俺と奇妙なトラベルは
「ぶえっくしっ!」
そんな間抜けなクシャミから、俺の一生は始まったと言っても過言ではない。いや、どっちかと言うとけっこうかっこいいぞ、俺。男っぽくいていい。
垂れかけた鼻水を無理やりすすって、「俺」こと
「高宮 影我」は一人淋しくコロッケパンをむさぼり食っていた。ちなみによくタカミヤ カゲワレとか言われたりするが、違います。
ヨウガですから。ヨーガ。ヨガでもないよ。
飛び散ったソースを応急措置にティッシュでふく。
どうにもこういうものを食べる時は必需品だ。
まぁ、あまり関係無いけど。
だってどうせ汚いし。
と言うのも、実は先ほどバケツの水を思いっ切りかけられたのだ。俺のクラスメイトである女に。
「魔除けですわ。」
そう堂々と言われた。彼女がまた不思議な感じにかわいい子で、クラスの男子の中で初めて水をかけられた俺は、何と言えばいいのか‥。
多分、この学年でも初めてだと思うが。
クラスの男子は、羨ましそうな残念そうな
はたまた哀れみのような目線を向けていた。頼むから誰か俺を助けてくれよ!
しかもその後、
「おまちなさいっ!除霊の儀式がまだですよっ!」
と追ってくるわ追ってくるわ。
片手に変なものを持って。
今は、やっとそのバカらしい逃走劇から逃がれ、のんびり淋しく階段の隅に座っているのだ。
俺…本当に何やっちまったんだろ…。
自然とため息が漏れる。
「ぶえっくしっ!」
ただ、やるんだったらこんな真冬にはやってほしくなかったな。…寒いっ…。
その時だった。
「見つけましたよ、ヨーガ!」
女子特有の高い声が響く。不思議さんだ。
あのバケツの水をかけてきた。
ところで。
片手のそれは…紙ですか?
「何なんだよ、さっきから!もうやめろって。」
階段を、ジリジリと昇ってくる。
「あなたを助けるためです。大人しくしなさい。」
美人ににらまれると、怖さは二倍だ。
その間にも、彼女は俺に近づいてくる。俺はうしろのドアにもたれた。この奥は屋上だ。ちなみに、出入り禁止のため鍵が掛かっている。
言うなれば、逃げ道はないということ。
「何やるんだよ!」
苦し紛れに叫ぶ。
「簡単です。次に上靴を無理やり取ってリレーをします。そして、人前でズボンをずりおろし、最後にライターで髪を焦がします。」
何それ!?いじめ!?
「えっ‥もしかして除霊って俺自身?学校から除霊しようって魂胆?」
どこかで授業終了時間を告げるチャイムが鳴った。
「そんなことはありません。その逆です。」
そんな事紙見ながら言われても説得力の欠片もねぇよ!
俺は、焦りながら後ろの扉のドアノブをガチャガチャと回す。先生ごめんなさい。反省文は後で何枚でも書きます、いえ書かせていただきます。
だから、だから頼むっ!
開いてくれっ!
「あっ…」
不思議さんが目を見開いた。
そして俺は、確かな手ごたえを感じる。
『ドアが開いた』という、奇跡。
「悪いなっ!」
そう叫んで、俺は外へ出た。
「だめです!そっちはっ…」
不思議さんが追いかけてくる。
柔らかな光の中に、俺は入っていった。
あれ?
ここ、って…?
すみませ~ん。何かおかしいんですけど。
俺屋上に行ったはずなんですけど。
なんで森があるんですか?なんかギャーギャー鳴いてるし。うわっ、何か出た!
「誰かあ!俺が誰か教えてくれえ!」
情けない悲鳴が、サンサンと照りつける太陽に吸い込まれていった。
どうにもうまくいかない。
私の気持ちを分かってくれない。
ねえ、ヨーガ。私の除霊から逃れられると思ってる?私のこの溢れんばかりのS…じゃない。
愛の気持ちを受け取ってくれないの?
「おまちなさいっ!男でしょう!?」
ダメダメ。
右肩に何かいるのよ。
あなたは優しい人だから。
よく変なのを連れてくるのよ。
そして引き込もうとしてるのよ、あなたを!
危険なの。危険なのよ!
「何なんだよー!!」
「すぐに除霊をしますから。大人しくしなさい!」
今まで助けてきたのっ。
あなたは忘れているかもしれないけど、私はたしかに助けられた。
だから。
「悪いなっ!」
「だめです!そっちはっ…」
そっちはダメッ!
ヨーガ!私の言う事聞きなさいよ!
四時四十四分四十秒っ今は特にっ。
待てって言ってるでしょっ!
このっ…
「天然バカ野郎ー!」
四時四十四分四十四秒。
確かにその扉は開いてしまった。
私もあわてて後に続く。
消えつつある光りの向こうへ。
温かな光が、優しく私を包んでいった。
クラクラする頭を押さえて前を見ると、森。
辺り一面の緑。
「誰かぁ!俺が誰か教いえてくれえ!」
情けない悲鳴が響く。
いや、それは流石に分かるでしょ。
私はそう心の中でつっこむ。
「えっ!?不思議さんっ…。」
ヨーガが気づいて、驚いた声をあげた。
彼の中で、私は不思議さんらしい。
……、否定はしない。
「ここは異界です。せっかくあなたを助けようとしたのに…、あなたが逃げるからこうなるのです。」
私は、一応の説明をする。
「ヘっ?そんな中二病だったの、不思議さん。」
随分失礼な事を言う男だ。
ジッと黙って見つめていると、ヨーガはたじろいて意味もなく何度も謝ってきた。
「私も詳しくは知りません。ですが、あなたなら何とが出来るはずですよ。」
キョトンとした顔は、まだ幼さが垣間見えてかわいい。私は、しかしそれを表に出さず続ける。
「物語りの主人公的存在と同じくらい運のいいあなたなら、きっと生き残れますから。」
きっと、二倍ほど意味が分からなくなっただろう。
私がここにくるのは二回目だ。
一回目は、ヨーガが助けてくれた。
でもきっと彼は無意識に助けてくれたのであって。
あの頃からずっと気になってるなんて、私の王子様的存在になってるなんて、きっと知らないから。
だから。
私も陰ながらにあなたを助けようと思ったの。
だってここは。
私のー…。
アハハ。
こんなんでよろしーですかね?
ニャアはギャク&シリアスが好き。
がんばるぞー!