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裸の王様  作者: 蛇蝎
4/8

見えぬ物に拍手を送る群衆

 王様が玉座に座り、家臣が衣装を整えたとしても、

 それだけでは王国は成立しない。


 最後に必要なのは――

 拍手する群衆だ。


 群衆とは誰か。


 即ち「通りすがりの読者達」である。



 中には王様の服を気に入り、

 評価を押す。

 RTをする。

 ★を付ける。

 レビューや感想を残す者がいるだろう。


 

 だがそうではない、本当に通りすがりの読者はどうだろうか。

 立つ鳥跡を濁さずの如し、PVだけを残し去っていく。



* * *


 群衆は、無害に見える。


 意見を言わない。

 攻撃もしない。

 称賛すらしない者もいる。


 「自分は関係ない」

 「ただ読んでいるだけ」

 「好きなものを見ているだけ」


 その距離感は、とても安全だ。


 だが、群衆は無力ではない。

 むしろ、最も強い。


 なぜなら――

 数が、正しさに見えてしまうからだ。


* * *


 ランキング。

 PV。

 ★。

 ブクマ数。

 フォロワー数。


 これらはすべて、

 群衆の民意が可視化されたものだ。


 誰も「裸だ」と言わなくても、

 数字が伸びていれば、

 王様は服を着ているように見える。


 群衆は思う。


 「こんなに評価されているなら、きっと良い作品なんだろう」

 「自分が分からないだけかもしれない」

 「変なことを言うのはやめておこう」


 こうして、

 疑問は飲み込まれ、

 違和感は個人の問題にすり替えられる。


* * *


 群衆が最も恐れているのは、

 孤立だ。


 空気を壊すこと。

 流れに逆らうこと。

 自分だけが違うこと。


 だから、拍手する。


 よく分からなくても拍手する。

 心が動かなくても拍手する。

 違和感があっても拍手する。


 拍手していれば、

 少なくとも敵にはならない。


 沈黙していれば、

 責任を負わなくて済む。


 それは、とても合理的な選択だ。


* * *


 だが、ここに一つの罠がある。


 群衆は、

 「自分は何もしていない」

 と思っている。


 しかし実際には、

 何もしないこと自体が、現状を肯定している。


 王様が裸である世界を、

 今日も更新し続けている。


 群衆が去れば、

 王国は崩れる。


 だが群衆は去らない。

 なぜなら、

 居心地がいいからだ。


* * *


 ここで、あの童話を思い出してほしい。


 王様が裸だと最初に声を上げたのは、

 家臣ではない。

 王様本人でもない。


 群衆の中にいた、

 一人の子供だった。


 なぜ子供だけが言えたのか。


 立場がなかったからだ。

 守る地位がなかったからだ。

 失うものがなかったからだ。


 大人たちは皆、

 失うものを持っていた。

 

 あの服が見えないと、愚か者の烙印を押されてしまう

 皆が同じ服を見ているという空気を醸し出す事で、

 存在しない服を皆が幻視していたのだ。



* * *



 現代の創作界隈において、

 「裸だ」と言うことは、

 即座にリスクになる。


 空気が読めない。

 感じが悪い。

 嫉妬だ。

 アンチだ。


 そうラベリングされる。

 

 出たる杭は打たれるのだ。


 それを見て、

 群衆はさらに黙る。


 「やっぱり言わない方がいい」

 「面倒なことになる」


 こうして、

 真実を言う声は消え、

 拍手だけが残る。


 実に日本人らしい前に習えの精神である。




 群衆は、悪意を持っていない。


 だが、

 無関心と沈黙は、時に悪意より強い。


 王様は裸のまま、

 家臣は服を縫い続け、

 群衆は拍手を続ける。


 誰も嘘をついていない。

 誰も自覚的に騙していない。


 それでも、

 虚構だけが強化されていく。



* * *



 群衆の一人である限り、

 人は安全だ。


 だが同時に、

 何者にもなれない。


 読むだけの読者。

 拍手するだけの存在。

 数字の一部。


 次に語るのは、

 その沈黙を破った者の末路だ。


 「裸だ」と言った者は、

 この王国で、

 どのような扱いを受けるのか。


 そして――

 それでもなお、言う価値はあるのか。


 その話をしよう。

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