夜の世界と花畑
眩しかった光が急に消えてなくなった感覚があった。
恐る恐る目を開けてみると、そこには一面花畑の世界だ。
空は夜のようだが、星の明かりが眩しい。空の光に照らされて花畑もよく見える。もしかしてここが天国だったりするのか……?
自分の両腕、両足を見る限り半透明で透けて見える。あまり考えたくはないが、これは死んだのだろう。
「そーだよぉ。ここは天国だよぉ。
せいっ、せいっ!」
背後から声がかかったので、振り返ると、そこにはテレビとハミコンを繋いで遊んでいる幼女が居た。
花畑の中にテレビがドカンと置いてあることに違和感を感じる。電源はどこから取っているんだ?
「電源は魔力でちょちょいと流しているよ。
よっ、ほいっ、あーやられたー。
ヨシオ、これ面白いね!」
「それはハミコンって言うんだよ。俺の親父の世代のゲーム機なんだ。って、何で俺の名前を?」
「ボクはね、魂を見ると名前がわかるんだ。
ねぇねぇ、天国ってとても暇でさ、このハミコンをボクに貸してくれないかなぁ?
やっぱり、だめかなぁ?」
「良いよ。俺は遊ばないから君が遊んでよ」
「え? 即答?
やったー! ヨシオ、大好き! ありがとう!」
元々捨てる予定のものだし、貸すどころかこのままくれてやっても構わない。
「それより、ここはどんな場所で、君は誰なんだい? 神様?」
「またまたせーかい!
ボクは夜と月と星を管理している神様だよぉ。名前はミラ!
ボクと同じ存在が2体いるんだ。
世界を作った一番偉いシラ様と、昼と太陽を管理してるアッテ。
ここはね、地球から溢れた魂を僕らの世界へ移すために、少しだけ休憩をするところなんだ。お花があるとね、魂がとても安らいで、次の人生でも活発に生きられるんだよね。
今も地球から来た魂がそこら中で休憩しているんだよ」
ミラちゃんがぐるっと回りながら、ここにもあそこにもと指を差す。
さっきまで花畑しか見えなかったその場所に半透明の人のような存在が沢山浮び上がってきた。
突然霊能力に目覚めた感じかな。
「ヨシオは……、あれれ?
ヨシオはまだ死んでないんだね。
向こうの方の世界に体だけが先に移動したみたい。勇者召喚って言うんだって、凄いね」
「勇者? ゲームの?
そういうのは俺は興味ないな。向こうの方の世界には行かずに、このまま地球に戻れないかな?」
「ヨシオ、ごめんね。
体が向こうの世界にあるから、このまま地球に戻ったら体が無くて本当に死んじゃうよ」
「それは困る」
一旦、向こうの世界に有るという体の方に戻るしかないか。
あれ、そう言えば俺はアキラと一緒じゃなかったか?
「アキラ? ヨシオの友達だね。
んー?
体の位置はヨシオと同じで向こうの世界にあるよ。行ったらすぐにでも会えるかな。
ここには来てないから、直接シラ様かアッテの方に飛んだのかも」
ミラちゃんの会話を聞いていたのだけど、俺の意識は明後日を向いていた。
誰かが俺を呼んでるのがはっきりと感じる。
「アキラがヨシオを起こしてるからね。残念だけど、このおしゃべりも終わりだね。
そうだ、これは補助道具みたいだし、ボクは自力でゲームをクリアしたいから返すね。
ボクの力で使い方を記録しておくよ、向こうの世界で使って!」
ミラちゃんはそう言って、パーフェクトアクティブリプレイングを俺に手渡した。あれは遊び方が分からなかったやつか。ミラちゃんから受け取り損なったと思ったら、体の中に吸い込まれるゲームカートリッジ。
まあ、こういう事も起きるか。
今の俺は魂だけの存在だし……。
「ヨシオ、またね!」
「またね、ミラちゃん」
「魂の会話は体に戻ると忘れちゃうけど、いつか私の教会を見つけて、またおしゃべりしようね」
忘れちゃうのか。最後に少し残念なことを言われたが、体に戻らないとな。
俺は静かに眠るように意識を失った。