●流麗なる南方大雪&電流少女(ライトニングエレクトロ・ガール)としてのテレジア(1)
テレジア登場です。
ツンデレですが、ラブはありません。ラブのないツンデレって、なにか意味あるんでしょうかね……
「何でお前、そんな外見でエロゲオタなんだろうな」
ほとほと感心したように大雪が言う。
「その言葉、そっくりそのまま返したい」
僕は言う。
「これはな、セリシャやマコやなずなたんや紫花たんに恥じない男でありたいと願っているからだ」
「嫁、変わったね」
それには答えず、大雪は続ける。
「他のオタクはどうだっていいが、俺の場合、美少女があんなにかわいくて、素敵な格好をしているのに対し、俺はどうなんだっつー話で。やっぱ、身なりを整えんとならんだろう、彼女らを迎える人間としては」
「あまりいないけどね、そういうふうに考える人」
「なんでだろうな?」
「仮説をたててみるとすれば」
「よ! 理屈屋!」
「……褒められてるのか? まあいい。これもまた『コンテンツ消費』の一言で片づけられる」
「あー、つまり、萌えて萌えて萌えまくって、金をつぎ込んでくれればそれでいい、オタクの人格なんてどーでもよろしい、そんなことか」
「コンプガチャがいい例じゃないか。少々のテクニックは必要とされる。多額の現金は必要とされる。しかし人格はいらない」
「また、ブヒるのにも、人格なんて余計なものか、とすら言えるな」
こうやって頭の早い返しが返ってくると会話は楽しい。
「ブヒるために人格をなくしたのか、そもそも人格がないからブヒるのか、難しいところではあるな。論理学だ。卵と鳥、シュレディンガーの猫」
「観察対象の存在が立証されてるんだから、猫を持ち出してくるのは例示として変だろう」
「覚えたばっかの言葉を使ってみたかったんだよ」
「ふん、中二病か。君もまだ青い」
「なんだとこの野郎!」
そう言って大雪は僕の頭をヘッドロックし、げんこつをぐりぐりしてくる。
傍からは微笑ましく見られている(主に女子)。
まあ……僕としても、ホモセクシュアルな気持ちをこいつに抱いているわけではないが、多分この手のスキンシップを同性で許すのはこいつだけだろうな、という気がする。絶対言わんけど。
「あれ、ところで、この授業って、お前とテレジア一緒だったよな?」
「うん」
大雪が、僕のもうひとりの友人の名を言ったので、僕は答える。
「てっきりお前にまた突っかかってるんだと思ったが。またお前が粉砕しきって、べそかいて逃げたか?」
「いや、図書館に調べ物に……」
なんて話しておると、
「大雪! 私を馬鹿にするな! そして祐! 待たせたわね勝負よ!」
金髪の美少女が入ってきた。
目は黒く、顔は小さい。それでいてブロンドの髪はゆるやかにウェーブしている。小ざっぱりしたブラウスに、黒のチェックのスカート。気持ちパンクっぽい。アクセも下品にならない感じにつけている。嫌いじゃない。うん、全然嫌いじゃない。若いんだもの、これくらいしなくちゃ(おめーは何様だよ)。
一言で表すなら、子猫のような、というか、小鳥のような、というか。とにかく元気いっぱいって感じである。
彼女はテレジア・小倉。その名の通りハーフである。
上に書いたように、見てくれ派手な人である。そしてそれを、大雪と同じように、隠そうともしていないので、余計に輝いて見える。僕とはエライ違いだ。
そんな彼女であるが……
「なんだ、やっぱりお前らケンカしてんじゃないか」
大雪が「いつものことか」みたいな目線。
「しょうがないじゃないのよ、私が完璧な式構築で回答を導き出して勝った、と思ったら、こいつは『合ってはいるが、僕ならこっちの解析モデルを使う。その式だけだと、それ以上の発展は見込めない。これは面白い問題だ。ここから別の問題を作れる』なんてえらそーに言うんだもの!」
「で、調べてきてどうだったの?」
