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聖女とお願い事

 なんか、最初に調べたかった「帰還の書」に関する情報を探すのを忘れていたな。

 在庫管理システムで検索する。


 検索結果0件。


 そう上手くは行かないか。


 「勇者の帰還」で検索しても情報は無い。

 闇神との戦いで日ノ神の勇者の話が出てきたが、その勇者は召喚されていない現地人である可能性が高そう。


 ふと、こちらに近づく人間がいるのを察した。

 年は俺よりも若く見える。中学生ぐらいか。

 白く清楚な修道服に身を包むその姿からは、教会絡みの人であることが一目で分かる。


「突然の訪問を失礼致します。はじめまして、勇者様。

 (わたくし)はアリスと申します。家名はございません。

 主神シラストダイナゴ様に身をささげる巫女でございます」

「はい、アリスちゃん、こんにちは。

 俺はヨシオ・エフダ。

 1つ指摘するとアリスちゃんの認識は間違いだ。

 アリスちゃんの言う勇者は俺じゃない。別の人間なんだよ」

「あ、アリスちゃん、アリスちゃんって気安いのは何なんですか?」

「いや、年下ぽいから」


 ちゃん付けで呼ばれることに慣れていないのか、照れている様に見える。


「こほん。勇者様の前で過ぎた言葉使い失礼致しました。私めのことはお好きな様にお呼びください。

 ヨシオ様のおっしゃるのは、勇者アキラ様のことですよね。

 魔王討伐の際、私が聖女認定後に勇者アキラ様へとお仕えさせていただきます。

 ですが、今回の用事は勇者ヨシオ様のことなので、間違いないです」


 ああ、アキラの聖女様お披露目前だというのに、先に俺が聖女様へ会ってしまった。

 明日の朝に報告しておかないと。

 話からすると魔王退治に同行することは、この子自身も了承済みなんだな。

 見た目からは光魔法とか癒やしの力とか強そう。


「アリスちゃんは最初から俺に用事があったってこと?」

「はい。2つほどございますのでお時間をいただけますか」

「まぁ、今は用事が終わったところだし、2つでも3つでもいいよ」

「ヨシオ様の寛大なご配慮に感謝いたします。

 まず1つ目ですが、これは勧誘です。

 主神様に改宗しませんか?」

「え、そんないきなりオープンにしていい話なのそれ。

 でも難しいかな。

 俺は日本人って人種なんだけど、基本多神教なんだよ」

「はあ、それはどのような教えなのでしょう」

「アリスちゃんが神様といえばシラスト〜なんちゃら様なんだろうけど、俺には人生これしかないと決めた神様なんて居ないんだよ。

 神様みんなが俺を助けてーって感じ。でもそこまで神に依存はしていないんだ。

 何をやるとも自分の実力次第。神様はちょこっと背中を押してくれればなおよし」

「そのような神とのあり方もありえるのですね。

 ヨシオ様は様々な神々から小さな加護を沢山頂き、大きな力を得るのですね」


 その解釈は合っているけど、ゲーム脳だなあ。

 日本人は神がいると信じていても、神の加護を得られるような人は一人も居ないと思うし。

 加護ありきで何かを成せるわけではないんだよね。受験にしろスポーツの大会にしろ。現実は厳しい。


「アリスちゃんはおそらくだけど星月神の加護の情報経由で俺のところに来たと想定しているけど、俺は星月神様のことは覚えてないし。

 神様って言えば日本の神様のほうが馴染み深いしね。

 この神様しか崇めちゃだめってのは俺には無理な話だよ」

「わかりました。主神様にはそう言っておきます」

「え? アリスちゃんから神様に言うの?」

「はい、主神様直々に改宗の意思を確認してほしいとお願いされましたから。

 なのでこの話題を1番にさせて頂きました」


 この子、神様とお話出来る系女子だよ。

 アキラの話だと女神様が実在しているようだし、まずいことにならないかなぁ。

 まぁ改宗を断ったことで天罰があったりなかったりするのかもしれないけど、1回か2回の天罰だけなら特に死なないし良いか。

 前みたいに死に続けるようなのは勘弁してほしいけどね。


「ヨシオ様の時間を頂いてますから、矢継ぎ早で進めましょう」

「アリスちゃん、時間は気にしなくていいよ。

 自分でもこの後の時間を余らせて困ってたんだ」

「分かりましたが、時は金なりです。

 余らした時間で是非勇者活動に勤しんでください」

「あ、はい。頑張ります」


 アリスちゃんは俺より小さい子なのにしっかりしてんな。

 では、次の話を聞こうではないか。


「2つ目ですが、教会内に魔人がいます。その討伐を勇者様に依頼します」

「魔人が? いつから? そっちのほうが俺のことよりもよっぽど重要案件じゃないの? アリスちゃんは大丈夫なの?」

「私は主神様に護られていますので問題有りません。

 事は司祭が魔人に呪いをかけられ操り人形となり、私達巫女の命を狙っていたことで気付きました。

 昨日のことです。私の他に4人巫女が居るのですが、そのうちの1人の巫女の犠牲があって、魔人の陰謀が明るみになりました。

 ただ魔人が誰なのかが特定出来てないのですが……」


 既に1人殺されているのか……。

 魔人ってのはなんの目的で殺しているんだ?

