運び屋男と見習い魔術師
二話目です。本編が始まります。主人公&ヒロインの登場です。
はじめはプロローグの続きから・・・。
H22 11/25 文章&台詞の入りを修正
双界紀212年 魔王を破った勇者ダンはチルスと結婚し、ガイア国の王となった。
戦場となったガドナの国々と戦場にならなかったエギナの国々に国力の差が生じたためガドナの人々はエギナに侵略されるのではないかと噂したが、ガイアの若き新国王ダンが早急な支援と恒久の平和を実現するよう明言したことにより、噂も消滅し支援のおかげでガドナの国々も次第に落ち着きを取り戻し、国力を回復していった。
こうして世界は再び平和を手に入れた。
そして時は流れ双界紀230年、この物語は始まりを告げる―――――
「ふぅ~、やっとついた~。」
ここはエギナのパライゾ領のとある町セーソーケン。この町に「運び屋」を職業に持つジュン・カーザ(28歳)という男がたどり着いた。
運び屋とは、通常大量入荷の方がコスト面で優秀だが移動速度が遅いため盗賊団などに襲われやすくなる。(どんな平和な時代でもいる者はいる)そこで考え出されたのが運び屋である。本当に貴重なものは量が少ないのがふつうである。そこで貴重なものを別途に運ばせる方法で周りの目をごまかすものである。しかし貴重なアイテムを持ったままトンズらするとい事態もしばしば起きていたので、各国は運び屋ギルドを創立。仕事の効率を上げるとともに誰が運び屋しているかばれないよう機密性をも高めた。
このように運び屋は意外に高いスキルが必要な職業である。責任感、機密性、万が一に備えての戦闘力ナドナド。
ちなみにトンズらすると6カ国に指名手配されるので盗賊団を探すと一人二人は元運び屋という輩が出てくる。
そして彼、ジュン・カーザはギルドランクS~Eの中でCランクに属する。
「さ~て、今回の依頼内容を再確に~ん♪『セーソーケンの雑貨屋に来られし、その時に依頼内容と依頼物を渡す』か。依頼内容をその場で伝える件はあんまり好きじゃないが、セーソーケンってことはドラゴン絡みかな。」
セーソーケンはパライゾでも田舎に当たる場所で寂れているイメージがあるが、実は近くの山に龍の巣があり当然レアアイテムを狙ったハンターたちが集まったりドラゴン関係の装飾品の産地でもあり、第1種産業より2種3種のほうが盛んというちょっと珍しい街である。一時期は乱獲により龍の巣が無くなりかけたが、ガドナイト侵略戦争後どこからか強力な龍が住み着き守られた。ただしかなりのハンターが犠牲になったが、その龍は巣を侵したハンターだけを攻撃したので国は黙認を決めた。
そんな感じでここセーソーケンは「龍の町」として知られ、運び屋はよくお世話になっている。おまけに盗賊団も商人と間違えてハンターを襲って自滅するということがあるため道中比較的安全で運び屋のルーキー向けの依頼が多い。
「まぁ、Cランクから抜け出せない僕にとっては妥当な依頼か・・・。
あ~、太陽が眩しくて気持ちい~~~♪そろそろ昼か…。先にご飯にし~よっと♪」
基本的にジュンは仕事に真剣にならない性格である。
ご飯を食べたジュンは気分ルンルンで雑貨屋に向かった。しかし何やら言い争いが聞こえた。
「お願いです。一つでも、一つだけでいいんです。龍の、『龍の角笛』を売って下さい。」
「お嬢ちゃん、売ってしいならそれなりの金を払ってもらはないと。これじゃあたりないよ。」
「!? そ、そんな。前に見たときはこの値段だったはず…。」
「あ~、4日前にちょうど全部買う予約がはいってねぇ。あんたがこれを買うにはキャンセル料分上乗せした金額じゃないとだめだね。」
「そ、そんなぁ。お願いです。それが、それがなくてはお母さんの命が危ないんです!」
「そんなこと言われても売れないもんは売れないよ。商売の邪魔だ。帰ってくれ。」
「お願いします。」
このような言い争いが延々と続いている。ちなみに『龍の角笛』というのは薬草の一種で心臓の病気に有効な万能薬だが、そんなものに限って龍の生息地にしか生えないといういやらしい性質の持ち主。
なるほど、今の会話から判断すると、彼女のお母さんは心臓の病を患っていて、龍の角笛を必死にお金を集めて買おうとしたが、もう先約があってキャンセル料を上乗せした金額じゃないと売らないと店側は言い張ってる訳か…。彼女も頑張っただろうに。ここに住み着いたっていう超強い龍のせいで、軒並み物価が上がったってのに。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・、あれ?
もしかして、いや、もしかしなくても今店の人が言った龍の角笛の運送が今回の依頼か…?
