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ありきたりで平凡な私の日常になるはずだった日の話

作者: 見崎志念

2011/03/11

 私はその時中学三年生だった。雪が積もる東北の田舎に生まれて、割と平凡な日常を過ごしていたと思う。

 その日も、短縮授業か何かで早めに学校が終わって、さあ、帰ろうって時だった。


 揺れた。


 ああ、割と大きな揺れだ、震度四とかそんなもんかな。

 なんて一瞬の揺れで考えて、三秒後には覆った。

 縦揺れとか、横揺れとかそういう話を聞いたけれど実際に経験したことなんてなくて、ああ、これは死ぬかもしれないって直感的に思った。


 あの時の揺れはどれくらい続いたんだろうか。体感としては2分ぐらいだけれど、もう正確な時間を調べたいとは思わない。


 まだ明るい中だったから何ともなかったけれど、電気はあの時に止まったんだと思う。

 

 自身の時の反応って人それぞれでさ、

 めちゃめちゃビビッて友達の腕にしがみつく奴

 真面目な顔して荷物抱えてるやつ

 面白半分でふざけ始める奴


 ああ、そうだ。あの時私は笑ってる人たちに怒りがわいたんだ。笑ってる場合じゃねぇだろ。なんて強く言えるほど理性のタガは外れてなかったので、何も言わずに黙っていた。


 周りの反応を見ながら、私の頭の中は家族のことでいっぱいだった。

 家族はみんな無事だろうか、家にいる祖母はあの揺れで転んではいないだろうか、家自体老朽化が進んでで潰れてしまってはいないだろうか。

 焦りだけがずっとずっと頭を埋め尽くしていく感覚を今でも覚えている。

 校内放送を待つ間、扉の近くの椅子に座って貧乏ゆすりをしながら上着を着てカバンを背負って待っていたはずだ。

 

 確かあの時、クラスごとだったか学年ごとだったかで帰宅していくことになったんだ。

 やっと自分たちのクラスが帰れる番がきて、すぐに教室飛び出して靴を履き替えて外に出た。

 それと同時にまた揺れた。

 さっきのよりも弱い揺れ、ああ、余震ってこういうやつかって思いながら一応しゃがんだ。


 体育の先生がなんか叫んでたと思う。その場にしゃがめとか、そんなかんじ。


 余震のあと、頭にあった祖母が倒れてるイメージが強くなっちゃって、無視して走り出したんだ。

 家までは歩いて10分くらいの距離だった。


 走っていく途中、信号機の電気が全部消えていた。

 電線はさっきの余震で揺れている。

 

 見慣れてるはずの景色から色が抜け落ちたようだった。

 

 中二病全開だったから、荒廃した世界ってこんな感じなんかなってなんとなく思ったのも覚えてる。


 正直体力はない方だから徒歩10分くらいの距離を走り切れる体力なんてないんだわ。

 それでも足を止めたくなくて、喉が焼けるように熱くなって、すった息が痛くて苦しくて。

 

 その痛みのたびに家族が倒れてるかもしれないって景色が脳裏に浮かんで。

 生きててくれって気持ちだけで走り続けた。


 多分自己ベスト更新して家が見えるところまできて、よかった潰れてなかったって気持ちと、おばあちゃんが何ともありませんようにって気持ちで玄関開けて


「ばっちゃ!!」


 って叫びながら家の中にどたどた入ってった。

 いつも祖母がいる居間で弟と布団にくるまって座っててくれた。

 ああ、何ともなかったんだ。よかった。


 そしたらもう足の力抜けちゃってさ。

 二人とも抱きしめたような思い出がある。


 これが私の中で強く残るあの日の思い出だ。


 でも、こんなもの、なんてことはないありふれたものだと思う。

 寒いあの時期に一人だけで家にいて家族が帰ってくるのを待ってた祖母の気持ちは想像するしかできないけれど、おれなんかよりももっと寂しかったと思う。


 家族がいてくれた俺なんかよりも、もっとつらい思いをして、もっと大変な思いをした人がいることも、知っている。

 

 知っているとしか、言っちゃだめだと思う。わかるだなんて、言っちゃいけないと思う。


 私は少なくとも、あの日を忘れることはないし、あの日感じた気持ちを忘れることはできない。

 

 それでも今日は、なんてことはないただの日常で終わった。

 喉が痛くなるほど走ってないし、むしろお酒飲んでゲームやって映画見てた。


 それでいいんじゃないんかな。忘れないってだけで楽しんで生きていいんじゃないんかな。 

頭の中にごちゃごちゃと浮かぶ、今日という日の気持ちはどうにもまとまらないもんですね。


 家族が生きててよかった。

 日常が戻りつつあってよかった。

 

それくらいだけあればいいと思うんです

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