1-1話 魔王にプロポーズされて困ってます!
ここは魔物の特徴を持つ人間「魔人」が暮らす国、ガルディアの本拠地である魔王城。そこの頂上、魔王の玉座の前では今まさに魔王と勇者が対峙していた。
「魔王、きさまの命はここで終わりだ!人間の平和のため、僕がお前を倒す!」
あどけなさの抜けきらない12歳の幼い少年が玉座でくつろぐ魔王に勇者の剣を向けた。それを受けて魔王はニヤニヤと口元を歪め始める。
「ククっ......貴様のような少年が勇者か」
魔王は綺麗な白い長髪をいじりながら言う。頭に生えた狼のようなケモ耳がピクピクと揺れた。
「何がおかしい!」
自分のことを馬鹿にしているかにしか見えない魔王に対し少年勇者は露骨に怒りを向ける。
「い、いや......何もおかしくなどはないさ、クク」
「貴様、馬鹿にして!」
勇者はますます怒りをヒートアップさせる。ずっとクスクスとニヤけている魔王の態度があまりにも気に入らなかったからだ。
「馬鹿になど......クク、クククク」
「馬鹿にしてるから笑うんだろう!」
勇者のその考えは至極当然のものだろう。誰だっておかしくもないのに笑われたら馬鹿にされていると思う。
しかし実際魔王は本当に馬鹿にしていなかった。むしろ心の内にあるのは明るい感情である。
「クク、クククク」
魔王は笑う。それは溢れる初めての感情に歯止めが効かなくなり溢れる笑いだった。
そう、魔王の心はただ一つの感情で満たされていたのだ!
「ククククククク」
(クククソかっこかわいいのじゃが!勇者!)
それは恋!具体的に言うと一目惚れ!魔王は勇者に一目惚れをしてしまったのだ。魔王は恋をしてしまったのだ。
(え、どうしよう。こんな愛らしい勇者と余は戦いたくないのじゃが)
魔王はなんとか勇者と戦わず、出来ればお近づきになれないかと思考を巡らす。しかしその思考を遮るように勇者が吠える。
「どうした来ないのか魔王!ならこちらから行くぞ!」
勇者はやる気十分で今にも魔王に斬りかかりそうだ。
「ま、待て勇者!少し落ち着け......」
「ふん、命乞いか......悪いが国のため聞くつもりはないっ!」
「そもそも我らが戦う意味はあるのだろうか......!」
魔王の口から出た意外な言葉に勇者は動揺する。魔王と戦う理由。国や親に言われて戦ってきた勇者はそんなことを考えたこともなかったからだ。しかし少し考えてすぐに答えは出た。
「そんなものは決まっている。貴様を倒せば魔神国は我が国への侵攻をやめ平和になるからだ」
魔王はその言葉を聞きもしかしたら戦わずに済むかもしれないと考えた。勇者はこの戦争の概要を理解していないのだ。説得次第ではもしかしたら......という思惑が魔王の脳裏をよぎった。
「......聞き捨てならんな。そもそも先に攻めてきたのはそちらの国だろう」
「えっ......?」
「我らは平和に暮らしていたというのに土地欲しさにそちらの国が攻めてきたのだ。もちろん我らもただでやられるわけにはいかぬゆえやり返しもするが基本的には自己防衛をしているだけ。客観的に見れば悪逆な侵略をしておるのはそちらだろう」
「えっ......でも父さんも王様もそんなことは......」
その様を見て魔王はほくそ笑む。
(困っとる姿もかわええのお。大方勇者の素質があったゆえ大人達の言われるがままここまでのきたのじゃろう。これはいけるぞ......!)
