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●二十一世紀の批評家オタク

現代編はじまりです

●二十一世紀の批評家オタク



「エロゲを文学的に語るのを僕は否定するものではない。九十年代においてそのような言説は、一部の好事家の慰みものだった。そういう在り方が間違っているわけじゃないけど、しかしエロゲが表現媒体である以上、何を読みとってもそいつの自由だと思う。エロゲを語るにおいてエロしか語るに及ばないとするのは狭量だろう」


「そう言うと思ったよこのエロゲオタ」


「失敬な。僕は文芸の可能性を信じているだけだ。新たなる表現媒体としての……」


「ところで講義終わったらどうするよ?」


「静粛に全裸待機ののち、アキバに全力突貫、とらやメロンで同人をざっと見たあと、ソフマップへレツゴ、しっかり予約券片手に新作エロゲを引き取ってくる所存です」


「をい」


「しょうがないじゃないか。高品質な原画、塗りに、若人の股間をダイレクトにヒットするコンセプト、世界観だぞ? この溢れんばかりのB級臭とアダルティさ。それがええ感じのロリテイストを加味したイラスト、魅力的なキャラ造形を全面押しなんだから、買わないと嘘だろう」


「お前一分前には『エロゲは文学』とか言ってなかったか?」


「可愛い女の子といちゃいちゃするのがエロゲの本質だろう。君は何を言っているのだ」


「おめーだよ何言ってんのは」


と、僕は友人のオタクに向かって、至極冷静に、自分のエロゲ観を語っていた。少なくとも彼に僕の意見をどうこう言おうとする権限はないはずだ。彼とてその新作を僕と同じく予約購入することを知っているし、彼はその上、コミケ合わせで抱き枕が発売されるのを見越して今から資金調達に余念がない。僕は抱き枕erではないので、あくまで作品主体だ。この土日は忙しいことになる……。


おめーは誰だよ、と言う声が聞こえてきたので、自己紹介すると、プロローグで「ゆー君」と呼ばれていた者である。そう、あの理屈っぽい。


オタクで悪いか! ちゃんと稼いだ金を、公的に申し分ないエロメディアにつぎ込んでいるのだ。そしてメーカーは稼いだ金で家族にメシを喰わせ、次回作が作られる。我々ユーザーはその新作をありがたく享受する。素敵だ。経済とはこういう循環が第一義だ。


みんな、割らずにちゃんと買おう!


話がずれたな……ああ、最初に断っておくけど、僕なんて理屈屋を話し手に持ってきたが最後、話がロクに前に進まない事なんて日常茶飯事と思ってくれたほうがいいですよ。


ともかくも、僕は大学の午前中が終わって、買ってきたパンをその辺でもさもさと食うておりました。そこに、僕の友達がやってきた。

僕の名なんてどうでもよかろうと思うが、一応物語の登場人物なのだから、名乗っておくのが筋と思う。そうでないのはカフカや村上春樹の小説である。(ほら、また脱線したぞ)


性は平崎、名は祐、人呼んで……人呼んで……調子こいて極道っぽく名乗ったはいいが、僕に二つ名なんてないということに即座に気づき、ああ、これだから中二病は、と悶々とする大学生でありんす。昨日江戸時代の任侠ものの浮世草子読んでたからな……。


そう、僕は大学生らしく、本をよみ、それにかぶれ、本を友とし、本に人生を学び、本を批評し、本にケチをつけ、本から滋養を吸収し……単なる本の虫だということ。ようするに文系大学生。


そんな平崎祐君、パンをもさもさ食うておったところ、講義室にひとりの男子生徒が入ってきました。


僕の姿を認めると、その男、真っ先に僕の方へと寄ってきます。


その際、辺りにいた女子生徒から、細やかに「キャッ」とか「わ、イケメン」とかささやかれて、ちょっと色目を使われたりしているのだが、彼はそれに対し、爽やかな笑みで片手を挙げ、よけいに「わわわわキャー!」みたいな反応を醸し出しておる。お前はどこぞの王子様か。


