生まれるはずだった『モノ』
最近スランプ気味なので、気分を一新するために一本短編を書いてみました。
某猫様に題材を求めたら「血と殺人と絶望」、某T様から「主人公はオカマで、ヒロインがオナベで…」とむちゃぶりされましたので、作者的にはない頭絞って書き上げてみました。
※当作品は決して性同一障害などを批判した作品ではありません。
あの人と私が出会ったのはもう一年も前のことだ。
どこか中性的な顔立ち、女の象徴を持たぬ体なのに、なぜか私の中の男を強烈に刺激する蠱惑的な微笑み。
捨て去ったはずの性を蘇らしてしまうほど彼は強く私を惹きつけた。
彼の名前は与那、私を押しのけて…、僕を惹きつける男身の女神。
彼女と出会ったのは街中の雑踏の中に埋もれた一件のバーだった。
渋めのマスターがグラスを磨くカウンターの前で、カウンターに俯きため息を吐く姿が一瞬で私の心を鷲掴みにした。
女性にしてはやや広い肩幅、やせ型の長身をカウンターにしだれ掛からせながら、独り孤独にグラスを揺らす彼女。
気がつくと俺は彼女の隣に腰掛け声を掛けていた。
「やあ、…一人ですか?」
人のいないバーの中に、俺の高めの声が響き、微かに反響する。
彼女は驚いたように顔を上げ、俺と視線が会った瞬間、影のあるダークブラウンの瞳が驚いたように見開かれた。
「え?あ…私ですか?」
彼女の驚いた声が、伽藍堂のバーの中で響き、自分の声に驚いたのか彼女は周りをキョロキョロと見回してから、この場にマスターを除くと俺と彼女しかいないことに気がついたようで、俯いて顔を真っ赤にした。
それが俺と彼女との出会い。
今思えば、きっとあの頃が一番俺らにとって幸せな頃だった…。
私達がおかしくなってしまったのは、たった一晩の過ちが原因だった。
あの日、あの時だは…、私は僕であり、彼は彼女だった。
人として間違ってしまった僕らの性は、否応がなく僕らを苦しめる。味わってしまった、一晩の甘美な果実は僕らを狂わせる。
心は男なのに、体は女。体は女なのに、心は男。
私が愛してしまったのは彼だが、僕の相手は彼女だった。俺が愛したの彼女だが、私の相手は彼だった。
矛盾は矛盾を積み重ね、愛は何時しか狂気に変わる。
そして、終焉は訪れる。
彼が妊娠したのだ…。
「私は生んで欲しい、僕にはできない喜びを君から与えて欲しい」
私は願い、僕は喜んだ。
でも彼は―――。
―――俺は耐えることができなかった、捨て去ったはずの性にしがみつく事も、自らの体で新たな生を紡ぐことも。
生まれもた男としての性が彼女の気持ちを拒む。
そして俺は、彼女に断ることなく、自らの体に宿った我が子を捨てた。
彼女はずっと泣いていた…、俺が俺を捨てきれず小さな命を捨てた事を、恨み泣きながら呪文のように悲しみをつぶやく。少しずつ少しずつ彼女の愛は反転を始めた。
そして、全ては終わる。
10ヶ月…、生まれるはずだった始まりの日、俺が目を覚ますと、ベットの上で俺に跨るようにして彼女は壮絶な笑を浮かべていた。
彼女の手に握られていた一本の包丁が俺の腹に突き刺さり、子宮をえぐる―――。
私は、嗤う。
産まれるはずだった我が子と共に、鮮血の姥湯に染まる形なき我が子とともに。
「ハッピーバスディー… 赤ちゃん」
空虚を抱きながら、泣き笑う僕。空虚を見つめて、死に狂う私。
狂った僕と、狂った私の血と殺人と絶望の物語。
いかがでしょうか…。作者としては自分の文才のなさに一番絶望した作品となっております。
まあ、そのうち同じような短編を書くかもしれません。その時は、生暖かい視線で見守ってください。
最後に彼らに生まれるはずだったモノ。
世界では、生まれるはずだった沢山の命が日々生まれることなく消されて言っているそうです。
今日消える命が一つでも減ればいいな、そんな願いを込めて締めさせていただきます。