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一時避難と魔猫の生活

「それで、これからどうすればいいの?」


魔猫は歩き始めた魔女の後ろをついて歩きながら尋ねると、彼女は言った。


「とりあえず、うちに来てください。まずは服、服を貸します……いえ、差し上げますから!」


そうして二人は魔女の家に移動した。

幸い人間にも獣にも遭遇することなく家までたどり着くことができた。

ここで人間に遭遇しようものなら大騒ぎ間違いなしだ。

とりあえず羽織りものだけをした裸の美女を家の中に押し込み、窓の近くにはいかないように言うと、魔女は自分の服を彼女に渡した。


「とりあえずそれを着てちょうだい。えっと、その広がっている方を頭からかぶって、この穴から手を出せば着られるから」


魔女が渡したのはすっぽりとかぶるだけで着られるワンピースだ。

魔猫は魔女に言われた通りにすると、確かに体の大部分が隠れた。

出ているのは頭と手と膝から下の足だけだ。


「人間の服って窮屈なものばかりだと思ってたけど、こんな楽なのもあるのね」


人間のフリをして街を歩いたことのある魔猫は、体を締め付けないワンピースという服を気に入って、くるっとまわって見せた。


「実はその形の服はあまりないですよ。かぶってすっぽり着られるのって寝巻に多いんです。それは偶然見つけたものですね。あ、スカートの中とか見えないよう、おしとやかにしてくださいね。足を上げたりとかダメですよ?人間はそんなことしませんから」

「私この服気に入ったわ!それにしても人間は楽な服を着ても自由に動いたりできないのね」


足を動かしても手を上げても締め付けられる感じがない。

人間のフリをする時に着ていた服は、足を大きく開くことはできなかったし、腕を上げようとすると肩の部分が動かしにくかったりして不便だったのだ。


「そうだ!それだけだと寝巻に間違われそうなんで、腰の部分にこのリボンをしましょう。これでより洋服らしくなります。あ、きつく締めないので動かないでくださいね」

「わかったわ」


ワンピースを喜んでいる魔猫を見て、思わず着飾りたくなった魔女はリボンを付けたところで、思いとどまった。

本当なら髪も結いたい。

でもそれは後でいいだろう。



着替えの落ち着いたところで、魔女は魔猫に座るよう促すと、彼女はちょこんとソファーに腰を下ろした。


「さっきの確認だけど、この呪い、あなたが付与したの?」

「元を考えた人はもちろん別ですが、今回の付与は私ですね」


そう答えてから魔女は客人となった彼女にお茶を出そうと立ち上がった。

着替えている間にお湯を沸かし、お菓子の準備はしてあったので、後はそのお湯でお茶を入れるだけである。

そしてふと、魔女は彼女に尋ねた。


「あの、お茶はティーカップでいいですか?」


そう聞きながらお茶の準備をしている魔女に、魔猫は普通に返事をした。


「ええ。一応、人間と同じ食器を使えるわ。魔猫は人間に姿を似せて街に行ったりする事もあるから、ある程度同じ動作ができるのよ」


魔猫がそう自慢すると、魔女は感心したように言った。


「じゃあ、ティーカップにお茶を入れますね。あの、もしかしてさっきすぐに二本足で立てたのも……?」

「普段やっているからよ」


元々この動作に慣れているから、この体になってもすぐに動けたのだと魔猫が説明すると、魔女はうなずいた。

馬の前に飛び出した時のことは良くわからない。

その時の魔猫の動きは、相手を庇う、突き飛ばすというものに近かったので、その時どう歩いていたかまでは分からなかったのだ。

けれど森からここに向かう時、人間になった彼女は猫のように四足で歩くことはせず、二足歩行をしていた。

しかも少しゆっくりとはいえ、普通の速度で歩くこともできていたのだ。

それを不思議に思ったのだが、どうやら呪いのおかげで人間に近い動作ができるようになった訳ではないらしい。

話を聞いて、魔猫が変装して街に行く姿を想像し微笑ましく思いながら、魔女はお茶とクッキーを勧める。


「そうなのですね。あ、お茶、冷めないうちにどうぞ」

「えっとそれは……」


湯気の立っているカップを魔猫は睨んだまま固まっている。

その様子を見て魔女は気が付いた。


「あれ?もしかして……」

「熱いものは苦手。冷めないと食べられないわ」


魔猫がそう答えたので、自分の考えがあっていたのだと魔女は納得しながら言う。


「ああ、そっか。元々猫さんですものね。冷めてからゆっくり飲んでください。あ、クッキーは熱くないですよ」


お茶は熱いお湯で入れないと美味しくないので、その状態で出した。

冷めた方がいいなら置いておけば冷めるので、そのままでいいだろう。

その間はクッキーでも食べていればいいと魔女がクッキーの皿を彼女の前に差し出すと、魔猫はムッとしたように言った。


「元じゃないわ!本当は、よ!あと、魔猫だから!」

「いや、でも猫舌だし……、今は人間の美女なわけだし」

「誰のせいよ!」

「私ですかね?」

「そうでしょう?」


全ては魔女のせい。

魔猫はそう言い切ったが魔女の方は納得いかない。

そもそも本人が自分に使うというからこの呪いを付与したのだ。

第三者に使われることなど想定されていないのだ。

魔女はため息をついた。


「文句は依頼主に言ってくださいよ。私は頼まれた仕事をしただけなんですから」

「だから、こんな物騒なものを作ったのはあなたでしょう?」


魔猫も自分がこんな目にあったことを誰かのせいにしないと気が収まらないのだろう。

でもそれが助けに入った自分である必要はないはずだ。

魔女は少し考えて魔猫に提案した。


「私は依頼通りに業務を遂行しましたし、相手の本来の目的とか興味ないんでいちいち聞かないですよ。せっかく人間なんだし、幸い言葉もスムーズに話せるみたいだから、私を介さず自分で聞いた方がスッキリしますよ?そうですよ!間違いないです!」


自分のせいではない。

この件には元凶になった人間がいる。

だから自分に文句を言うのではなく、依頼主に文句を言ってほしい。

こう言った依頼には守秘義務などがあるのだろうが、そんなことは言っていられない。

依頼主が使用方法を違えたせいで濡れ衣を着せられているに等しいのだ。

だったらこちらが依頼主を守る理由などない。

魔猫も思うところがあったのだろう。

素直にうなずいた。


「確かにここで話していても仕方がないわ。でも、間違いだったら、責任持って解呪してもらうわよ?」

「いやそれは……。方法は術に組み込んであるので、あとは本人の問題で……」


解呪は本人の心持ちひとつ。

早くその気持ちを持つことができればすぐに戻れるし、その気持ちを持つことができなければその分人間としての生活が長くなる。

それは諦めてほしい。

魔女はこれ以上魔猫を刺激してもいいことはないと判断し、自分には無理だという言葉を飲み込むのだった。

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