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呪いの矢と男の捜索

一方ご令嬢たちは朝から彼を探して歩き回っていた。

森にあるいくつかの大きな道から少し外れた木陰に隠した馬車を拠点に、狩りのボイントを探し回ったのだが、目的の彼も、金で雇った弓使いも見当たらない。

彼らが使う可能性の高い、森の広い道で動かずに待っていれば良いものを、気持ちが急いて探しまわったため、すれ違ってしまったのだ。

歩き回った疲れをとるべく休憩のために馬車に戻ると、従者の一人がご令嬢に進言した。


「そろそろ日が暮れてしまいます。またの機会を狙いましょう。狩りはさすがに暗い中では行いません。きっともうお帰りになっている頃でしょう」


木々に葉の茂る森は、明るい時間が短い。

日が昇ってからも光が入るようになるまで時間がかかるし、街ではまだ夕暮れにもならない時間でも、光が入らなくなれば暗くなってしまうのだ。

そして暗くなれば人間は視界が限られてしまうため狩りはしにくい。

趣味での狩りならそんな悪環境で行う必要はない。

さらにこの森は魔獣が住んでいる。

魔獣は人間がいなくなる時間と判断して活動を活発化させるだろうから、このまま長居すれば魔獣との遭遇リスクも上がり危険が伴う。

だが狩りをしに来た訳ではない自分たちは、魔獣と戦う武器を持ち合わせていない。

もし遭遇したら逃げることしかできないのだ。


「そうね。薄暗くなってきて気味が悪いもの。早く帰りたいわ」


彼らの言葉を聞いたご令嬢が馬車の中から外を見ると、まだ昼であるはずなのに少し薄暗くなっているのがわかった。

それを一度意識してしまうと、あまり長居はしたくない。

彼らの言う通りこれ以上ここにいても危険なだけで、彼に会える可能性も低いだろう。

失敗したわけではないのだから、とりあえず魔女の作った矢を取り戻して、チャンスをまた作ればいい。

まさかあの矢がすでに使用されているとは知らないご令嬢がそう言うと、同行している者たちもそれに同意する。

今日は一日中歩き回って皆疲れている。

これから暗くなるのだし男の捜索は明日でいいだろう。

こうしてお目当ての彼と森で遭遇できなかったご令嬢は、従者を連れて肩を落として街へと戻ることになった。



「あの男と連絡が取れないってどういう事よ!」


翌日、例の矢を持っている男と連絡を取るべく、男を手配した従者が彼を訪ねて行くと、男はすでにそこにはおらず、周囲に確認すれば、すでに男は旅の支度をして出ていった後だという。

その後の足取りも追ってみたが、彼の足取りは街を出たところでぷっつりと途切れてしまっていた。


「どうやら男は街を離れたらしく……」


男は仕事を成し遂げて、捕まる前に行方をくらませただけなのだが、ご令嬢たちからすれば、単に仕事もせず逃げてしまっただけの男だ。

手付金まで払っているのに仕事をしないとはどういうことなのか。

本当ならそこを責めるべきところなのだろうが、ご令嬢からすれば手付金などどうでもいい。

男がいなくて作戦が頓挫することの方が問題だ。


「矢は?呪いの矢はどうなったの?」


男のいたところに矢はなかったのかとご令嬢が彼らを問い詰めるが、彼らは首を横に振るしかできない。


「そこまでは……」


確認した限り、彼のいた部屋はもぬけの殻だった。

当然矢も見つけられていない。


「まずは矢を取り返さなきゃ!あれがないと作戦が実行できないじゃない!」


ご令嬢は思わず叫ぶが、報告している方はご令嬢のヒステリーに慣れているのか冷静だ。


「そのためには、まず男の行方を探らなければなりません」


その言葉を聞いたご令嬢は、苛立ちを押さえる努力をしながらまだ息を荒くしている。


「一体どうなってるのよ?まだ報酬は払ってないのよ?」


手付金など仕事の割に合わない額のはずだ。

だから仕事を終えて報酬を取りに来るはず。

世間知らずのご令嬢はそう考えたが、従者の考えは違った。


「手付金だけで逃げた可能性もありますが……」


仕事をする前に金を受け取っている。

だから欲を出さなければ危険を冒す必要はないのだ。

もちろん事前に仕事をきっちりするだろうと調査して末、選んだ男ではあったが、普段そのような仕事をしない従者からすれば、危険を冒して得る信頼より、安全の方が大事という考えも浮かぶ。


「とりあえず男を探して!私は彼の行動を探って、次の実行日を決めなきゃいけないわ」

「かしこまりました」


当然、ご令嬢はまだ諦めていない。

矢を託した男と矢の行方を捜索させている間、自分はお目当ての男の行動を調査するつもりだ。

そして次の機会こそ、万全な状態で作戦を実行するのだ。



彼らはその後数日、男の行方を捜したが、結局彼を見つけることはできなかった。

そして当然、矢の所在も不明のままだ。

ご令嬢に恐る恐るそう報告をすると、彼女は少し考えてから言った。


「そうだわ!あの魔女ならまた同じものを作れるわよね。男も矢も見つからないのなら、材料を揃えてもう一度依頼すればいいわ!」

「依頼した男の捜索はいいのですか?」


手付金を持って逃走した男はいいのかと従者が問うと、ご令嬢は大きく息をついた。


「別に、そもそも依頼した男には興味ないわ。私は目的を達成できればいいのだもの。例えあの男がどうなっていようと構わないわ」


ご令嬢からすれば作戦さえ決行できればいいのだ。

それに最終目標は意中の男性と結ばれること。

だから依頼した相手がどうなっていようと関係はない。

それにもし、矢が手元に戻ってきても、弓の使い手は再び探さなければならない。

当然だが今回実行できなかった男を雇うつもりはないからだ。


「ではまた魔女のところへ?」

「その方が早いでしょう?」


男の行方を捜し、もし見つかったとしても手元に矢を持っているとは限らない。

そこから矢を探すとなれば、また余計な時間がかかってしまう。

急ぐものでもないが、できるだけ早く手に入れて安心したいという気持ちもある。

意中の彼を狙っているのは自分だけではないのだ。


「かしこまりました。まずは魔女に依頼を引き受けてもらえるかどうかを確認いたしましょう」

「そうね。私が話しましょう」


人を介するより自分が直接話したほうが依頼は通るはず。

この高位にいる自分が直接頼めば、魔女がその依頼を断るわけがない。

ご令嬢はそう考えていた。

今回の作戦は失敗に終わった。

まずはその話をして、もっと条件のいいものがないのかを探るのもいいだろう。

もしかしたら魔女も、自分と別れた後、似たような効果のある違う方法を用いるものを思い出しているかもしれない。

もしそれが有用なら、そちらに切り替えるのもいいだろう。

また同じものを依頼することになる可能性は高いが、その判断も自分が直接行けばこそ、早くできるというものだ。


「では無駄足にならぬよう、アポをお取りいたします」

「そうしてちょうだい」


とりあえず方針は決まった。

そして従者たちは、これ以上、行方知れずの男と見つからない矢を探す必要がなくなったことに安堵するのだった。

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