間話:とりあえずお風呂に入ることにしたよ。
今日一日を振り返ると、本当に色々ありすぎた。
ふと、一日にあったことを順を追って思い出す。
まず、スマートフォン──ジェナとの朝からご対面したこと。
彼女には生成という能力があり、俺の言葉一つで物体を作り出すことができること。
また、俺の深夜テンションの言葉で家電達が擬人化してしまったこと。
そして、その原因が俺の欲望から生まれてしまったこと。
その後も、リーゼントヤンキー化してしまった元電子レンジだったり、何か夜を駆け抜ける謎の仮◯ライダーもどきになってしまった元電灯だったりに出会ったりして──とにかく、朝っぱらから夜までとんでもねぇ出来事が起きてしまったのだ。
改めて振り返ると訳が分からん。
……俺の深夜テンションの言葉一つでこうなったわけだけど、しょうがないじゃないか。
まさか俺のスマートフォンが、家電を実体化させるなんて分かるわけないじゃん。
俺じゃなくてもどうしようもないと思うよ。
なんて言い訳を脳内で並べている俺だが、ぶっちゃけ今はそんなことをしている場合ではないのだ。
夕飯(ジェナに介護みたいな感じで食べさせられていた)を食べ終えた後の、ジェナの一言が原因だ。
「そろそろ汗を流しましょうマスター。当機がマスターのお背中を流します。準備してください」
「ポォ……??」
案の定、思わず俺は鳩になった。
当然のように俺は、お風呂場で言葉通り全裸待機することにした。
そして今に至るわけだ。
分かっている。
今の俺は単純だ。
思考が欲に忠実になっている。
しょうがないじゃん。
夜も遅いし、頭も舞い上がってるし。
俺は現役の男子高校生なんだ。
だって一つ屋根の下で、美少女と過ごしてるんだ。
冷静に考えたら、理性が一つ爆発してもおかしくない。
……まぁ表情一つ変えることをしないから、正直未だに怖いけど。
だがしかし。
それでもしかし。
このシチュエーションは、全力で楽しまなくては損ではないか。
だって漫画みたいじゃん。
正直興奮するじゃん。
さぁこい。
とりあえずこい。
ばっちこい──。
「お待たせしました。マスター」
ジェナの声を聞いた瞬間、俺は下らない思考を止めすぐさま振り返った。
湯気なんてない。
規制なんてない。
素っ裸な彼女が。
俺の目の前に……。
……。
……うん。
率直な感想を言おう。
絶壁だ。
朝っぱらから引き続いて失礼すぎる?
そうだ。
それは重々承知している。
でも言いたくもなるよ。
理想と現実のギャップのズレが大きすぎるとさ。
そもそも彼女の身体、人間じゃねぇもん。
メタリックなんだもん。
銀色だもん色々。
でもそっか。
元々、何か喋り方とかロボットって感じだもんね。
【当機】って、自分が機械であることを自覚してるわけだもんね。
なら仕方ない。
しょうがない。
いや仕方なくねぇし、しょうがなくもねぇ。
かえしてくれ俺の興奮。
かえしてくれ純粋な欲望。
「どうかされましたか?」
「いや……うん。なんでもないよ、なんでもない」
やめろやめろ。
露骨に残念そうな声音で応答するんじゃねぇよ俺。
ちくしょう。
せめて俺がロボフェチな特殊性癖持ちだったら興奮できたのに。
……いや、それは違うわ。
「それでは、まずは頭から洗いましょうか」
「……うん。よろしくね」
……まぁでも、これでジェナが人間を超越した何かという確認が改めてできた。
世界的に見れば、まだまだ人型ロボットなんて普及していないわけだし。
「それでは失礼します。マスター」
ピトッと、俺の頭皮にジェナの手のひらが当たる。
思わずビクッと、俺は身体を震わせた。
……おおっと、どうした。
なぜこんなにもドギマギしているんだ俺は。
やっぱあれか。
曲がりなりにも、思わぬシチュエーションだから余計に心を踊らせているのか。
もしかしたら、ロボフェチに目覚めるかも──。
「あだだだだだだだだだだだだだだだだだっ」
メキメキと、頭から嫌な音が鳴り始めた。
ジェナが俺の頭に触れてからだ。
明らかに鳴っちゃいけない音だよこれ。
死ぬ。
やばい死ぬ。
「ジェナナナナッ。とめめめめめめて」
「かしこまりました」
北斗の◯みたいな奇声を出しちゃったよ。
「……ジェナ。もう少し力抑えられる?」
「力は抑えてます。マスター」
「え。うそ」
「嘘は言ってないです。言ったこともありません」
「そ、そっかぁ……」
なるほど把握した。
また一つ、ジェナが人間を超越した何かという証明ができた。
だからこそ、ジェナに言わなければ。
「ジェナ。やっぱり、自分で身体は洗うよ……」
「え」
かくして、お風呂騒動は静かに幕を閉じた。
……ただ一つ言えることは、思ってたのと違うということだ。
今に始まったことじゃないか。
朝っぱらからこんな調子だものね。
ははは。
はぁ……。
……ちくしょうめ。