だとすると物凄く入りづらいのだが…。い、いや、もしかしたら別の依頼かもしれない。ポジティブにいこう、ポジティブに。
「ごめんくださ~い。」
「!? いらっしゃいませ御客様。ほら、お前は商売の邪魔だからどっかいってろ。次はもっと金を持って来い。」
あ~あ、この人うずくまって泣いちゃったよ。そうだよな~、今じゃお金を持ってても物がないってことのほうが多いからな~。
「お客様、どういったご用件で?」
「すいません運び屋です。」小声で言った。「はい、これ。」
そういって依頼の手紙を返した。この方法が一番確実な身分証明になる。
「!?」 店主は少し驚いたような顔をしたが、すぐに商人の顔に戻り、
「かしこまりました。少々お待ちください。」そう言って店の奥に入って行った。
渡されたのは普通の包み。パッと見では運び屋に頼むようなものが入っているふうには見えないが、れっきとしたカモフラージュである。そして手紙を渡された。おそらく中身と届け先が書いてあるのだろう。届け先は首都パライゾ(どの国も首都の名前は国名と同じ)の中央病院になっている。
あ~~、やっぱり龍の角笛なのね。
僕はギルドから渡されたお金(おそらく病院⇒ギルド⇒僕⇒店の流れ)を払い、この店をあとにした。
僕はこの町は初めてなので観光をして行こうと考えてた。観光客を装うのも立派な仕事だ。←口実
しかし、
少々面倒なことになった。
なので今は人気の少ないところへ進んでいっている。
何故かって?実はつけられています・・・。
まぁ基本はまいてしまうのが一番なのだが、どうしてもまきにくい事情がある。
そう、僕の後をつけているのは・・・、
さっきの彼女である。
おそらく僕が運び屋だということに気がついたのだろう。小声で伝えたつもりだが、彼女はすぐ足元にいたしなぁ。大金を一括で渡したのがまずかったかな?基本的に嘘はつけないからな、僕。だからCランクのままなんだよな、うん。
で、彼女の考えていることはおそらく僕から龍の角笛を奪おうってことろだろう。さて、実力行使で来るか、泣き落としで来るか・・・。
「さて、周りに人もいなくなったしそろそろ出てきたら?わざわざ君が強盗をしても誰にも見られないところまで来たんだ。」
そうして彼女はゆっくりと現れた。
「き、気づいていたんですね。」
「バレバレだよ。君はそういうことに関しては素人でしょ。一応話は聞いていたから君の事情がわからないでもないが、僕もこれからの生活費がかかっているからね。悪いけど渡すことはできない、たとえ一つでもね。」
「そうですか・・・。なら、
い、今すぐ渡しなさい。さもないと、さ、刺すわよ。」
彼女は震える手でナイフを握っていた。
はぁ、実力行使できたか…。本当は優しい子なんだろうな。きっと刺したら刺したでキャーキャー叫ぶんだろうな~。う~ん、魔術師の使う護身用のナイフか。形と装飾からしてまだ見習いか。外見はもう一人前の魔術師になってもおかしくないのに…。きっと勉強そっちのけでこの薬草を買うために働いてたんだろうな。
ジュン
「ふぅ~、一つだけ君に言っておくことがある。人にばれないように尾行するなら、彼らを見習わないと。ね、最初の出てきたらって台詞は君たちにも言ったつもりだけどね。」
「な、何を言ってるの。私のほかにあなたをつけていた人なんて―――――――!?」
物陰からいかにも強そな人たちが5,6人現れた。そんでもって囲まれた。
そこの見習い魔術師さんは驚いて尻餅をついている。相変わらず震える手でナイフを握って。
「おい、あんたが運び屋ってこと、その中身が龍の角笛が13個ということは分かっている。大人しく渡せば痛い目には合わないぜ。おそらくここの依頼だからEかD、いや龍の角笛を運ぶぐらいだからCランクってところだろう。俺はな元Bランクだ。お前がどんなに頑張っても勝てねぇよ。」
リーダーらしいやつがしゃべる。
なるほど、元運び屋か。どんなにカモフラージュしてもなにがカモフラージュかばれているんじゃ仕方がない。
「あんたも運び屋ならわかるだろ。荷物を渡したら運び屋生命終わるっての。ど~せおたくは似たような取引を受けちゃって仕事が来なくなって盗賊やってるんだろ。」
「きさま~、あることないこと言いやがって。ぶち殺す!!」
「へぇ~、あることないことってことは、少しは当たってるんだ。」
挑発に引っかかったのか、リーダー格の男は大剣を抜き突っ込んできた。これくらいなら避けられる。ただこの見習い魔術師さんを巻き込まないように戦うほうが難しい。ま、いくら元運び屋がいるからって負けは・・・・・、
あれ?