「……悔しいけど、合ってたわよ。確かに面白いわよ。悔しいけど。悔しいけど」
「どんだけ悔しいねん」
「ていうか祐! この解析モデル、講義で習う……というかこの学年で習うのを越えてるのよ! 卑怯よそういうの持ち出すの!」
「僕は知ってて君は知らなかった。ただそれだけの話じゃんか」
「くっ、これが勝者の余裕ね!」
「勝者、の定義がわからないな。あの式がわからなかったのならそうかもしれんけど、君、こんな短時間できちっと理解してきたじゃん」
「そりゃそうよ、構造は違うとはいえ、基礎理論に関わってくるモノの集積だったから、何がどう動くのかはよく分かるし」
「それじゃ、僕と君のレベルは同じになったんじゃない?」
ぽかんとしているテレジア。
それを見て、くっくっくと大雪は笑っている。
「テレジアよ、おめーの負けだ」
「……うー! わかってるわよ!」
とても悔しそうに彼女はその可愛らしい顔をむむむふむむという感じで睨む。
どーいうわけだか、このテレジアという少女は、僕とことあるごとに勝負しようとしてくる。例えばテストだったり、今回のように講義で出された式をどちらがエレガントに解くか、みたいな。どちらが面白いレポートを書くかとか。
本人曰く、
「あーもうまた負けたー! けど次は絶対勝つんだからね! 覚えてなさいよライバル!」
「はいはい」
そういうことらしいのだ。
ここまで読んで下さったかたにひとつ御忠告。彼女はばかではない。ばかだったらあんな短時間であのレベルの数式発展問題を、モデルごと理解することは出来ない。暗記すればいいという問題ではなく、モデルを抽象的に理解し、それを数式に落とし込む技量も必要とされるからだ。はっきり言って大学二回生レベルのものではない。
そう、彼女は頭がいい。どれくらい? それなりに難関で知られるこの大学の主席で入学してきて、入学生代表の答弁をしたくらいだ。
ようするに「頭いいキャラ」なのだが、何故かいつも僕に付きまとってきて、勝手に僕のことをライバルだと認識していたりする。
「ねえテレジア」
「何よムッツリヘタレ」
口悪いな……
「ヘタレなのはともかく、君、何で僕につっかかってくんの?」
それを聞いたテレジアと大雪、「信じられない」という顔をしている。
とくにテレジアは酷い。熱気と寒気が同時に来たかのような天気図みたいな顔をしている。
「伝説って、本人は知らねーもんなんだな……」
「伝説?」
「入学はじめ、クラス分けがあって、そこで合同交流会があったろ。ほとんどの学生が出席してた、飲み会みたいなの」
「なんかあったような気がする」
「気、気がするですって! 私にあんなことしておいて!」
「えーと、事態の詳細な説明ぷりーず」
「んじゃ俺から説明させてもらうぜ。お前はそんとき、いつものようにぼーっとしてたな。で、その近くで、テレジア様御一行が歓談してたわけだ」
「御一行って」
「とりまき、とは言いすぎかもしれんが、まあ、主席っつーことで、目立つ存在だったのは事実だろ。見てくれも派手だし」
「良く言うわよ、大雪、あんた入学早々女子生徒の間でイケメン伝説作ってたのは誰よ」
「あー、そういえばあの会でメアド一気に増えたな」
「人生って不公平だよね。その数十分の一の数でも欲しくて欲しくてたまらない非モテが山といそうなのに」
「ん? でも俺男子とも普通に交換したぞ? ていうか分け隔てはしなかったし」
「……多分イケメンってのは、こういうのを自然に出来る人間なんでしょうね」
「俺のことはいいだろ、話を戻す。ときに、俺たちのような、受験戦争を乗り越えて、やっと終わったところで、はい超高偏差値ここに現る、みたいな形で目の前に現れたら、そりゃ皆どんなもんか、って見にきたがるだろ。で、そこでテレジアはいつものように、『品定め』をしてたわけだ」
「品定め……あー」
この場合の品定めとは、男漁りという意味ではない。
