしーちゃんは黙って出ていった。


論破することはいくらでも出来たはずだ。それをしなかったのは、相手が論派する価値のない人間どもだったからだ。


「みんな普通の人みたいだったけどねー」


としーちゃんはいうが、ひと皮向けばこんなもんか、と、僕は恐れ入った。日本人の妬みパワーすげえね。


折しも、というか、ちょうどよかった、というか、その事件が起こったのと、僕のこの家の入居の時期が全く同じだったので、しーちゃんはめでたく僕の家の居候と相成ったのだった。


はじめしーちゃんは申し訳なさそうにしてたが、僕としては願ったり叶ったりだったので、


「大女優シーナ・ヒラサキがこれくらいでくよくよしていてどうする! 凡愚を超越し、高みに立てよヒラサキ! 僕の家に居候するくらい気を使っていたら、いい役もとれないぞ!」


みたいにからかったら、


「うー、弟のくせに、高みから見下ろして、なまいきー!」


そして首をきゅっと締められた。ちょう楽しかった。


まあ、そんなこんなで、僕としーちゃんは一緒にいる。

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