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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

転生屋さん 続

作者: 佐佐木誉
掲載日:2026/05/07

「あぶない!」

 オレ、仙咲太一は幼子に迫るトラックの前に咄嗟に踊り出て、幼子を突き飛ばす。すまん!

 物凄い勢いでトラックが迫ってくる。

 ああ、このままオレは死ぬんだろう。

 人生ってあっけないんだなぁ。

 そんな悠長なことを考える余裕があることに、少し笑ってしまう。

 派遣社員のまま。

 親に小言を言われ続けたまま。

 そして、彼女を幸せにできなかったまま。

 オレの人生は終わってしまう。

 ヒーローになって世界を救うって夢は叶わなかった。

 でも、最後に子供を助けたヒーローになれた。

 いい人生だ!


 ド。


 衝撃と共に、オレは意識を失ったー。


※※※


「上出来だ」

 俺はターゲットを弔いながら、小さい助手に声をかける。

「この人はどこに行くの?」

 小僧は見るも無惨になった、血まみれのターゲットを指差す。

 1ヶ月。ほぼ人の死に動じなくなったのは大したものだ。俺はターゲットの遺したガキを、気まぐれから仕事の助手として使っていた。

 転生希望者に死を与え、その魂を望む世界に送り届ける、転生屋の仕事を。

 俺は仕事終わりの一服に手をつけると、煙たがるガキに構わず答える。

「『ヒーローオタクの俺は、異世界ギルドを戦隊知識で成り上がる』ねえ…。

 ニチアサっていうのか?こういうの。お前みたことあるか?」

「ない」

「そうか」

 何気ない会話を終えて、俺たちは清掃に取り掛かる。

 相変わらず、誰にも気づかれないまま。


 このガキの成長は目覚ましかった。

 最初は簡単な手伝いに使っていたが、ターゲットの追跡など、次第に仕事を覚え始めていった。

 現場に出すようになってさらに飲み込みが早くなった。

 ターゲットの誘導、はたまた今回はトラップへの導線となり、ターゲットの『運命的な事故』も演出した。

 もしかしたら、こいつはこの仕事をしに生まれてきたのかもな…。そんな考えが過ぎる。

 だが。

 直接の転生、即ち"殺し"はまださせてない。

 俺みたいに、前世で殺しまくったやつはどーでもいいが、こいつはまだせいぜい5歳。

 この世で生きていくのに、人を殺すような知識や経験は要らないどころか、足枷になるだろう。

 一応その辺は気をつけてるつもり…だ。


 掃除を終えて、ガキをトラックで家に送り届ける。

 夕方の首都高は空いていた。夕陽が沈み、高速道路の縁をオレンジに輝かせている。

 なんてぼんやりしていると、小僧が話しかけてくる。

「ねえ」

「あん?」

「今日はおじさんの家に行きたい」

「あのなあ…家に帰らないと母親が心配するだろ?」

 ただでさえ転生屋という難儀な仕事をしているのだ。そこに誘拐まで加わったら、仕事がやりにくくて仕方ない。

 それに、『同居人』に会わせたくない。

「だいじょぶ」

「どうして」

「今日はお母さん、本当のお父さんのところへ行くって言ってたから」

「…」

 コイツの父親は、俺が転生させた。

 だがそれは育ての親で、本当の父親は別にいる。コイツは、本当の父親のことが、そしてそれに付き合う母親が、どうも苦手らしかった。

「そうか。言っとくが、何ももてなせねーぞ」

「うん」

「あー、あと気をつけろ。同居人がいるんだが、あんまり万人受けするタイプじゃない」

「わかった。どんな人?」

「俺と同じような仕事をしてる」


 俺たち転生屋は、運命装置と言われている。神サマとやらのために魂の采配を、あくまで人間社会のイベントとして行う隠れた存在…。同居人もその1人、いや一つだ。

 俺が死を扱う転生屋なら、生、いや性を扱う奴もいる。

 俺が選ばなかったもう一つの存在、竿師だ。


※※※


「おかえりなさーい❤︎❤︎❤︎

今日は早いわね、お風呂にする?ご飯にする?それとも…❤︎

 あら、かわいい坊やだこと」

「(ビクッ)」

 俺の後ろに隠れる小僧。そりゃそうなるよな。

 色黒で屈強な大男、なのにやけに顔は幼くて金髪。そんな『いかにも』な男が、ハイテンションの女言葉で話しかけてきたら…。

「やだー❤︎この子引いてるー?ねえ、私たちってそもそも存在自体がエロとグロの18禁じゃない?そんなところに、いたいけな幼子を連れ込むなんて、罪なお人❤︎」

「はいはい」

 軽くあしらう。ガキはまだ後ろで震えてる。

「おい、大丈夫か?」

「う、うん…。この人が?」

「そう。えーと、なんだ、説明が難しいな…」

 端的に、ナンパ師とかセクシー男優みたいなもんだ、と言えればラクなんだが、5歳児になんと説明したものか…。

 そもそもコイツは運命装置のことを知ってるわけだし…。

「あらー❤︎私は、女の子の夢を叶える仕事をしてるのよ!テレビやYouTubeでよく見るアイドルと同じよー❤︎」

「そ、そうなんだ…たしかに、見た気がする…」

「そうよー❤︎仲良くしましょ♪」

「(ビクッ)」

「あらー可愛いー❤︎」

「こらこらトラウマを植え付けるな」

「…」

 なんだかガキが塞ぎ込んでしまった。やれやれ。

 そんなふうに内心ボヤいていると、竿役者が小声で話しかけてくる。

「ねえ聞いて聞いて!今日は3人よ!3人!

