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裸の王様  作者: 蛇蝎
3/8

王様を着飾る家臣

 王様が裸でいられる理由は、王様自身の問題だけではない。


 むしろ、決定的なのはその周囲に集う者達。

 いわゆる「家臣(信者)」の存在である。


 家臣とは、何も玉座の脇に立つ忠臣のことではない。

 この創作界隈における家臣とは、

 日々王様の作品に反応し、

 称賛を送り、

 異物を排除する役割を担う人々のことだ。


 彼らは声を揃えて言う。


 「さすがです」

 「分かる人には分かる作品」

 「理解できない人が悪い」

 「これは高尚なんです」


 だが、その言葉の裏側にある動機は、実に多様で、そして現実的だ。


* * *


 まず最初に否定しておきたい。


 家臣達は、必ずしも悪人ではない。


 彼らの多くは、善良で、

 礼儀正しく、

 努力家で、

 創作を愛している人間だ。


 だからこそ厄介なのだ。


 彼らは、王様を騙そうとしているわけではない。

 自分が「服を着せている」という自覚すらない。


 彼らが守っているのは、

 王様ではなく、

 秩序である。


 王様を否定することは、

 この場の空気を壊すことに等しい。


 空気が壊れれば、

 居心地が悪くなる。

 居心地が悪くなれば、

 自分の居場所が揺らぐ。


 だから、言わない。


 見えていても、言わない。

 薄々感じていても、言わない。


 「言わない方が得だ」と、

 彼らは合理的に判断している。


* * *


 家臣の役割は、大きく分けて三つある。


 一つ目は、「称賛の供給」だ。


 王様の更新があれば即反応。

 具体性のない褒め言葉を並べ、

 場の温度を一定に保つ。


 「安定してますね」

 「完成度が高い」

 「今回も良かったです」


 これらの言葉は、

 否定もしていないが、

 深く肯定もしていない。


 安全で、無難で、

 誰も傷つかない。


 だが同時に、

 何も残らない。


 二つ目は、「異物の排除」だ。


 率直な感想。

 厳しい指摘。

 素朴な疑問。


 それらが現れた瞬間、

 家臣たちは動く。


 「言い方が悪い」

 「リスペクトが足りない」

 「分かってない人の意見」

 「空気を読め」


 直接攻撃しない場合でも、

 雰囲気で圧をかけ、

 問題提起を沈める。


 王様の耳に、

 不都合な音が届かないように。


 三つ目は、「自己正当化」だ。


 王様を褒めることは、

 自分の感性を褒めることでもある。


 「この作品が良いと分かる私」

 「この人を支持している私」

 「王様の側にいる私」


 それは、所属意識であり、

 同時に、安心材料でもある。



* * *



 家臣達は、王様のために動いているように見える。


 だが、実際には、

 自分の立場を守るために動いている。


 王様が裸だと認められた瞬間、

 これまでの称賛は何だったのか、

 自分は何を見ていたのか、

 という問いが、自分自身に返ってくる。


 それが怖い。


 だから家臣は、

 服を縫い続ける。


 見えない糸で、

 存在しない衣装を。



* * *



 そして、最も残酷なのはここだ。


 家臣達は、

 王様を堕落させているという自覚を持たない。


 むしろ、

 「支えている」

 「守っている」

 「応援している」

 と本気で信じている。


 だが、成長に必要なのは、

 称賛ではない。


 問いだ。

 摩擦だ。

 違和感だ。


 それらを遮断された王様は、

 進化しない。


 停滞する。

 劣化する。

 だが地位は保たれる。


 これほど残酷な環境があるだろうか。


* * *


 王様が裸であり続けるのは、

 家臣達が、

 「裸であることが問題にならない世界」

 を必死に維持しているからだ。



 その世界では、

 正直者が浮き、

 疑問を持つ者が疎まれ、

 沈黙する者だけが生き残る。


 王様は裸のまま安泰。

 家臣は居場所を確保。

 群衆は拍手を続ける。


 誰も即座には困らない。


 だが、その代償として、

 言葉は死に、

 批評は消え、

 創作は、ただの装飾品になる。


 次に語るべきは、

 この光景を見上げながら拍手を送る

 群衆の話だ。



 最も数が多く、

 最も無自覚な存在。


 裸の王様を完成させる、最後のピースについて。

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