魔王は心の中でガッツポーズをした。
「ええい!魔王!嘘をついて僕を惑わすのはよせ!我が国がそんなことするわけないだろう」
勇者は考えるのをやめ再び魔王に剣を向けた。宿敵である魔王よりも父や王様の方が信用できると判断したのだ。だがそれは一瞬チラついた不都合な現実から目を逸らしたにすぎない。
「ああいや信じないのならそれもいいのだぞ?しかしろくに真実も知らずに人を悪人扱いとは、なるほど勇者とはそんな人間だったか。いやー悲しいのお、なーんにも悪いことしてないのにのー!」
魔王はわざとらしく悲しがる。勇者はその魔王を見てまともに剣を振るえなくなっていた。確かに自分は大人達の言葉を鵜呑みにしてきただけでこの戦争について自身で知ろうとしていなかったことに気がついたからだ。だが、それでも勇者は止まらない。
「いや、もしそれが真実であったとしてもやはり貴様は悪人だ!」
「な、なして⁉︎」
魔王としてはその言葉は意外だった。魔王なんて仰々しい職業についてはいるがそんな風に言われるような悪いことをしてきた覚えがないからだ。
「貴様は自国の民を苦しめていただろう!辺境の村は戦争による貧困と飢えで苦しんでいたが、この魔王城がある都市は物資と富で溢れすごい賑わいようだ!貴様がしっかりすれば辺境の者達も苦しまずに済んだはずだろう」
「え?なんのことじゃ......そんなはずは、」
「とぼけるな!」
勇者が叫ぶ。その瞳は真剣そのもので魔王は見てもそれが嘘をついているようには見えなかった。
「お、おい!アガレス!ちょっとこい!」
魔王はそう叫ぶとパッと長身の男が現れた。男は塩顔のイケメンで小さなツノを生やしているので魔人だ。
「誰だそいつは!」
「こやつの名はアガレス。余の側近じゃ。民の生活に関してはこの者に一任しておる」
「初めまして勇者殿。アガレスと申します」
アガレスは勇者に向かって礼儀正しくお辞儀をした。
「クソっ!仲間を呼んだというわけか!」
「か、勘違いするでない!少し確認をしようと思って呼んだのじゃ!アガレス、貴様前に民は変わらずに暮らせていると余に報告したであろう」
アガレスは少し考えて返事をする。
「はい。我が国の民はみな変わらず平和に暮らせていますよ」
「嘘をつけ!辺境の村の者達は木の根を食べて飢えを凌いでいたぞ!」
勇者はすかさず突っ込む。勇者は魔王城に来る道中で散々魔神国の実態を見てきていた。
「どうなのじゃアガレス」
「ええだからみな木の根などを食べて平和に暮らせていますよ」
「......いやダメじゃろそれ!お主人の心とかないのか!?」
魔王はアガレスに怒鳴る。勇者はほーらみろといった顔で相変わらず剣を構えている。
「木の根を食べて生きるとか危険はなくとも平和とは言えん!何考えとんじゃお主!」
「いえ、私は生きるのに食事を要さないのでその辺よく分からないのですが......」
アガレスは困惑する。この男は優秀で頭脳明晰だがそれ故に少しズレていた。
「ほら見ろ魔王!やはり貴様は民を苦しめる悪人だ!覚悟っ」
勇者は剣を魔王に向け今にも飛びかかりそうだ。
「わー!待て勇者!分かった!民が苦しまぬように余が直々に手配する。ほらこれで戦う意味はないじゃろ?」
勇者は考える。別に魔王が悪人じゃなかったとしても、魔王軍の主要戦力である魔王が死ねば戦争は止まるのだから戦う意味はある。魔王だってそんなことぐらい分かっているはずだ。なのに何故か戦うつもりがない。それどころかなんとかして戦いを避けようとしている。
「魔王、なんでそんなにオレと戦おうとしない!侮辱しているのか?」
勇者は単刀直入に聞いた。このまま戦ってもモヤモヤして集中出来る気がしないしそもそも戦うつもりのない者と戦うのは善良な勇者の心が痛んだ。
「え〜そ、それ聞いちゃう?」
魔王はモジモジしながら10代女子のような口調で言う。いや実際魔王は16歳なので10代女子で間違いはないのだが貫禄があるので雰囲気だけでいえば20代前半に見える。どっちにしろ美人なのは間違いないが。
「言え!貴様は何故ボクと戦わない!」
魔王は少し言い淀む。答えは勇者が好きだからだ。そんなことは素直に言いづらい。だが魔王は腹を括った。この気持ちは声に出さねば伝わらない。魔王は魔王という職業をやっているだけあって度胸があった。魔王は勇気を振り絞る。「お主のことが好きだからだ!」この一言でいいのだ。
「......だからだ」
「なんて言った」
「お主のことが好きだからだ!結婚してくれ!」
魔王は勇気を振り絞りすぎ、勢い余って求婚までしてしまった。しかしそこに後悔はない。むしろ本気で好き感が出るのでグッドだ。それにこんなにカッコよくて可愛い勇者と結婚できたら言うことなしだ。魔王はポジティブに考えることにした。
さて、魔王の勇気を振り絞った愛の告白に対して勇者は......!
「え?えっえ、ええええええ!」
ただひたすらに驚愕と困惑であった。
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