僕が座っていたのは、講義室の涼やかな風が当たる窓辺で、他の人とは距離を保っていたので、彼が開口一番こういってきたのも、きっとスルーされることだろう。


「いやあ祐よ、やっと月末金曜日がやってきましたね……あとはわかるな?」


で、冒頭のエロゲトークに繋がるというわけ。エロゲを嗜みとしている方々にとっては、月末金曜日はエロゲ発売ラッシュであることは、基本的人権なみに常識だからね。


彼の名は南方大雪みなかた・たいせつ。明治時代の学者か、って名前だけど、実際は、その、こう、非常に現代的なイケメンであります。


僕はホモセクシュアルにさほど偏見がないので、この男の美貌をざっと描写してみたいと思う。


柔らかな栗色の髪は、若干のウェーブとともに春風をまとい、その細い顔立ちを、絵画の装飾のように飾り立てる。


すっと削られた頬の彫刻には、まったくの無理がなく、陶磁器を模倣したと言うよりは、陶磁器「が」模倣したのだ、と言わんばかりの滑らかさ。

目には生きがいというものが満ち溢れていて、まっすぐに見開かれたその瞳、人を射ぬいてやまない。


スタイルは均整に満ち、仕立ての良い身なりを、洒脱に着こなしている。この年代は、大概ちょっとしたブランド品などは、すぐ「服に着られる」ものなのだが、彼の場合、ごく自然に「当たり前のように」着こなしている。そのベージュの上着の、さりげない上品さが彼の容貌にマッチしている。言うまでもなく、人に清潔感を与え、安心感さえ与えるものだ。


そんな彼は……重度のオタクであった。


それもあまり隠そうとしていない。


俺は萌えに命を捧げているんだ何が悪い、みたいな感じで、日々を過ごしている。稼いだ金はことごとくオタク趣味に散財し(借金していないことを祈ろう)、とても楽しそうである。


まあいうても、このご時世、昔ながらの「汚オタク」というのは存外……あいや、いなくはないけど、一定数いるけど、それでも昔に比べてオタクの身なりは綺麗になった印象がある。彼もまたそのひとりである。それも、最上級の。


考えてみりゃ当たり前な話で、オタク趣味は所詮趣味分野のひとつにすぎないのであって、イケメンおされさんが、その分野に耽溺してても、論理的に矛盾しているわけじゃない。イケメンが釣りをやってたり、バンドをやってたりするのは疑問がられないのに、オタク趣味だけ差別されるのは如何。


それに、このご時世、オタクというても、そのライト/ディープ度合については、往時と異なるのは事実。


どちらかといえば、今のオタクは「薄く広く浅く」ってな具合で、その時々の流行りものを追って、そのときはそれなりに熱狂して、まあたとえばアニメのワンクールが終わったら、はい次、みたいな移り気浮気性、が常である。


そういう時代なのね……と思う。


が、幸か不幸か、僕も大雪も、それとは違ったオタクではあった。世間ではゆとり世代と言われている僕らであるが、オタクとしてはわりに昔堅気であると思う。


そんなわけもあって、僕と大雪は大学入学当初から、だらだら付き合っている。性的な意味でなく。


ところが大学のごく一部では、僕と大雪がホモォ的にあれなのではないかと噂されたことがある。


何も僕が相手役になるかね、と思ったが、僕の痩せっぽちメガネスタイルは、「その筋」の人にとっては、まさにお眼鏡にかなうものであったようだ(誰が上手いこといえと)。


僕がヘタレ受けだとか、いやいや僕が攻めでベッドヤクザとか、メガネを外して誘い受けとか……あのね、そういった話は僕らのいないとこでやってくんないかな? 大雪もそれにはげんなりしてた。腐女子に対して別段偏見はない僕らだけど、マナーの欠如にはちょっと眉をしかめるよ?


「にしてもよ、お前、その着物姿でアキバ行くの?」


「いつものことじゃん」


「ちょうコスプレ」


「失敬な。秋葉原といったら江戸の昔からある古都なるぞ。そんな伝統ある地に、日本の伝統的な服装で行くことの何が悪い」


「銀座とかなら俺も言わんがなー。ていうか今の秋葉原なんて、昔のそれとめっちゃ断絶してるじゃねえか」


「いや、岡田斗司夫の議論、すなわち、オタ文化元禄起源論を採用すれば、秋葉原的なるもの、オタ精神というものは、すでに江戸時代から息づいていたことになる」


「ほんとかよ」


「枠組みにとらわれなければ納得出来る面が多々ある。例えば浮世絵と萌え絵を比較せよ。デフォルメ形式や、絵の大量複製による『絵画』というよりは『イラスト』的扱い。伝奇系の読物の挿絵など、ラノベのそれとどう違うというのだろう?」


だいたい僕はいつもこんなことを考えている。


実際に正しいかどうかはさておき、直感的に物事の構造が一緒だったら、仮にそのふたつを比較してみて、何か得られるところがないか、と実験している。


さっきから江戸文化の話が出てきたが、例えば川柳をtwitterと比較したり、俳句の付け合(連想ゲーム的な俳句)を、二次創作パロと比較したり。


ひとつの物事と、もうひとつの出来事の間の落差に潜む、真理「のようなもの」を求めて。むつかしく言えば比較文化論。構造主義的史観。


なんであれ僕は比較する。大雪を描写するにあたって、一般的なオタク像を引用したのもそれだ。そういう人間だから、僕はしかたない。


小難しく考えるのが好きだ。シンプルに考えるよりも、複雑に考えたほうが、僕にとってずっと「素直」だ。だって世界はそもそも複雑系のカオスなのだから。


そんな僕と、リア充エリートオタクを体現する大雪とが、かなり親密に付き合っているというのも、不思議なものである。


大雪も確かに理屈に偏るところはある。が、それより以前に「楽しければいーじゃん」的なところが多分にあるので、まあ、人生楽しそうである。


例えば、僕がこいつの課題(担当教授は難関で知られる)を徹夜で手伝ったとき。朝一番期限ぎりぎり、教務課に提出してから帰るとき、あまりにフラフラしてたので、心配になって着いていった。