3人の女の子を幸せにしてあげたの!」

「幸せにしてあげた?ゴーマンだな。ゴーカンしたの間違いじゃないのか?」

「あらー心外!これを見ればそんなことを言えないはずよ!」

 竿役者はスマホの画面をグイグイ見せてくる。こら、5歳児のいる前で18禁の写真を見せるな。

「みてよ、この表情!この子の幸福を感じない!?

 誰にも言えなかった、心の奥に眠ったお願いが叶えられてる…。

 ずっと『いい子』だと疲れちゃうから、一晩だけ『悪い子』にしてあげちゃうのよお❤︎」

「人の女に横槍入れて、美味しい思いして、一晩でトンズラこく寝取り屋の間違いだろ」

「もー、そうだけど!でも私は女の子の欲望を最大限叶えるよう、努力してるのよ!

この口調だって、女の子の気持ちを深く知るためのものなんだから!」

「え?気持ち悪」

「もー!」

 竿役者は文字通り、役者だ。

 時に、女の子の好きなやつの顔をして現れ、時に妄想のようなシチュエーションを体現して出てくる。

 そして女の子のその、闇の願望?とやらを果たし終えたら、女の子が眠ってる間に消えちまう。

 しかも記憶も証拠も夜明けと共に消えちまうから、存在に気付かない、影法師。

 そうやって偏りすぎた魂に闇をぶつけて、浄化してるらしい…本当かよ?

「あ、そうだ!写真送らなきゃ!

えーと。

『いぇーい』『オタクくん』『見てるー?』…」

「こらこら。何送ろうとしてんだよ」

 あろうことかコイツはその女の子?の彼氏だか思い人だかに、さっきの刺激的な写真とメッセージを送ろうとしていた。

「あらー?もちろん思い人くんを煽るためよー?」

「お前なあ…記憶も証拠も無くなるからって悪趣味な…」

「誤解しないで!無くなるからこそよ!」

「あん?」

「きっと今夜、思い人くんは悔しさと悲しさに打ち震えるでしょう。どうしてこんなことになってしまったんだろう…って!」

「そらそうだ」

「でも朝起きたら、なぜ自分がそんな感情を抱いていたか思い出せない。証拠もない。

「はあ」

「でも…焦りはある」

「何?」

「『自分がこのままだと、ヒロインちゃんは誰かに取られちゃうかもしれない』」

「まさか…」

「そう感じて、勇気を出してもらうって寸法よ〜❤︎」

「最低の偽善者だな」

 殺し屋みたいな俺が言うのもなんだが。

「この子達の思い人って真面目で優しいんだけど、押しが弱いのよねえ。だからアタシたち運命装置が波紋を起こさないと、人間関係が発展しないのよ」

「まあ、それはあるかもな」

「そして幼馴染が非処女であることを知って、男の子は大人になっていくのよ…」

「最低の成人式だ」

 コイツの美学はよくわからん。

「大体さ、可愛くてスタイルもよくて性格もいい子がさ、ずっと清純で貞淑のまま待ち続けないといけないなんて…その憐れなことといったら…もう」

「もうそのへんにしとけ。夢を壊すな」

「あらー❤︎夢を見せる役者ですもの、夢を壊すのも作るのも、私の勝手よー❤︎」

「はいはい」

 なんて漫才みたいなやり取りをしてると、ジトっとした視線を感じる。あ、忘れてた。

 と同時に、竿役者のスマホが鳴る。

「あら!指令だわ!じゃ、あとよろしくー!チャオー⭐︎」

 スマホを確認するやいなや、嵐のように去っていった。忙しねえなあ。

 まだ震えてる小僧をみて、俺はため息を一つ。はー。

「まあ、アイツはなんだ、お前には刺激が強すぎたな」

「違うんだ」

「何?」

「僕、あの人のこと、どこかで見たことあるんだ」

 竿役者はほぼ人前に姿を出さない。そして人前に出る時も、ほとんど女の目以外には触れないはずだが…。

「そりゃ、他人のそら似じゃないか?」

「ううん、違うんだ。わかんないけど、あの人に僕は会ったことある気がするんだ」

「あー、街で見かけたこともあるだろうよ。まあ、その話はまた今度な。さっさと入れ」

「うん…」

 俺は半ば強引に、小僧を部屋の中へ促した。

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