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裸の王様  作者: 蛇蝎
2/8

王様はなぜ裸のまま立てるのか

 裸の王様は、愚かだったから裸だったのではない。


 むしろ彼は、極めて合理的で、環境適応能力の高い存在だった。


 王様は、自分が裸であるかどうかを「見て」判断していない。

 彼が信じているのは、視覚ではなく、状況証拠だ。


 評価。

 称賛。

 数字。

 ランキング。

 フォロワー数。

 RT。

 ★。

 ブックマーク。


 それらが積み上がっているという事実こそが、

 彼にとっての「服」である。


 ここで重要なのは、王様が自分を天才だと信じているかどうかではない。

 王様は、「自分が天才だと扱われている」という現実を信じているのだ。


 扱われ方は、現実を上書きする。


 褒められ続ければ、疑う理由は消える。

 持ち上げられ続ければ、確認する必要はなくなる。

 王様は、服を触る必要がない。

 なぜなら、誰もが「()()()()()()()()()()」と言っているからだ。



 裸であるかどうかを確かめる行為そのものが、

 この環境では「野暮」になる。


 「空気が読めない」

 「理解力が足りない」

 「才能が分からない側の人間」

 「妬み」

 「僻み」


 そういったラベルが、

 疑問を持つ行為そのものに貼り付けられている。


 王様は、それを知っている。


 だから彼は、裸でいることを恐れない。

 恐れる必要がないからだ。


* * *


 王様は、最初から王だったわけではない。


 多くの場合、彼はかつて「書く側」であり、

 評価を欲し、

 承認を求め、

 誰かに見つけてほしいと願っていた存在だった。


 だが、ある地点を越える。


 数字が一定量を超え、

 名前が認識され、

 界隈で語られる存在になる。


 すると、空気が変わる。


 批評が減る。

 質問が減る。

 疑問が減る。


 代わりに増えるのは、称賛だ。


 「さすがですね」

 「勉強になります」

 「真似できません」

 「自分にはとても書けない」


 これらの言葉は、一見すると賛辞だが、

 同時に「距離」を生む言葉でもある。


 王様は、孤立する。


 だがその孤立は、孤独ではない。

 王座という高さが生む、構造的孤立だ。


 下からは見上げられる。

 だが、横からは触れられない。


 誰も「そこ、裸じゃないですか」と言えない位置に、

 王様は立たされていく。


* * *


 ここで、王様が完全に自分を見失うかというと、そうでもない。


 むしろ厄介なのは、

 王様自身も薄々、気付いている点だ。


 何かが軽い。

 何かが響いていない。

 称賛は多いが、具体性がない。


 「すごいですね」

 「感動しました」

 「最高でした」


 それらの言葉が、

 自分のどの部分を指しているのか分からない。


 だが、数字は増える。

 作品を投稿すれば反応は続く。

 (先生)の地位は揺るがない。



 王様は、ここで選択を迫られる。



 疑うか。

 受け入れるか。


 そして王様は、受け入れる。


 なぜなら、

 疑うことにはリスクがあるが、

 受け入れることには利益しかないからだ。


 裸だと認めることは、

 これまで積み上げたすべてを、

 自分の手で否定することになる。


 王様は愚かではない。

 だからこそ、否定しない。


* * *


 王様が裸であり続けられる最大の理由は、

 彼が嘘をついていない点にある。


 彼はこう思っている。


 「これだけ評価されているのだから、何かがあるはずだ」

 「理解できない人間の方が間違っているのではないか」

 「自分は特別な存在なのだろう」


 これは詐欺師の思考ではない。

 環境に最適化された人間の思考だ。


 王様は、王様になることで、

 裸を確認する機会そのものを奪われた。


 批判が届かない。

 本音が上がってこない。

 率直な感想は、途中で消える。


 王様は裸だが、

 それを教えてくれる存在がいない。


 だから王様は、

 今日も堂々と歩く。


 拍手の中を。

 称賛の海を。

 見えない衣装を纏ったまま。


 裸だと指摘されない限り、

 王様は永遠に服を着ることができない。


 ――それが、この物語の本当の残酷さだ。




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