女神の記憶とゴミの記憶
称号:勇者召喚に巻き込まれしもの
「俺は勇者じゃない?」
アキラを召喚するついでで巻き込まれたのか。
そういうこともあるのか……、あるからここにいるんだよな。
「この者は、勇者では無いようだ」
「勇者様の従者なのでは」
「なんだスキル無しではないか」
「はあ、こんなやつが役に立つのか?」
「ステータスも子供のようですな」
「5歳児ぐらいではないか、これではゴブリンにすら負けるだろう」
周りの人間は好きなように俺を分析する。言いたい放題だな。確かに俺はまだ子供だけど、この世界の5歳児が地球の高校生と同じステータスとか強すぎんだろ。
「ブレイブ、もう解析を解除していいぞ」
「はっ!」
王様がこちらをちらっと見て、俺を気の毒に思ったのか、ブレイブと呼んだおじさんに命令する。俺の情報がすーっと空中の中へ消えていった。
「ヨシオ、ステータスはスマホに写したから、好きなときに見せてやるよ。勇者やべーぞ」
「アキラ、ちゃっかりしてるな」
そのアキラは王様を正面に向き合うと決意した表情で話しだした。
「では王様、私達勇者はこの世界で何をすれば良いのでしょうか? 魔物でも魔族でも魔王でもなんでも対処してご覧に見せましょう」
「おお勇者アキラ殿よ、快諾してもらえるか。
ブレイブ、後はお主に任せたぞ。勇者殿に説明を頼む。
他のものも勇者殿への協力を惜しむな。今夜のパーティの準備もぬかるなよ。勇者殿をもてなせ」
王様と騎士の皆さんがこの場を退場する。
アキラが勝手に話を進めたが、穏便に話が進んだから良しとするか。
ブレイブのおじさんからは今後の流れをざっくり教えてもらった。
まず最終目的は魔王の討伐。そのためにやることは、勇者がどれくらい戦えるのかの確認をするための戦闘訓練。戦闘用魔法の習得や訓練、初級〜中級のダンジョン攻略もあるから2ヶ月ぐらいやるようだ。
毎日戦闘訓練をやるわけではなく、合間で魔王の元へ行くまでの長い旅で躓かないように、この世界の知識の勉強も行うようだ。
「なあアキラ、お前勇者やれるの?
俺ら学生だぞ。魔物にあっさり殺されるのがオチだろ」
「イケルイケル、女神様にチートスキルたくさん貰ったし余裕だろ」
「え? なにそれ?
ええ、いつどこで? 女神様とあった?」
「バーっと光った後、白い部屋で」
アキラはゴミ捨て場で起きた事を話してくれた。
地面が光っていたのは、あれこそ勇者召喚の魔法陣で、あの魔法陣が入り口となってこの異世界に着いたらしい。
アキラは異世界につく前に白い部屋の中で凄く美人な女神様の二柱と出会い、その女神様からこの世界を助けてほしいと頼まれた。
そのために、基本能力のアップ。環境に適応するためのスキル。早く成長するためのスキル。戦うためのスキルに神の加護までのこれらチートスキルの一式を貰えたことを聞いた。
アキラはスマホに写したステータスを俺に見せる。
「ほら、ここのヨシオの加護って欄に『星月神の加護』ってあるだろ、ヨシオも神様に会ったから加護を貰ったんだよ。
せっかくの異世界召喚なんだからチートスキルも貰っておけばよかったのに、スキルなしかあ。
異世界転生ラノベとか読んだことがない?」
「ラノベは趣味じゃないしな。
あと俺は神様には会った覚えないぞ。ただ……」
ただ、不思議な力が俺に有ることはさっき身を持って体験している。あの黒い画面。コンソールだ。
今、言うか? 周りにアキラ以外の人がいるし辞めておくか?
「ただ、何だよ?」
「いや……。
ただ、加護を貰った割にはステータスとやらが低すぎないか?」
「ああ、それなー。
地球人弱すぎじゃね。
あれだけど高校平均ではあるんだけどな」
ステータスを改めて見せてもらってるが、この雑魚雑魚ステータスよ。
まあこの世界での5歳児レベルらしいからな。
アキラはHP4桁の他のステータスも3桁だろ。勇者と自分の差が有りすぎじゃないか。
はー、俺、この世界で生きていける自信なくなったわ。
「おやこれは、私の解析魔法をコピーしましたか?
とても不思議な板ですな、流石は勇者様の魔法ですか」
「これは科学っていうほぼ魔法みたいな技術で出来てるんだ。向こうの俺たちの世界だと、これ1つあれば何でも出来るんすよ。あらゆる情報が手に入って、欲しい時に好きなもの買ったり、どんなに遠くても一瞬で連絡できるんだ」
「ほうほう、それはすごい。勇者様、もっと詳しく聞かせて下さい」
ブレイブさんがスマホを覗き込んできたので、アキラがそれに答える。そういやこいつスマホ持ってたりするし、部活帰りの格好のままだな。
ということは俺のスマホはあるのか?
……っく、そもそもゴミ出しに出ただけだし、自分の部屋に置いてきたままだよ。
そうだ、ゴミだ! ハミコンだ!
俺の唯一の向こうの持ち物だ!
と、俺はごみ袋を持っていた手を見たが何も持っていなかったことに落胆する。
あれずっと持ってたぞ、途中で落としたのか……。
記憶に何かが引っかかる……。
いや……、貸したんだ。
あれ、誰に貸したんだっけ……?
そうだ……、代わりに黒い画面が出せるようになったんだ。
コンソールがあれば何か思い出すんでは?
そう考えた瞬間、また時間が止まり黒い画面であるコンソールが表示される。
SAVE
ManualSave
AutoSave[ON]
Load
0001:
0002:
Reset
えっと今回は何の設定だ? と考えると使い方が頭の中に流れる。
この機能はSaveで世界の現状を記憶し、Loadすることで思い出すことが出来るのか。
これまたゲームみたいだな。
最後のResetは……、この世界をリセット出来ますだと?
何だよ世界のリセットって、どう考えてもヤバすぎで怖いから封印しよう。
そう考えるとResetの表記は消えた。
今ので封印されたのか……。
さて、試しに一度Loadを使ってみるか。
0001の番号をロードする。
コンソールが消えた瞬間、視界がパッと別の風景に書き換わった。
――
「おい、ヨシオ! 起きろ!」
「え……? 俺、寝ている?」
「気が付いたか?」
今まで立ってアキラと話していたのに、俺は何故か床に横たわっていた。
周りにいるのは先程分かれた王様、騎士達。
さっきまで近くで子供みたいにアキラとスマホの話をしていたブレイブさんは、王様の近くで神妙な顔をしていた。
コレ、召喚された直後だ!
「ヨシオ、どうやらすげー事が起きたようだぜ」
アキラが興奮した声で俺に話しかけたので、もう一度黒い画面を開いてLoad 0002を選択した。
ブレイブさんがスマホに関心を持ったところに戻っていた。