転生屋さん 続
「あぶない!」
オレ、仙咲太一は幼子に迫るトラックの前に咄嗟に踊り出て、幼子を突き飛ばす。すまん!
物凄い勢いでトラックが迫ってくる。
ああ、このままオレは死ぬんだろう。
人生ってあっけないんだなぁ。
そんな悠長なことを考える余裕があることに、少し笑ってしまう。
派遣社員のまま。
親に小言を言われ続けたまま。
そして、彼女を幸せにできなかったまま。
オレの人生は終わってしまう。
ヒーローになって世界を救うって夢は叶わなかった。
でも、最後に子供を助けたヒーローになれた。
いい人生だ!
ド。
衝撃と共に、オレは意識を失ったー。
※※※
「上出来だ」
俺はターゲットを弔いながら、小さい助手に声をかける。
「この人はどこに行くの?」
小僧は見るも無惨になった、血まみれのターゲットを指差す。
1ヶ月。ほぼ人の死に動じなくなったのは大したものだ。俺はターゲットの遺したガキを、気まぐれから仕事の助手として使っていた。
転生希望者に死を与え、その魂を望む世界に送り届ける、転生屋の仕事を。
俺は仕事終わりの一服に手をつけると、煙たがるガキに構わず答える。
「『ヒーローオタクの俺は、異世界ギルドを戦隊知識で成り上がる』ねえ…。
ニチアサっていうのか?こういうの。お前みたことあるか?」
「ない」
「そうか」
何気ない会話を終えて、俺たちは清掃に取り掛かる。
相変わらず、誰にも気づかれないまま。
このガキの成長は目覚ましかった。
最初は簡単な手伝いに使っていたが、ターゲットの追跡など、次第に仕事を覚え始めていった。
現場に出すようになってさらに飲み込みが早くなった。
ターゲットの誘導、はたまた今回はトラップへの導線となり、ターゲットの『運命的な事故』も演出した。
もしかしたら、こいつはこの仕事をしに生まれてきたのかもな…。そんな考えが過ぎる。
だが。
直接の転生、即ち"殺し"はまださせてない。
俺みたいに、前世で殺しまくったやつはどーでもいいが、こいつはまだせいぜい5歳。
この世で生きていくのに、人を殺すような知識や経験は要らないどころか、足枷になるだろう。
一応その辺は気をつけてるつもり…だ。
掃除を終えて、ガキをトラックで家に送り届ける。
夕方の首都高は空いていた。夕陽が沈み、高速道路の縁をオレンジに輝かせている。
なんてぼんやりしていると、小僧が話しかけてくる。
「ねえ」
「あん?」
「今日はおじさんの家に行きたい」
「あのなあ…家に帰らないと母親が心配するだろ?」
ただでさえ転生屋という難儀な仕事をしているのだ。そこに誘拐まで加わったら、仕事がやりにくくて仕方ない。
それに、『同居人』に会わせたくない。
「だいじょぶ」
「どうして」
「今日はお母さん、本当のお父さんのところへ行くって言ってたから」
「…」
コイツの父親は、俺が転生させた。
だがそれは育ての親で、本当の父親は別にいる。コイツは、本当の父親のことが、そしてそれに付き合う母親が、どうも苦手らしかった。
「そうか。言っとくが、何ももてなせねーぞ」
「うん」
「あー、あと気をつけろ。同居人がいるんだが、あんまり万人受けするタイプじゃない」
「わかった。どんな人?」
「俺と同じような仕事をしてる」
俺たち転生屋は、運命装置と言われている。神サマとやらのために魂の采配を、あくまで人間社会のイベントとして行う隠れた存在…。同居人もその1人、いや一つだ。
俺が死を扱う転生屋なら、生、いや性を扱う奴もいる。
俺が選ばなかったもう一つの存在、竿師だ。
※※※
「おかえりなさーい❤︎❤︎❤︎
今日は早いわね、お風呂にする?ご飯にする?それとも…❤︎
あら、かわいい坊やだこと」
「(ビクッ)」
俺の後ろに隠れる小僧。そりゃそうなるよな。
色黒で屈強な大男、なのにやけに顔は幼くて金髪。そんな『いかにも』な男が、ハイテンションの女言葉で話しかけてきたら…。
「やだー❤︎この子引いてるー?ねえ、私たちってそもそも存在自体がエロとグロの18禁じゃない?そんなところに、いたいけな幼子を連れ込むなんて、罪なお人❤︎」
「はいはい」
軽くあしらう。ガキはまだ後ろで震えてる。
「おい、大丈夫か?」
「う、うん…。この人が?」
「そう。えーと、なんだ、説明が難しいな…」
端的に、ナンパ師とかセクシー男優みたいなもんだ、と言えればラクなんだが、5歳児になんと説明したものか…。
そもそもコイツは運命装置のことを知ってるわけだし…。
「あらー❤︎私は、女の子の夢を叶える仕事をしてるのよ!テレビやYouTubeでよく見るアイドルと同じよー❤︎」
「そ、そうなんだ…たしかに、見た気がする…」
「そうよー❤︎仲良くしましょ♪」
「(ビクッ)」
「あらー可愛いー❤︎」
「こらこらトラウマを植え付けるな」
「…」
なんだかガキが塞ぎ込んでしまった。やれやれ。
そんなふうに内心ボヤいていると、竿役者が小声で話しかけてくる。
「ねえ聞いて聞いて!今日は3人よ!3人!
