06
現在、シジマ家一同、ベルナエリ冒険者ギルドの応接室にて面談中。
目の前のバリバリに"圧"を掛けてくるコワモテなおっさんは、
ギルドマスターのヴォグノールさん。
「うちの若い衆が、すまんな」
いえいえ、良き冒険者には正義感の有無も大切な要素。
後は、人を見る目を養いましょうってことですよね。
「……それで、『アンノウン』クラスの凄腕冒険者様が、この町に何の用だ」
北方諸国をあちこち観光したいので、
このベルナエリを拠点にしようかと。
今回はちょっとだけ不幸な行き違いがありましたが、
なるたけ揉め事を起こさないようにしますので、
この件は出来れば穏便に……
「ふん、そうしてもらえるとありがたい」
「最近妙なよそ者がうろちょろしていて、どこの国もピリピリしてるんでな」
おや、この辺りで何か面白イベントでもあるのですか。
エルサニアの友人たちからは、特に何の連絡も無いのですが。
「何度も言うようだが、このままおとなしくしていてほしいだけだ」
「エルサニアやリグラルトではどうだか知らんが、うちの国の流儀ってもんがある」
「『アンノウン』ならどこで何してもいいってもんじゃないだろ」
……ごもっともです。
それじゃ俺たちは次の行き先を決めたら、
とっととこの町から退散させてもらいますね。
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冒険者ギルドを出たら、町の商店街で物資の補充。
何だか、お店の人たちから妙に警戒されちゃって、
いつものノリで買い物を楽しめません。
残念だけどこの町では、宿を取らずに先に進んだ方が良さそうだね。
「もしもし、シジマさんっ」(小声)
はて、路地裏から聞こえてくる、
小声なのに、やけに聴き取りやすいあの萌え声は……
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路地裏にいたリシュナさんは、
俺に手紙を渡すと、すぐに走り去っていきました。
『恥ずかしがりやさんの後輩が、大好きな先輩にこっそりラブレターを手渡しちゃうイベント!』
ちょっと、チミコさん。
そんなツッコミ成分だらけのセリフを言われても流石に困っちゃうんですけど。
先輩後輩の間柄どころか全く面識も無いし、
そもそもこの手紙はラブレターじゃないし。
「でも、しっかりとキスマークが……」
もしもし、ツェリアさん。
いくらなんでも、そんなベタなことは……
……キスマークっすね、コレ。
「ラブレター開封の儀は、必ず単身にて行うべき」
「私たちは席を外すので、ごゆっくりどうぞ」
えーと、サイノさん。
確かにその行動こそが大正解なのでしょうけど、
流石に今すぐソレを実行しちゃうのは恥ずかしいのですが。
「まあ、この手のイベントを進めるには積極的な行動あるのみってことで」
「ここでは恥ずかしいのなら出来るように協力するから、とっととヤルことヤッちゃうべき」
……なんか人ごとだと思って好き放題言ってません?
俺はモルガナさんと違ってデリケートな坊やなので、
あまり煽ったりしないでくださいな。
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みんなから引きずられるようにして町を出たら、
ひと気の無い場所に用意された"一軒家テント"に放り込まれた、俺。
百歩譲って、この手紙がラブレターだったとしても、
ムード無さ過ぎなこと、この上無し……