リーダー格の男を含め3人が前衛、残り三人が後ろで魔法を唱えている・・・。
もしかして・・・・。
リーダー格の男
「はっ、今頃気づいたか。そうだよ、ここにいる全員が元運び屋さ。全員プロなんだよ。」
迂闊だった~~、まさか全員だとは。ここは普通リーダーだけがプロであとはごろつきじゃないの~~。3人の攻撃を避けるだけで精一杯なのに~~。
!? 前衛がいったん引いた。てことは魔法が来る!?
予想通り後衛のやつらが魔法を発射してきた。
火属性Lv1「バーン」 風属性Lv1「ヒウ」土属性Lv1「デコン」である。
回避することは容易い。しかしここで回避するとこの見習いちゃんに当たる。必然的に受け止めるしかないのである。
僕はチィッと軽く舌打ちをして、防御魔法Lv1「ゴガード」を発動させる。
ふぅ。まぁ、向こうもLv1の魔法だから受けとめる自信はあったが、起動詠唱を省略したのでちょっと不安だった。
ん?あいつらが驚いている。見習いさんも驚いてる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
!?しまった、起動詠唱省略はギルドクラスでもB以上が使うのが一般的だ!?。(運び屋以外にもギルドはあるよ)
「ま、待て。さっきから剣を帯びているのに抜こうとしないし懐に入っても反撃をしようとせず、避けてばっかだ…。おそらくやつは魔術師型もしくは僧侶型の運び屋だ。」
リーダー格の男がどもりながらそう言う。
「で、でもリーダー。あんだけごつい鞘…。きっと魔法剣士でっせ。」
「馬鹿野郎!!あの長剣は式典用の飾り刀だ。見ろ、実戦には向かないほど飾りがついている。おそらく切れ味も悪いし、折れやすい。こけおどし用だ!ランクの低い奴がよく使う手だろうが!!」
ピンポンピンポン大正解~。さすがリーダー格は違うねぇ、うん。
「いくら起動詠唱省略ができても集中する暇さえ与えなければいいだけだ。いくぞ!!」
再び前衛組が突撃、後衛組が魔法の詠唱を始めた。
ふぅ~、リーダー格の男の言うことは間違ってはいない。しかしいくらかの誤解がある。
1.やつらが会話している間に起動詠唱省略するだけの時間はたっぷりあった
2.式典用の剣でも使い方によっては切れる
そして―――――
3.ギルドのランクは仕事ができるやつが高い=実際の強さとは全く関係がない
ということだ。
僕はその剣を抜き、鞘と剣で突撃してきた二人の剣を叩き割り、リーダー格の男の攻撃を剣の腹に肘を当てることで軌道を曲げて回避。(式典用の剣は相手の剣もろとも折れました)
一瞬で二人の武器を破壊し同時に自分の攻撃を防がれたことにリーダー格の男は唖然とし、剣を折られた二人は何が起きたか理解した時にはもう戦意は消失していた。
その時、後衛組が放った魔法が放たれた。先ほどの起動詠唱省略を見たので先ほどよりも魔法のランクが上がっている。
火属性Lv2「イザバーン」 風属性Lv2「ア・ヒウー」 土属性Lv2「ボコデコン」
前衛組は敵に後ろを見せながら引いて行った。それほど強力なわけである。
が、
俺は迫りくる魔法に左手をかざし、
吸収魔法「アパイト」
吸収魔法「アパイト」:魔力吸収魔法。本来は手など相手の体に接触し相手の保有している次元片を吸収するものだが、使用者のLvが高いと魔法に変換された次元片までも変換⇒吸収してしまう。ただし直接触れてないと効果がないので、インパクトの瞬間に発動しないと失敗する。
(あ、悪魔だ・・・。アパイトの魔術吸収を成功させやがった。しかもLv2を三つ同時に・・・。
起動詠唱省略して・・・。
それでいて・・・・、涼しい,できて当然のような顔してやがる…。)
(ふぅ、危なかった…。実はイザバーンだけは吸収に失敗しちゃったよ。左腕だけノースリーブになっ ちゃったよ。あわてて隠したし、ポーカーフェイスでドヤ顔してるからばれてない、ばれてない。
う~、腕がヒリヒリする。涙を堪えるんだ、僕!!)
「ま、まだやる気。これでも60%の力しか出してないよ。」
「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」
少しの静寂が過ぎて、
「う、うわぁ~、化物だ~。逃げろ~。」
男たちは物凄い速さで逃げて行った。
ふぅ~、逃げたか…。よかった、これ以上ポーカーフェイスを続けるのは
!? 「あっ」
しまった。見習いちゃんがいた。ポーカーフェイスを維持しないと、ふん!