3人の女の子を幸せにしてあげたの!」
「幸せにしてあげた?ゴーマンだな。ゴーカンしたの間違いじゃないのか?」
「あらー心外!これを見ればそんなことを言えないはずよ!」
竿役者はスマホの画面をグイグイ見せてくる。こら、5歳児のいる前で18禁の写真を見せるな。
「みてよ、この表情!この子の幸福を感じない!?
誰にも言えなかった、心の奥に眠ったお願いが叶えられてる…。
ずっと『いい子』だと疲れちゃうから、一晩だけ『悪い子』にしてあげちゃうのよお❤︎」
「人の女に横槍入れて、美味しい思いして、一晩でトンズラこく寝取り屋の間違いだろ」
「もー、そうだけど!でも私は女の子の欲望を最大限叶えるよう、努力してるのよ!
この口調だって、女の子の気持ちを深く知るためのものなんだから!」
「え?気持ち悪」
「もー!」
竿役者は文字通り、役者だ。
時に、女の子の好きなやつの顔をして現れ、時に妄想のようなシチュエーションを体現して出てくる。
そして女の子のその、闇の願望?とやらを果たし終えたら、女の子が眠ってる間に消えちまう。
しかも記憶も証拠も夜明けと共に消えちまうから、存在に気付かない、影法師。
そうやって偏りすぎた魂に闇をぶつけて、浄化してるらしい…本当かよ?
「あ、そうだ!写真送らなきゃ!
えーと。
『いぇーい』『オタクくん』『見てるー?』…」
「こらこら。何送ろうとしてんだよ」
あろうことかコイツはその女の子?の彼氏だか思い人だかに、さっきの刺激的な写真とメッセージを送ろうとしていた。
「あらー?もちろん思い人くんを煽るためよー?」
「お前なあ…記憶も証拠も無くなるからって悪趣味な…」
「誤解しないで!無くなるからこそよ!」
「あん?」
「きっと今夜、思い人くんは悔しさと悲しさに打ち震えるでしょう。どうしてこんなことになってしまったんだろう…って!」
「そらそうだ」
「でも朝起きたら、なぜ自分がそんな感情を抱いていたか思い出せない。証拠もない。
「はあ」
「でも…焦りはある」
「何?」
「『自分がこのままだと、ヒロインちゃんは誰かに取られちゃうかもしれない』」
「まさか…」
「そう感じて、勇気を出してもらうって寸法よ〜❤︎」
「最低の偽善者だな」
殺し屋みたいな俺が言うのもなんだが。
「この子達の思い人って真面目で優しいんだけど、押しが弱いのよねえ。だからアタシたち運命装置が波紋を起こさないと、人間関係が発展しないのよ」
「まあ、それはあるかもな」
「そして幼馴染が非処女であることを知って、男の子は大人になっていくのよ…」
「最低の成人式だ」
コイツの美学はよくわからん。
「大体さ、可愛くてスタイルもよくて性格もいい子がさ、ずっと清純で貞淑のまま待ち続けないといけないなんて…その憐れなことといったら…もう」
「もうそのへんにしとけ。夢を壊すな」
「あらー❤︎夢を見せる役者ですもの、夢を壊すのも作るのも、私の勝手よー❤︎」
「はいはい」
なんて漫才みたいなやり取りをしてると、ジトっとした視線を感じる。あ、忘れてた。
と同時に、竿役者のスマホが鳴る。
「あら!指令だわ!じゃ、あとよろしくー!チャオー⭐︎」
スマホを確認するやいなや、嵐のように去っていった。忙しねえなあ。
まだ震えてる小僧をみて、俺はため息を一つ。はー。
「まあ、アイツはなんだ、お前には刺激が強すぎたな」
「違うんだ」
「何?」
「僕、あの人のこと、どこかで見たことあるんだ」
竿役者はほぼ人前に姿を出さない。そして人前に出る時も、ほとんど女の目以外には触れないはずだが…。
「そりゃ、他人のそら似じゃないか?」
「ううん、違うんだ。わかんないけど、あの人に僕は会ったことある気がするんだ」
「あー、街で見かけたこともあるだろうよ。まあ、その話はまた今度な。さっさと入れ」
「うん…」
俺は半ば強引に、小僧を部屋の中へ促した。




