冬
後味悪いです。ご注意されたしw
舗装されて、この山道はとても歩き易くなった。
昔はただの林道で、奥には屋敷が一件あるだけ。
冬になれば道は雪に閉ざされる。
お屋敷の人達は、それまでには街に戻っていた。
ただ一度、あの年を除いては。
お屋敷のお嬢さんは体が弱くて、街ではいつも車で送ってもらい、学校に通っていたらしい。
そんな話しをしたのも、俺が村で取れた野菜や山菜を届けていたからだ。
友達になってあげてくれ、と頼まれて、俺はあの子と友達になった。
ある日、あの子にはお客が来ていた。
街のおばさんらしい、その人はこう言ったんだ。
「ボーイフレンドが来てくれたわよ?」
すぐあの子の、そんなんじゃないって声が聞こえた。
出迎えてくれた彼女は恥ずかしがっていたけど、俺は何か、胸に酷いうずきを感じて……。
次の日、俺は遊びに行かなかった。
翌々日に行くと、何かあったのかと思った、と彼女は言った。
俺は何でもないって言ったけど、でも。
この日は、お嬢さんのお友達も来ていた、俺は村の子って事で物珍しく見られた。
部屋の隅に追いやられて、彼女を取り巻く華やかな雰囲気に毒されて。
身分違いって言葉を知った。
最初は一日だった、次は二日、一週間空けて、ついには会いに行かなくなった。
どうしてるかな、と気にはなったけど、女々しくて厭だった。
そんなある日、クリスマスのカードが届いた。
小さなパーティーをするから来て欲しいと言う。
あのお友達って子達は、もう泊まりがけで来ているらしい、俺は当日に顔だけ出そうと思って……
行けなかった。
その日、雪が降った。
道は閉ざされて、危ないからと止められた。
雪が解けたのは、年が変わってからだった。
あの子のお母さんがやって来た。
手紙と、クッキーを持って。
あの子が作ったものだから……、と、何故だか泣いていた。
嫌な予感がして、その場で乱雑に手紙を開いた。
そこにはこう書いてあった。
俺が、つれなくなってしまった事が悲しいと。
でもその理由が、自分にあったと知ったのだと。
お母さんに聞いたら、きっとただのお友達と言われて傷ついたのだと……、傷つけてしまったのだと教えられたと。
本当は、俺のことが好きで、だから恥ずかしかったのだと。
遊びに来て欲しい、謝りたい。
俺は顔を上げた。
おばさんは泣きながら言った。
あの子は、死んだと。
山の上の屋敷は小さく見えた。
子供の頃はこの道も遠かったのに、俺が大人になったからか、道が整備されたからか。
だけど屋敷はゆっくりと朽ちている。
あの子が死んで、お屋敷には誰も来なくなってしまった。
俺は毎年、冬になるとここに足を運んでる。
おばさんに譲ってもらった鍵で門を開け、玄関をくぐり、埃だらけの床に足跡を残す。
赤いカーペットには灰色雪が積っている。
暖炉に火を入れ、俺はその前のソファーに座った。
埃が舞って、喉を焼く。
それでも俺は、目を閉じて、深く息を吸った。
「こんにちわ」
声に出す。
「今年はね……」
これまでにあった事を語り出すと、隣にあの子の気配がする。
薄く目を開くと、あの頃のままで、彼女は肘掛けに腰掛けていた。
お互いに微笑み合う、でも、話すのは俺だけだ。
あの子はずっと笑ってる。
俺の冬はこうして始まる。
彼女の幻に、春を感じて。