「あ、こ、こんな強い人にナイフを向けたの、私・・・。」
見習いちゃんはまだ震える手でナイフを握っていた。おそらく恐怖と驚嘆で体が固まってしまったのだろう。僕が彼女のほうを向くとビクッとしたが、体が固まっているらしくうまく動けない。
おまけに「あお、そお、はたし・・・。」このように呂律も回っていない。とりあえずナイフを握っていると危険なのでナイフだけは取っておこうと思い、取り上げた。
左手で・・・・。
肩から先の袖は燃え尽きて腕は真っ黒、おまけに少々煙が…。そしていつの間にかポーカーフェイスを乗り越えて、涙が頬を流れていた。
ぶっ、あっはっはっは~~~~~
見習いちゃんに盛大に笑われた・・・orz
落ち着きを取り戻したところで――――――
「ゴメンナサイ!!!!」
果たしてこの謝罪は強盗を働いた方だろうか、それとも僕を盛大に笑った方だろうか。変な所にこだわるのはよくないが気になる。
(すごく強いのに、すごく優しい人だ。実際にさっきの強盗団を誰ひとり傷つけずに追い返しちゃっ た。剣は壊したけど…。
あれ?でもどうしてこんなに強いのにランクがCなんだろ?
まさか!?世間一般ではこれがCランクな の!?私はまだ見習いで勉強そっちのけで仕事をやってったから魔法における常識がない。可能性としてはあり得る。・・・・・、でもあの強盗団のリーダーはBランクって言ってたわよね?やっぱりこの人が強すぎるだけかしら。)
見習いちゃんは少し考え込む表情の後、コロコロ顔が変わった。見てて面白いとかは思っても言わないのが大人だな、うん。
「あのーーー、どうしてそんなに強いのにランクが低いのですか?」
と、見習いちゃんが質問してきた。なるほど、何を考えていたのかある程度わかった気がする。
「ん?あ~、そのことね。
ギルドのランクは強さ基準じゃなくて、仕事の成功率が基準なんだ。僕はただ単に仕事をしないだけ。」
「?」
僕の言っている意味がわかっても納得できてない顔だな。
「僕はこの世界が好きなんだ。だからいろんなところに行きたい、見てみたい。運び屋の仕事もただ単に世界中を回れるってだけでなったようなもんだし。ま、僕は仕事はできるけどやらない人ってな感じかな。
ただ、そろそろまともに仕事しないとクビにされるかもしれないからね~。
というわけで、
冷たいようだけど荷物は渡せない。」
最後の台詞は眼を鋭くして言い放った。
彼女は思い出したのか急にガックリとうなだれ、地面に手をついて涙を流した。
「一応、約束の期限までまだ日にちはあるし、もうちょっと観光していこっかな。見習いちゃん、どっか良いところ知らない?そうだ、君のお母さんが住んでいる所なんかどうかな、養生しているところだろうからきっといいところなんだろうね。案内頼めるかな、見習いちゃん♪」やばい、最後棒読みになった・・・。
「えっ!?」
彼女は恐る恐る顔をあげた。彼女の泣き顔に僕の満面の笑みをぶつける。
「いいんですか!?仕事、クビになっても・・・。」
「まぁ僕は常習犯だからね。ギルドもわかってきて期限のたっぷりある仕事しか回さないし、少々荷物が減ってもうるさくない仕事しか回さなくなったし。前に期限より早く終わらせたらギルドのほうが驚いていたぐらいだもん。あっはっは。」
「あ、あ、・・・、ありがとうございます。ありがとうございます。ありがと――――」
その後、彼女は僕が止めるまですっとありがとうを言っていた。気持ちは分からなくもないが・・・。
「あの~。」
「ん、何?」いったん落ち着かせた後、見習いちゃんがおもむろに口を開いた。
「見習いちゃんというのは止めてくれませんか。」
「そういえばまだ自己紹介してなかったね。僕はジュン・カーザ え~と28歳。見ての通りラ、じゃなかった。テライオン。」
「私はメイル・マウア 19歳 見ての通りフェザリオンです。」
これが僕が何度も経験してきた出会いの一つ。でもこの出会いが後々の僕を変えることとなる。
「あの、一つ言い忘れましたが母はワタツミにいます。父がマリオンなので・・・。それでも大丈夫ですか?」
「!?
う、うん。全然大丈夫だよ。」(今回は報酬なしだけじゃ済まないかも・・・。)
次回へ続く―――――
長かった・・・。気がついたらこんなに書いていた。一場面作るだけでこんなに長くなるとは、小説とは奥が深い。戦闘シーンが描けずに悩んで足掻いた結果があれだよ、チクショー。
何かアドバイス、誤字・脱字等の指摘がありましたら、遠慮なくどしどし教えてください。恥ずかしいんで…。
次の更新も頑張るぞ、おぉー☆