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2話:認知

頭に響く鈍痛をスイッチに意識が戻った。まだ意識がぼやっとしているのか、身体を動かす気になれない。うっすらとした記憶、そして仮説が頭に流れ込む。





なんやかんやあった俺は、今、「異世界」にいるのではないか、と。





まず俺の仮説的には、


1、夢


2、天国


3、異世界


の3つがあった。まず1の夢はない。身体を張って証明した。そして2の天国。たぶんこれもない。なぜなら、途方に暮れた俺の目の前に現れたおっぱ、ん"んッ…少女によって証明されたからだ。もしここが天国ならば、今頃俺の俺は俺でなくなっている。俺の俺だからな。何も変化していないことはよく分かるよ…、





……ということで、消去法で3。他にも仮説を立てるべきだろうが、俺の頭脳はキャパが狭いので諦めた。



まあ正直、今自分が置かれているこの状況をほとんど呑み込めていない。だが、それをぐるぐる考えていても仕方が無いし、それよりも、今、整理しなくてはならない状況下にあることに気づいたのだ。




「どこに横たわっているのか」。俺が解明すべき謎はそれだった。先程から右頬にマシュマロのような滑らかな肌触りとじんわりとした柔らかな温かさを感じる。



先程の少女。俺に土壁をぶち当てた(自業自得)少女の行方。これが鍵を握っている。そして、もう俺は仮説を立てている。




これ、膝枕じゃね…!!と。もちろん俺はおっぱい派だし、乗り換えるつもりは無い。しかし、少女のふとももの上に俺の頭が乗っている…いや、俺の頭の下に少女のふとももがある。もはや選択の余地なし。俺はうっすら目を開け、天を見上げた。





「あら、起きたの坊や♡」






そこは、天国でも、聖地でも、少女のふとももでもない。





「__あ"あ"あ"ぁあ"あぁあッッッッッ!!!!!」



「あら元気な坊やだこと♡」





おっさんの、太ももだった。




「…ちょっと!何事!?」



ああ、少女よ。頼む。君のふとももで、俺の右頬と心を消毒してくれ。



_____






「はい、これ飲んで。回復魔法、寝ている間に使っちゃったから気持ち悪いでしょ?気分が楽になるから。」


受け取ったマグカップ。じんわりとした熱が手に伝う。木でできたログハウスのような温かさもあって心が落ち着いていく。


「良かったわねえ〜目が覚めて♡」


…横にいるこの化け物がいなければな。口調とは真反対の大柄な完全なる男。特徴的なピンクの口紅、お弁当に入っているあの草みたいな飾りのようなまつ毛。瞳に一切の曇がないことが逆に背筋を震わせる。


少しでも平常心を保とうと少女を見る。


「…なに?私の顔に文句でもあるの?」


……キツめのクール美人か。…ふっ、俺の好みだ。「いや、なんでも」とクールを装いつつ、どこを見てようかと目を泳がせる。人間不思議なもので、俺に優しく接する驚愕オカマより、美しい美少女に惹かれ落ちる。



それにしても、たぶん本当にここは異世界なんだな。この木の家といい、キャラが強すぎる人物といい…、探せばもっと異世界っぽいものがあるだろうか。たとえば魔法とか…、



「あれ、今、きみ、回復魔法がなんたらって言わなかった?」



「え?回復魔法?かけたけど…?」



その一言に、頭を抱えた。



「え、なに、頭いたいの?もしかして回復魔法上手くいってなかったとか、」



「……も、……。」



「坊や?」



「……モノホンの…異世界だった………。」



「「……異世界??」」




母さん、ごめん。俺、孫の顔も見せないまま、異世界に来ちゃったみたい。







___






少しの沈黙が俺たちを包む。いや、俺の沈黙と言ってもいい。少女とおっさんは頭にハテナを浮かべたままの様子だ。




「……あなた、どこから来たの?」



沈黙を破ったのは少女だった。疑惑というよりも、好奇心のような目だった。



「え?俺??俺はー、……えーと、北の方、?」



「キタ…?キタっていう国があるの??」



「え''、あ、まー、そんな感じ?」



やらかした。ここでは方角という概念がないのかもしれない。言葉遣いには気をつけた方がいいだろう。俺のいた世界でだってある話だ。自分とは違う種族だからといって、攻撃をする輩の話とかな。



「聞いたことの無い国ね。もしかしてアンタ、"谷越え"かい?」



「谷越えって?」



俺の疑問を少女が口に出した。どうやら少女も知らない、一般的なものではないというのが伺える。



「アタシたちは谷によって国境が決められているでしょう?それに縛られず、国を持たず、谷を超えて旅をしている連中がいるって聞いたことがあるわ。キタっていうのも聞いたことがないし、どうだい、当たりじゃなあい?」



「……お、おっしゃる通りです…、」




「やっぱりねん♡」と喜ぶオカマを横目にまた頭を抱える。そんな大層なものでもないし、俺のここでの「設定」がどんどん追加されていくことが恐ろしい。少女の様子はというと、ますますハテナを浮かべている。そして、それに比例するように好奇心の目は大きくなっている。いやかわいいな。




「そういえば、アンタのお名前は?なんて呼んだらいいかわからないからね。あ、坊やって呼んでてもいいのよ♡」




「いや、遠慮します。…俺は、(あずま)って言います。」



「アズマ…、」




少女が俺の苗字を口にした。しくじった。名前伝えれば美少女に呼んでもらえるご褒美だったのに…!!……いや、名前はちょっと、やっぱいいや、、。




「いい名前じゃなあい!ますます気に入ったわ♡


アタシはデラン。デラン・ストューシーよ。みんなはスージーってよぶわ。()()()()でもいいわよん♡」




ああ、やはり横文字か。まあこんな外見だしそうだよな。




…ちらりと少女に目を向ける。少女は俺をじーっと見た。死んだあの日味わった、あの背中が凍る視線ではないが、俺の心を見られているようで緊張する。



さっきからそうだった。俺のことを観察するような、言うならば悪人かどうかを見定めるような目。しかし、この目にはなれている。営業やら何やらで最初に向けられるのはこの目だ。この人は、自分に、どんな影響をもたらすのか。




目を合わせて数秒。



少女は、微笑んだ。




「__ココ・ミラケル。よろしくね、アズマ。」




俺は、鼻血を出した。



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