●監獄スクールロック
大学に入るまでこのかた、学校というものを好ましく思ったことは一度もない。
いつか酔った教職志望の知り合いと一席もうけたとき、僕は率直に言った。
実際そうだったのだから申し開きもしない。そのときもしなかった。僕はそれまでの学校生活で、どれだけつまらない思いをしたか、どれだけスポイルされてきたか、どれだけの閉塞感を覚え続けてきたか、どれだけ「滅殺感」を感じ続けてきたか……
僕のような年(当時二十歳)で今更「傷つけられた」と語るのもおこがましい、と当時思ったが(マジ恥ずかしい)、結局僕の言いたいことは、そういうことだったのではなかろうか。正直なところ。
とにかく僕は攻撃し続けた。それは相手にとってはとても意外だったようだ。事実そのように言われた。
「お前のような優等生がそういうことを言うとはな……」
違う、僕は優等生ではないよ。
ただ世間を渡っていくにおいて、そちらの方がより「打算的で楽」だとふんだからなんだよ。「フリ」をしていただけだ。
露悪的な不良を気どるほど僕も馬鹿ではないつもりだ(えへん)。そして、彼に語ったことも、自分の不良性を喧伝するつもりでもなかった。
「本当に」学校がつまらなかったからだ。
だから僕はここぞとばかりに攻撃した。アタックアタック。
既存の教育体系の杜撰さ……画一的教育、詰め込み、スケジュールの厳守、意味のわからない規則、競争心の煽り、「青春」イメージの押しつけ並びにそれの悪用、制服、すべての点数化、学問を大学合格のための手段としかみなさない方針……
あっという間に十個挙げられたが、あのとき話したのを個別にトピックとして数えれば、三十個くらいは余裕であったのではないかと思う。アタックアタック。
今にして思えば、よく彼はキレなかったと思う。――いや、キレていたのは事実だ。単に殴り合いに発展しなかっただけだ。
彼はそのいちいちについて反論してきた。そして僕はそれを完膚無きまでに粉砕した。あれは僕の論争のなかでも、相当に辛辣なものだったと思う。自分で自分にぶるっとくる。いや、自分に酔っているわけじゃなくてね? 本当ですよ? 信じてちょーだい。
今にして思えば、自分もそれほど鬱屈していたのだろう、この「学校問題」については。
僕の目から見たら、彼が寄って立つところというのは、結局のところ、既存の「大人体制」を強化するものにしか見えなかった。
つまりは……その……僕の敵だということ。
僕のような人間が、これから先、さらに生まれ出てきてしまうような土壌を作りだすような。
ただ、たちの悪いことには、彼は僕を理解出来なかったようだけど、僕は彼を十二分に理解していた、ということ。
こんなこと言うと嫌われるんだろうな……なんで僕はこういったことを冒頭に持ってきたんだろう。せっかくの物語のはじまりなのに。
僕が読者だったら返金作業を画策すると同時に読者アンケート葉書に「この小説はツカミの面での構成がなってない」と書くと同時にネットの批評サイトに「この小説はツカミの面での構成がなってない」と書くと思う。
一度に三個のことをするのも器用だと思うけど、この一億総批評時代に生きていくのはそういうことなんじゃないかって思うのです。
今や批評は一部のインテリだけのものではない……あらゆるジャンル、あらゆる媒体を使って、人は批評する……結局のところその大半はネガティブキャンペーンと噂話とデマだって気もするけど。あうち。
それでも……それでも、僕がそのような人だということ抜きに話は進められない。
ともかく、僕は彼にそのような態度をとり、言わざるを得なかった。
それは僕が僕として生きていく上で、退けるわけにはいかないことだったからだ。
彼は反論しながらも、その場を「ご破算」にはしなかった。タブラ・ラサ、もうおしまい……東方projectの古い曲でそんなタイトルがありましたね。どうでもいいですか。話がずれた。ごめんなさい。
ともかく、彼は、御破算にしてもおかしくなかった議論を、それでも続けた。
だからこそ、僕は彼を批判しながらも、彼に「何とか伝わってほしい」と願った。
批判は、「相手に改善してほしい」と願うから成り立つ、と僕は思う。
真に相手のこと、相手の性質、相手の立場がどうでもよかったら、僕は批判なんてしない。ただ黙って去り、無視するだけだ。
これまで僕が学校体系に対し、誰か――例えば教師、例えばクラスメイト――に、以上の反論をしなかったのは、ひとえにそのことによる。
「言っても無駄だ」ということを、僕が人生のわりに早い時点で悟ってしまったから。
ニヒリストを気どるつもりはないですけど、僕は多少の効率性を重視する人間だというのは、ここまでの文章を読んでくれた人には分かってくれると思うのです。
嫌な奴だな……と、自分でも思うよ。
だから、僕はそんな自分を好きになれない。
タチがさらに悪いことには、そんな自分をそれほど矯正しようとしなかったこと。それはさておき……。
ともかく、彼は、一応僕の言うことに対し、「聞こう」という態度をとってくれた。
殴りかかろうともせず、きちんと。
多分、対話というのは、そこからはじまるのではないのかな、と僕は勝手に思っている。だから、彼の立場・意見は極めて気にいらないものだったけれども、僕は彼を尊重した……つもりではあるのです。