「面白い奴か否か」というものだ。
テレジアは、頭のいい人間、感性の鋭い人間を好む。刺激的であること。
「当然、そこらの『受験だけ頑張ってきました』連中がテレジアのお眼鏡にかなうわけもなく」
「だってつまんなかったんだもの。寄りそってくる連中。信じられる? 自己紹介で自分はセンター何点、とか普通に言ってくるのよ? もっと面白いこと言えないわけ? で、興味のある学問分野は? って聞いたら、ナニソレ? な反応よ? 信じられない。学問するために大学入ったんと違うかって」
ああ、僕と同じ考えだ。
本当にこのご時世多いのだ。大学を学校の延長戦と考えている人間。僕も大雪もテレジアも、ここでは「学問」をするために入ってきた。お勉強ではないのだ。ステータスなどでも……。
「でもそれは私の大いなる勘違いだったってことね。誰も『その先』のこと、『今の自分』のことなんて考えてない。ただ、この大学に入れたことに酔っている……人生アガリ、みたいにね。それで、調子乗って私に構ってきたわけ。そういう連中に、私が何を話せと? 私はそういう生活を送りたかったわけじゃない」
「それこそが一般で言うところのキャンパスライフだけどな」
大雪が口を挟む。
「それは分かってるわよ。私だって日本生活長いし、そもそも世界的に見ても、大学と言うものが、そういったものに変移してるのも。でもね、開口一番、彼氏いるの、とか、君化物だね、とか、アホな戯言を、羨みを忍ばせて語ってくる人間と、はい仲良しですね~、って感じで付き合えるかっての。それでの品定めよ。私は退屈な人間に付き合っている暇はない」
「いうねえ」
僕はこの少女らしいきっぷの良さに、なんか落語を聞くかのような清々しさを覚えていた。竹を割ったような鼻もちならなさである。
「それでもお前、取り巻きにはそれなりに相手していたじゃないか」
大雪が補足する。
「一応相手して、そしたら微妙に距離とりはじめたわね。大方、私に近づいてコネでもとっておけば、その後の大学生活が有利になると踏んだのでしょう。ところが、私が求めるものは……」
「そいつの本質、か。ふむ。それじゃ君、確かに嫌われるよ」
「あーのーねー、祐に言われたくないわよ」
「マジでそうだな。で、話を戻すが、そのようにつまらなさそうにしてたテレジアだったが、ふと周りから離れてぼーっとしている祐が、なぜかその輪の中に入ったんだよな」
「僕から入ったんじゃないよ。そもそも僕は大雪が大ナンパしているのを見て、うーわすげえリア充、とか感心していたんだ。そこに、まあ、今の表現を使うならば『取り巻き』のうちの、……ああ、あれは木端微塵に粉砕された女子生徒だったんだな。手近なとこにいた僕に援護射撃を頼みにきた」
「そう、そこよ。私は『あんたはどうなの?』 って感じで品定めしたわ。そしたらこいつね……」
「ああ、俺も一字一句覚えてるぜ。場所も近くなっていったから、祐の声は届く範疇になってた。こうだったな。
――僕には夢がある、と、キング牧師の言を引っ張ることはようしないが、いささかの興味を持っているテーマならある。ごく概略化していえば、文芸・宗教・哲学・思想が扱っているテーマと構造を大まかに比較して、それぞれが求めている目的・夢・イデア的幻想が、どの程度の妥当性を帯びているか。千年前から神学論争的に議論されたネタではあるが、文芸はなんのためにあるのか、宗教はなんのためにあるのか、そういったことを考えてはいるかな……
だったな、ああ、覚えてるぜ。お前はどこぞの学者の講演かっつの。場はいっきに静まり返ったな」
「僕は思ったままのことを言ったまでだったのだがな。比較文芸論は今に至るまで僕の学問の中心である」
「で、テレジアがそこに食いかかってきたわけだ」
「あー、だんだん思い出してきた。なんだったっけ、僕が言ったことが気にくわなかったんだっけ?」