ほとんど意識は朦朧としていて、時折肩を貸したりして、ようやく彼の部屋に辿りついて、ドアを開けると、


「うわああああ、みずほ、小雪、エリス、沙織いぃぃぃい! 俺、辛かったよぉ、頑張ったよぉおおお!」


と絶叫しながら、エロい絵が描かれた抱き枕と、エロい絵が描かれたベッドシーツにダイブしていったその姿を見て僕は涙した。


まあ、そのくらい、オタクとして充実しているのだ。


えーと、何の話してたんだっけ。


そう、僕の着物の話。


これでアキバ行きますよ?


僕の父親は……呉服商、というか、海外と日本のアパレルの橋渡しのような仕事をしていて、僕が奈良に行くことになったのも、反物関係のルートを確保しつつ、物品の倉庫をも確保するということだった。


そんな父の「しっかりした服」に対するこだわりは、刷りこみ程度には僕にも影響したようだ。


何もブランド品で飾ることはしないが、きちんとした身なりをしたいという思いはある。で、着物である。別に和装だけということもないけれど、緑の着流しの上に黒い上っ張りを羽織っている僕の姿は、しょっちゅう「明治時代の書生か!」と言われる。


君、いいとこつくね、それなのだよ僕が狙っているのは。


書生とは勉学に励むものである。様々は世の中のものに対し、学術的好奇心でもって望み、文芸的精神、芸術的審美眼を磨く。それこそ書生たる所以である。


よって、その文芸・芸術の鑑賞対象であるエロゲや同人誌を買いに行くのに、書生スタイルであることが、なんの問題があるのだろう。

そんなことをこのイケメンに言った。


「この屁理屈一代男!」


大雪はそんな暴言をこの僕に放ってきた。愚かな……。


「理屈を説明したろう。二週間洗ってないだろ的なシャツの腐臭を振りまく人間と、今のこの僕、一緒にいるならどっちがいい?」


「比較対象が極端なんだよ」


「でもよくいるじゃん」


「……そうだけどさ」


「オタクは紳士であるべきなんだ。男女問わず……「ジェントル」であるべき、と言い換えようか。エロゲラノベアニメ同人に熱を入れるのが問題なのではない。責められるべきは、下品に、豚のように採集するその姿なのだ。己が身を客観視せよ、それは汚豚にすぎない。そのような人間が差別されても仕方あるまい? 下賤な人間はそうなる定めなのだ」


「言いすぎだよお前。あいつらだって大変なんだ。この不景気な時代、明日をも知れぬ今日を送ってる。それを刹那の気晴らしで、オタやってるわけさ」


「だが無様だ」


やれやれ、という面持ちで、大雪は両手を「諦めた」のポーズに持って行った。


別に議論が決裂したわけでもない。本当に議論する場合は、軽く五時間くらいこいつとの場合はかかる。お互い譲れないところがある。フツウの人にはそんなことないんだけどな……結局、こいつが「まともな知性」を抱いているから、と僕が尊敬しているからだ。絶対こいつには言わんけど。


今回のは、なんてか、僕があえて暴言を放って、大雪は「こいつまたこんなこと言ってるよ、理系キャラめ」みたいな納得がされ、みたいな暗黙の物語の流れをお互いが感じとって、という、ただそれだけのこと。文脈ジョーク。


ややこしいでしょう? 理屈っぽい大学生なんて大抵こんなもんさ。


だって、僕には、理屈しか残されていないのさ……知性にまつわるアレコレで、僕が持ち合わせているものは。


タイトルは、キング・クリムゾンのあれです。でかい顔の

いや、別に主人公がでかい顔ではないですが

まあ、ぬけぬけと理屈を語るような主人公ではありますが。こんな奴になってしまったのね……


あ、「その設定はラノベ業界すべてを敵に回す」と、どこか似てないか?

というご質問がありました。ありがとうございます。

じつは、この小説、「その設定~」のプロトタイプのようなものなのです。

これを最初に書いて、それが結構、「その設定~」に影響を及ぼしていて。

とくに主人公の造形とか。名前もほとんど一緒ですし。

しかし、内容とか、設定的には、関係はありません。あしからず。

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