第1話:突然の転生
「ふう、おもしろかったな」
静寂な雰囲気の中、図書館の中にあるカウンターから少し遠く離れた場所のテーブルで一人、信良は本を読んでいた。
その本とは【中世戦記】と呼ばれる本で1500年ほど前の中世、今で言うヨーロッパで大規模な領地を巡る戦争の話である。
彼にとっては面白く、この本はシリーズ化されており、三部に分かれているのである。彼はたった今、第三部部を読み終えたところらしく、熱中するほど、このシリーズを読み込んでいたのだ。
彼は本を読み事はそれなりに好きではないし、図書館にもあまり着てはいないのだ。彼は友人に勧められ、図書館に来て、この本と出会ったのである。
ここ最近、学校を終えた、放課後、彼はすぐさま図書館に真っ先に向かい、この本を読み続けたのだ。閉館間近まで、じっくりと読み続け、一週間掛け、この本を読破したのである。借りればいいと思うのだが、彼はそんな面倒な事はしたくないのだ。
「はあ~、中世に行きたいなあ」
信良はそう嘆く。どうやら、中世の世界を気に入ったらしい。
彼の言う中世の世界は7つに分かれた領土があり、中心部と西部をモデルにしている。要は今で言う、スペイン、ドイツ、フランスなどの国がある位置に値している。飛行機で行けるわけなのだが、彼が言うのは今のヨーロッパではなく、昔の【中世】行きたいなのである。行きたいほど、あの物語にはまっていったのであろう。
「でも、無理だよなあ。……はあ」
彼はため息をつく。当然だが、昔の中世に行けるはずがない。せいぜい、今のヨーロッパに行くぐらいのが我慢である。……まあ、小説や漫画とかでよくある『異世界に行ける』という事は現実にはない。そんなものは夢を見て終われってやつである。
「もう、ここには用はないだろう。……帰るか」
彼の言う用はないという事はあの本を読み終えたからである。興味あるものをすべて読破したからには読書があまり好きではない彼にとっては用済みである。
彼は図書カードをその場で破ると、近くにあったごみ箱に捨てた。ここを利用しなくなったからにはこのカードは彼にとっては不必要である。
破り捨てた後、彼は図書館を静かに後にし、自宅に向かった。
その姿を見ていた図書館員はカードを破り捨てた信良を見て、悲しい思いをしていたのは信良が知るはずもなかった。
*
信良は家に向かう道を一人で人ごみが少ない中、ひたすら歩いていた。空は少し小汚い色をしたオレンジの夕日と雲で覆っていた。ここ図書館の周辺の街は普段ならば、人込みは多いのだが、今日はやけに少ない。
その後も、彼は道を歩き続けた。やはり、人が通っている姿は見かけなかった。これに信良は奇妙に思った。
「はあ~、眠くなったな」
信良は欠伸をしながら、背伸びをする。
本を読み続けた疲れが今になって出てきたのだろう。因みに彼の今日の読書時間は約三時間である。しかも【中世戦記】の三部を今日三時間使って、読み続けたのだ。そりゃ疲れるに決まっているだろう。
「う~、眠い、眠い」
彼は今にも立寝しそうな状態であった。このまま道端で寝てしまうとみっともないだけである。
遂にはうとうとした状態で信号を渡ろうとした。その時の信号は青ではなく、赤であった―――。左右の上信号が青に変わったばっかりであった。彼の表情は目は少ししか開いていなく、寝そうな目つきで、信号が赤であることがわからないのである。このまま、行くと、彼はひかれてしまう―――!! 歩道を渡ったその時だった―――!
『…………』
信良が歩道の中間にいるとき、右の道路から一台の大型トラックが迫っていた。急いで渡らなければ彼はぶつかってしまう。急いで渡ればいい話なのだが、彼はうとうとした状態でしかも、トラックが迫っていること自体、知らないのだ。しかし、エンジン音がだんだん大きくなっていき、彼はその場で目を開け、エンジン音が聞こえる右の道路を振り向いた。
「うわーー! と、トラック!? 早めに逃げないと」
彼はトラックの存在に気づき、急いでこの場を離れようとしたが、トラックは猛スピードで信良に向かっていた。何やら、トラックはフラフラした状態でガードレールや木やらをぶつかりながら、走行していた。飲酒運転なのだろうか? 運転には妙に不自然な運転であった。
(くっ、もう、ダメだ…………!)
トラックが迫り、もう逃げられないと判断した彼はその場で立ち止まり、歯を食いしばり、死を覚悟していた。しかし、彼は何故逃げないのだろうか? あの距離ならば逃げられるのに。彼とトラックの距離は約五十メートルである。仮に素早く逃げたとしても、かすり傷程度の怪我で済む。
―――彼が諦めかけてたその時だった。
「………………!?」
突然、発生したまばゆい光が彼を包み込む。すると、彼は一瞬のようにして、この場から消え去ったのである……。それと同時にトラックの動きも止まった。
「んあ~。何かぶつかったけど。……まあ、いいか」
トラックに乗っていたドライバーはぶつかった事に気づいたか、欠伸をし、背伸びをしながら起きた。
どうやら居眠り運転をしていたようだ。が、その場には信良の姿は見られなかった。もし、信良があの光に助けられなかったら、ドライバーは罪に囚われていただろう。
しばらくして、ドライバーは何事もなかったかのように運転を再開し、この場を走り去った。
―――果たして、信良は何処に消えたのだろう……。この出来事によって彼の望みが叶う事は信良ですら、予想すらできなかった―――。
それと同時に彼の新たなる人生が幕を開けようとしていた―――!!