 これは考えるまでも無いか、魔王退治の聖女の候補者になる巫女を殺しているのか。


「それって、魔人の仕業って魔人本人にも伝わってるよね。もはや猶予はないのでは?」

「恐らくは……。私も今朝は魔神の目を欺くため、全員の目を盗んでこちらに来ました」

「それと、聖女はアリスちゃんで決まっているのでは? なぜ他の巫女さんが殺されたの?」

「公的にはまだ決まっていないのです。

 私以外の巫女も実はその事実を知りません」

「ああそうか、聖女様お披露目会はこれからだからか。

 聖女がアリスちゃんだと特定されたら真っ先にアリスちゃんが危ないし……。

 事情は分かったから今すぐにでも手を貸すけど、倒せるかどうかは自信はないよ」


 そもそも俺に攻撃手段がない。

 リズとかアキラの手とか借りれないかな?


「受けてもらえますか、ありがとうございます。

 ヨシオ様の天界へと誘う聖なる炎の柱があれば魔人など一撃粉砕に決まっております」

「え? アリスちゃん、何それ天空の……」

「天界へと誘う聖なる炎の柱です。

 王都に潜伏していた第一の魔人を倒したときのヨシオ様の御業です」

「いやね、俺はあの魔法は使えないから……」

「もしや、今回は屋内戦闘になることを予見しておられますか?

 建物内であんな大技は使えないと……」

「アリスちゃんさ、そうじゃなくて。確かにあれはやりすぎだったけど」

「ヨシオ様、魔人を屠るためならば、教会の1つや2つぶち壊しても必要経費であります。躊躇している場合ではございません!」

「いや本当に無理だから、俺が魔人を探すのを手伝う。みんなで倒す。良い?

 俺より強い助っ人も用意するし」

「分かりました。最初の作戦はそれで行きましょう。

 ただヨシオ様がおっしゃる助っ人ですが、勇者アキラ様は王様から関与させないように言われています」

「え、王様これ知ってるの?」

「はい、魔人案件は王国で管理していますので。昨夜のうちに報告済みです。また、勇者アキラ様が駄目な理由は城の関係者にでも聞いてください」

「分かったよ。

 では、アリスちゃんの用事はこれで終わり?」

「はい。この2つです。

 お時間取らせました。ご協力感謝いたします。

 興味本位ですが、最後に3つ目として伺っても良ろしいでしょうか?」

「なんだい? 何でも聞いてよ」

「王女様狙いなんですか?」

「え?」

「……こほん。勇者ヨシオ様は王女様を婚姻対象として狙らわれておられるのでしょうか?

 本日は冒険者ギルドに入る前からヨシオ様を拝見しておりましたが、女性もののプレゼントを買う為に同行の騎士様と7軒ばかり店を廻り、悩んだ挙げ句には金貨5枚相当の魔道具を銀貨10枚にまけて購入なされましたよね」


 思い当たることだらけで、思わず会話の合間合間で「ちょっ」とか「まって」とか口に出る。

 ギルド入る前って朝からやないか。

 この子、ずっと俺を見ていたのかよ。

 だから図書館に居る俺へ接触することが出来たんだ。偶然出会ったにしては、言いたいことが準備してあるなと思ったら、最初から俺に会うつもりだったんだ。

 というか、魔人で急いでたんと違うん?

 アリスちゃんの質問はまだまだ途切れない。


「その魔道具なのですが、アーティファクト級に魔力が上がりましたよね。

 同行の騎士様との会話からはヨシオ様が関与したと判断致しました。

 あの魔道具を私にも拝見させていただけますでしょうか」

「良いけど、これ他の人へのプレゼントだからね。アリスちゃんにはあげられないからね」

「勝手に王女様宛のものを取ったりしません!」


 俺は渋りつつ増幅のネックレスを取り出す。


「綺麗な収納魔法ですね。

 一連の動作に魔力を感じない為か、取り出し時の違和感が全く無い。最初からそこにあったかの様です。

 え……? ネックレスの魔力の輝きが普通に戻っている……?」


 収納空間から取り出すときに魔力を感じないのは俺に魔力がないせいだと思うけどね。

 さて、使用回数入れ過ぎはどう誤魔化そうか。


「それはさ、溢れた魔力が霧散したんだよ。空に浮かんでる雲みたいにさ」

「……そういう事情ならば仕方有りません。

 あれはとても綺麗な虹のような魔力の色でした。

 もしヨシオ様が宜しければ、私の魔道具にも光り輝く魔力を注いでほしかったのですが……」


 アリスちゃんがじっとこちらを見つめてくる。


「いや、やらないからね」

「……分かりました。これはお返しします。

 王女様へどうぞお渡し下さいませ!」

「最後のとこ、そんなに強調しなくて良いから」


 返してもらったネックレスは収納空間へすぐしまう。


「さて、あまり時間は無いんだろ。

 遊んでないで教会へ行こう」

「頼もしいです。ヨシオ様。

 私が日頃使う近道があるのでそこから行きましょう。付いてきて下さいませ」

「アリスちゃん、案内は頼むよ。

 おっとその前に城に一報だけ入れさせてくれ」


 俺は城へ魔道具で連絡を入れる。

 リズに教会で魔人と戦闘するので戦う準備して向かってくれと。

 流石に騎士や兵隊にもこの伝言は筒抜けだし、そもそも王様が知ってるんだ。これを聞いて教会に兵力が集まることになるだろう。

 俺は自分が戦う必要の無いことを祈りつつ、アリスちゃんと共に教会を目指すことにした。

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