【思考実験】幸福の条件
いらっしゃい。
私はこの実験室の案内人「チトセ」です。
ここは、あらゆる人が思考実験の餌食……いえ、被験者となっていただき、一緒に考えて頂く場所です。
今回の実験は、「オメラスの地下室」よ。
この巨大なプラットフォームでは、切実な問題かもしれないわね。
――理想郷オメラスの繁栄を支える残酷な構造。
街の幸福は、地下室で苦痛と絶望に苛まれるたった一人の子供の犠牲の上に成り立っており、住人はその存在を知りながら享受し続けるか、拒否して街を去るかの選択を迫られます。
あなたは誰を犠牲にして、その上に立っているのかしら?
化けの皮が剥がれるのも、時間の問題ね。
さぁ、はじめましょう。はじめましょう。
「やっぱ、イマイチなのかぁ……」
PCにかじりつきながら小説を日がな書いているユキノは、自分のweb小説に伸び悩んでいた。
幾人か固定の読者は着くものの、あまり読まれてはいない。
「やっぱり、内容が硬いのか、最近の流行りじゃないしなぁ……」
ユキノは何気なくサイトを巡回していて、賑わっている小説を見つけた。
書籍化もされ、pv数もどんどん右肩上がりだ。
「やっぱ、面白い話って、こんなに読まれるんだ……」
ユキノは、頬杖をつき、マウススクロールをしながら軽い気持ちで読み始めた。
(ふーん。最近はこんな話が流行りなのかぁ……)
クリクリとスクロールしながら、ふと気が付く。
「あれ?」
(気のせい……かな?)
スクロールする手が早まったり、止まったり。
何度も読み返す。
(なんで?)
そこには、自分の書いた小説と同じ演出の羅列が並び、その頃から文体も急に変わり始め、あちこちに散らばっていた。
ユキノはすぐさま、同じ作家仲間に相談をした。
仲間が確認するも、やはりほぼ似たようなシチュエーション、同じ文体が使われていると言われた。
「それは、通報した方がいいですよ」
「そうですよ。同じシチュエーションが1箇所2箇所なら偶然かもしれないけど、こんなにあちこちに散らばってるの、おかしくないですか?」
ユキノは、仲間に背中を後押しされ、思い切って運営に通報してみた。
だが、帰ってきた返事は悲痛なものだった。
『まったく同じ文章や、まったく同じ演出が続いた場合でないと、著作権にはひっかかりませんからねぇ? 同じシチュエーションなんて、どこにでもあるでしょ? それに、人気作者に使われるんなら本望じゃないですか? 自分のアイデアで売れてるなら、それはあなたの手柄なんだし。そんなに気にすることではないでしょ』
ユキノは、飲み込むしか無かった。
「そうだよね……。私のアイデアでみんなが喜んでいるんだもの」
だが、そこでユキノは筆を折ってしまった。
彼は自分が、ユキノの文章を盗みながらも、目先の栄光から離れられず、ユキノが残していった小説を隅から隅まで解体し、使い続けた。
そして、彼がその後どうなったかと言うと、表向きは光を受け賛辞を受けながらも、影では真実が少しずつ漏れ始め、噂が囁かれるようになった。
その為、フォロワーは1人2人と徐々に彼の元から去って行き始めたが、それでもなお「売れるから」と持て囃され、光を浴び続けた。
この先、自ら破滅するとも知らずに……。
あらあら、ユキノは自分から動こうと思えば動けたのにね? 書く場所なんて、何処にでもあるのに。自ら諦めてしまうなんて。
彼は誰かが脱ぎ捨てた皮を繋ぎ合わせて、自分だけの『帝国』を築いたつもりでいた。
勘違いしないで。ファンが去ったのは、彼が盗んだからじゃないわ。
盗んだ言葉を『自分のもの』として愛する覚悟も、読み返す誠実さも、自分を追い詰める自己満足も……何一つ持っていないことが、彼の軽薄さで露呈してしまったから。
目先の栄光しか見れなかったからよ。
偽物は、光の下へ出た瞬間に灰になる。それだけの、ごく当たり前の自然現象よ。
皮だけを被った中身のない怪物に、誰も用はないわ。
あなたは、大丈夫かしら?
受けた影響は、自分の中で噛み砕いて、自分だけのオリジナルにすることをオススメするわ。
そして、誰かの犠牲の上に立つことを黙認しての幸せなんて、ほんの、一時しか続かないわよ。




