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Stay Here  作者: 多手ててと
門別

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16/16

16.新馬戦(4)

「いや、佐藤さん、見事な勝利でした」


「さすがは若いのに名伯楽と呼ばれる方ですね」


「馬と騎手、そして調教師の先生のおかげです」


悠馬は社交辞令に軽く返しておく。


ホッカイドウ競馬の場合、その年で最初の新馬戦をスーパーフレッシュチャレンジという。ホッカイドウ競馬は最も早く新馬戦が始まるので、それは即ち日本で最初の2歳の勝ち馬ということになる。


このレースは普通の新馬戦より賞金額も高く注目度も高い。地方競馬の新馬戦にしては珍しく、ウィナーズサークルで口取り式や記念撮影が実施される。逆に言えば、普通の新馬戦では口取り式を大抵はしない。もちろん例外は他にもあるが今日はない。


よって悠馬が競馬場に急いで行く用事は何もない。


「彼女の次のレースはモリオカなの?」


「それは難しいと思います」


新馬戦を半馬身差でなんとか勝った馬を遠征させる。それは中々リスキーな判断だ。高梨調教師だって、確かに芝向けかも、とは言ってはいたけれど、この状況で遠征に同意してもらえるかというと難しいのではないかと思う。


百歩ゆずって距離の長い条件戦であれば説得できるかもしれないけど、そう都合の良いレースは無い。


今から登録可能なのはジュニアグランプリ(盛岡:芝1600m:M1)だ。地方競馬全国交流レースだけどM1。漫才のグランプリではなくて、盛岡競馬で一番上のグレードの重賞のひとつだということ。少なくとも現状では勝てないから何らかの工夫が必要。


それにこの時期の2歳重賞がフルゲートになることはホッカイドウ競馬だとあり得ないけれど、盛岡芝コースなら抽選で弾かれる可能性がないとは言えない。


せめて距離がもっと長ければ勝つチャンスはあるかもしれないけれど1600。来年のせきれい賞(盛岡:芝:2400m:M2)ならまだ遠征する価値があるかもしれないけど2歳で2400mなどというレースはない。


そしてもう一つはリターンの問題。仮にすべてがうまくいって、ジュニアグランプリに優勝したとしても賞金は600万円だということ。門別から盛岡まで遠征するにはだいたい50~70万円ぐらいの費用が必要。バラツキが大きいのは他の遠征馬と相乗りできたりする場合があるから。


当たり前だけど遠征費は馬主負担。 馬だけでなく、騎手や調教師、厩務員の移動費や滞在費も馬主が負担しなければならない。だからと言ってお金を出せばいいでしょ? ということにはならない。


だって遠征している期間、騎手は他のレースで騎乗することは難しい。移動日は物理的に無理。レースがある日は話が付けば別の馬に乗ることはルールでは可能だけど、オファーが来るかは別。ホームにいた方が依頼が来るに決まっている。


そして騎手はまだマシで、調教師や厩務員は遠征した馬の世話以外は何もできない。


本当のことを言えば、今日は圧倒的な結果で勝って欲しかった。でもそれは勝った今だから言えるセリフであって、レース前もレース中も、とにかく勝ってくれたらハナ差でもいいと悠馬は思っていた。


やはり遠征は無理。次はどうだろう。8月のブリーダーズゴールドジュニアカップ(門別:ダート:1700m:H2)を目指すか? それともその前日の特別競走を目指すかのどちらかだろう。どちらも2歳限定、同じコースで同じ距離だけど、前者は重賞で優勝賞金は500万円だが後者は80万円ぐらい。賞金の差額がレベルの差になる。


素直に裏街道に行った方が良さそうだけど、そのあたりは高梨先生とこの後相談しようと思う。


「グランフェリスは……She is surely destined for grander arenas」


「彼女は大舞台が良く似合うって」


万里子さんが訳してくれる。


「ありがとうございます」


彼女たちの言葉は悠馬の助けにはならなかった。やっぱり馬主が足を引っ張っていると思う。


本当は最終レースが終わった後で、高梨兄妹に話を聞きたいところだけど、最終レースが終わるのを待っていたら21時ぐらいになる。その後話をしてから家に帰たら真夜中になってしまうし、兄妹だって疲れているところに押しかけられても困るだろう。


悠馬はおとなしくこのまま自宅に帰ることにした。


「皆さん応援ありがとうございました。こちらでお暇させて頂きます」


悠馬はソフィアとその取り巻きに頭を下げて貴賓室を出た。そのまま馬主会の建物を出て、競馬場の券売機に行った。この後のレースに賭けるわけではなくて、先ほどの応援馬券を換金するためだ。


100円のは換金せず手元に残し、10万円の方を払い戻す。単勝のオッズは12.5倍と買う前に見た時よりも少し上がっていた。地方競馬の新馬戦であればこの程度の上下は当たり前。10万円が10倍以上になって悠馬の手元に帰って来た。


グランフェリス自身の賞金が250万円あるので、しばらくの間は資金繰りは大丈夫だけど、次にいつ勝てるかはわからない。負けるよりは100倍良いけれど、やはりまだまだ不安が残る結果になった。

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