「ごく簡単にその噛みつきを言えば、あなたが定義してる文芸とはなんなのか、とか、文芸的意味が幻とはどういうことか、とか、まあ、そんなことを言ってきてたな。で、そっからこの二人、大激論。文芸は娯楽であると同時に道徳審美教育の教養のためと言ったテレジアに祐は猛反発、文学は権威のためにあるものではない、言葉になるかならないかのボーダー上にあるものを描く、淡いメディアなのだ、云々。結果、会は完全にこの二人の大激論大会になり、一同その竜虎相撃つ的なさまにビビりつつ、二次会へとそそくさと避難していった、ってな具合だったのさ。どうだ、伝説だろう」
「あー、そういうこと。僕は普通に反論してただけなんだけどな」
「あの才媛テレジアに真っ向から反論し、あまつさえ圧倒するような奴なんて、新入生ではいなかったんだな」
「わかった!? 私があんたを敵視してるの!」
「びたいちわからねえ」
「なー!」
だってそうではないか。学問上の相互不理解などごく当たり前のことなのだし、別に僕は相手を非難しているわけでなし、相手の立場を理解した上で、いくつかの論理的欠点をついたり、とか、まあそんなことで、テレジアを否定したわけではないのだ。
どうも論争するとなると、相手を否定するものだ、と決めつける手合いがいるが、僕はそれに断固反対する。意見は意見だ。人格とは関係がない。彼女は僕の人格をヘイトしてきたわけでは全然なく、単純に論点を突いてきたから、僕は僕が寄って立つ……まあその、学問的見地とでも言おうか、芸術的立場とでもいおうか。それに従って反撃したまでで、それは批評を志すものならばごく当然にすることだろう。
「君があのとき言ってきたようなことが、一般大衆にとってお決まりの文芸観であることは否定しない。がそれゆえに、僕が噛みついたこともあると思うが、後悔はしていない」
「だからあんた嫌われるのよ」
「君、ブーメランって言葉知ってる?」
「?」
「意訳:お前が言うな」
「なーっ!」
またキレた。この女の子は論理展開が一直線なわりに、表情や考えがころころ変わって見ていて飽きない。
「きみはおばかで面白いなぁ」
「こ、こ、こ、こいつは……こいつははじめて会ったときからこうなのよ! 余裕綽々で、高みからモノ見て偉そうで、豪速の正論だから簡単にねじ伏せられないし、そうかと思えば、いやんなるほど屁理屈ばっかりこくし!」
「いやんなるほど屁をこくよりは状況はマシだと思わんかね」
「だまらっしゃーい! そんな余計なことばっか言ってはぐらかす! 第一なんなのよあんた! 真面目系メガネだと思ってたら、普通に下ネタかましてくるし、オタクだし!」
「紳士の嗜みだよ、きみ」
「……あーあ、ほんと、私にはあんたが分からないわ」
「人間が誰かを理解し尽くすなんて幻想だとは思わないかね」
「ま、そう言われたら……」
「いや……失礼。これは僕の妄言だった」
僕は自分がこの件については「言いすぎた」ことを瞬時に悟って、謝った。
「理解し尽くすということが、もはや不可知の極みと同意であることは事実だ」
「撤回してないじゃないか」大雪が僕の論理を突く。そうだ、その通りだ。だが、
「ひとがひとを理解し尽くそう、と思い願うことは、幻想なんかじゃない。幻想と笑ってはいけない。僕は馬鹿だった。そんなことをさらりと言ってしまうなんて……ね」
「……これだからこいつはわからないのよね」
呆れたような、それでいてどこか嬉しそうな感じで、テレジアは言った。
この小説は、自分(作者:ほしよみきんぞう)が、昔住んでたところ(埼玉王国)に行けないので、そのうっぷん晴らし(シミュレーション)に書いてる小説です。
……のはずだったんですが、この春、ちょいと大阪と埼玉に旅行します。そしたら、またこの絶賛エタってる小説、つづきを書くかもしれません。おお、取材旅行というやつですな!




