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01 選ばれなかったヒロイン達

 桐野春歌には大好きな幼馴染がいた。幼稚園の頃、泣き虫だった自分をいつも慰めてくれた彼____幸太郎。たとえどんな些細な事でも、私が泣いているといつもすぐに駆けつけて、涙の原因を取り除いて、私を笑わせてくれた。

 そんな彼に、卒業式の今日告白した。結果は玉砕。言い方は優しかったけれど、はっきりと断られた。ずっと好きだった分悲しみも大きかった。でも、自分と同じく彼を好きだった女の子達___夏希ちゃん、秋乃ちゃん、冬美ちゃん。彼女達も同じように彼に思いを伝えているだろうし、その3人の内の誰かが幸太郎と結ばれるのだろう。幸太郎を巡りながら、3年間一緒に過ごしたからこそ彼女達の良い所は沢山知っている。どれだけ幸太郎を好きなのかも。だから、幸太郎が3人の内の誰と結ばれても、納得できる。悲しいし、笑顔で祝福は出来ないけど____彼女達ならきっと私の大切な幼馴染を幸せにしてくれる。そしていつか、この失恋の傷が癒えたら、おめでとうと心から彼らを祝福出来るだろう。



 赤くなった目を擦り、目元に当てていたハンカチを仕舞う。そして春歌は中庭へと向かって歩き出した。そこにあるベンチで初めて5人でお昼ご飯を食べた。それぞれが幸太郎を追いかけた結果偶然集まり、一緒にお昼を食べた。それから5人でいる時間が増えた。高校3年間の殆どを5人で過ごした春歌にとって青春の始まりの場所といえるそこに、自然と足が向かった。






 中庭には先客がいた。屋外での陸上の練習によって小麦色に焼けた肌が健康的な、170㎝近い長身のショートカットの女の子、瀬名川夏希。そんな彼女とは対照的に人形のように白い肌を持つ、小柄で眼鏡をかけたおさげの女の子、小野寺秋乃。2人とも目は赤く、泣き腫らした事が一目で分かった。2人も春歌に気付く。彼女のその泣き腫らした目にも。

 3人は誰が幸太郎と結ばれたのか察した。この場に居ない最後の1人____本郷冬美。彼女が選ばれたのだ。3人は顔を見合わせて、悲しそうに笑う。夏希が口を開こうとしたその時、春歌は向かい側から人が歩いてくるのを見た。トボトボと落ち込んだ様子で歩いて来た人物を見て、春歌は愕然とする。




「………えっ」



 そこに居たのは、 幸太郎と結ばれたと思っていた冬美だった。彼女も泣き腫らした目をしていた。それが嬉し泣きのによるものではない事は酷く沈んだ表情から明らかだった。

 春歌の様子を見て夏希と秋乃も春歌の視線の先に目を向ける。冬美の姿を捉えた2人は驚きの声を上げた。春歌、夏希、秋乃の3人の姿を見た冬美も。




「な、なんでみんなここに居るの!?」

「それはこっちのセリフだよ!冬美こそなんでここに……幸太郎は?」




 夏希の問いに冬美は眉を下げ、寂しそうに答える。

「告白、したけど振られたのよ。その後幸太郎がどこに行ったかは知らない」



 それを聞いて4人は顔を見合わせる。春歌、夏希、秋乃の3人は今までこの場に居なかった冬美が幸太郎と結ばれたのだと思っていた。冬美は、自分以外の3人の内誰かが幸太郎に選ばれたのだと思っていた。しかし、4人は泣き腫らした顔でこの場にいる。明らかに振られて泣いていた事が分かる顔で。



 

「念の為聞くけど、貴女達、幸太郎に告白した?誰かOK貰ったの?」

「告白はしたけど...振られたよ」

「ウチも」 「...私も」





 彼女達4人は、皆この中の誰かが幸太郎と結ばれるのだと思っていた。この中の誰かが彼の運命の人だと。自分がそうなれるように_____彼のヒロインになれるように高校生活を彼の傍で過ごしてきた。だが、現実は違った。 





 4人とも彼のヒロインには選ばれなかった。

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