仮決済と王族との食事会
薬草を必要量分取ったので、城へと戻ってきた。
外門では入城審査をするための列が出来ていたが、リズさんはそれには並ばず顔パスで通過する。
宮廷魔術師ぱねえ。
そのまま真っすぐ冒険者ギルドの受付へ。
ここでも受付するために列が出来ていたが、顔パスせずにちゃんと並ぶ。
なにか違いはあるのかと聞いたら、リズさんは答えた。
「ここでは皆が冒険者だから平等なのよ」
「そうか、俺もここでなら勇者というよりは冒険者なんだな」
「そうね、そういうスタンスで行きましょう。
そろそろよ、依頼書とか用意してね」
俺は服のポケットから折りたたんだ依頼書とギルドカードを取り出す。
「ちょっとちょっと。依頼書もギルドカードも、どちらも無くすと面倒くさいんだから。私が渡したポーチの方に入れておいてよ。
服の外側にあるポケットだけは論外だわ」
「そっか、今は収納空間が有るからそっちのほうが失くさなくて良いのか」
「いくら魔法のポーチでも、ポーチ自体を失くしたら終わりよ。
盗賊とか意識して狙ってくるから気を付けるべし」
「分かった、あまり人同士では戦いたくないな。
ん? 身ぐるみ剥がされたらギルドカードを取られるのか。
この世界でも身分証詐欺とかあるの?」
「無いわけじゃないわ。密入国とか使えるかも。
この前の魔人もそういう路線で侵入したのかしら。
もし持ち主本人が死んだ場合は別だけどね。
ギルドカードと連動しているから、死ぬとカードの見た目も変わるし、機能も失われるから、不正は無理ね。入国用には確実に使えなくなるわ」
「次の方、どうぞ」
話をしている間に順番が回ってきた。
また別の受付さんだ。うーん、この人も美人さん。
依頼書、ギルドカードをカウンターに出す。
俺は依頼書のある部分に指を差し、気になっていたことを受付さんに確認する。
「これ、薬草必要数が5つみたいなんですけど、余分に取ってきた分はどういう扱いになりますか?」
「依頼の数より多めに取られたのですか?
薬草採取ならば、5本毎に1つの依頼として達成処理をしますよ。
素材の収集を目的とした依頼を常設依頼というのですが、その場合は重複でも達成決済いたします。
えっと……、ヨシオ様ですね。ある分出して下さい」
「あ、はい。ある分ですね」
俺はモギモギ草を55本全てカウンターに出す。
薬草のかさが多くカウンターに置ききれなかったので手前の床にも直置きする。
「はー? 何なんですかこの量は!
モギモギ畑で刈り取ってきたんですか?
そういうの犯罪なんですよ!」
「ブフーっ、あははははは!」
リズさんが笑い転げる。
あなた、同じことを言ってたでしょ。
それとモギモギ畑って本当に有るんだな。
俺は犯罪をしていないことを弁明する。
「ルストルの森で取ってきましたよ。
採取場所なら全個数分お伝えできます。
あと、ギルドの外で待たせてますけど、騎士さんが証人になってくれます」
「そ、そうですか。……分かりました。
ですが、この量だと鑑定処理は後回しですね。
仮決済書を出しておきますので、後で仮決済書を受付に出して報酬を受け取ってください。
その時はその騎士さんも連れてきてくださいね」
仮ですからね、別の薬草や雑草が混じっていたら報酬が減りますからねと念を押しつつ、仮決済書を受け取った。
予定では銀貨11枚に依頼達成11回分で、規定回数達成によりランクEに昇格もするらしい。
依頼を達成した回数でお仕事ランクが上がるのか。リズさんと同じランクAになるにはあと何回依頼を受ければ良いのだろうか。
報酬は貰えたらギルドカードの発行代金に届くから、代わりに払ってくれたリズさんに渡そう。
「あー、笑ったわ。
私はお先に城に戻るわ、戻れば丁度夕食だしね。
ヨシオはライズとなにか食べなさいよ。
食べ終わった頃には報酬貰えるわよ」
「俺としてはライズさんがまた付いてきてくれるのなら、報酬は明日でも良いかな」
「そう? それなら、ヨシオも一緒に帰りましょ。
ライズには私から明日もお願いって言っておくわ」
「ありがとうございます。
それと改めて、リズさん、今日は色々とありがとう。
このポーチは大事にするよ」
「そんな、照れるじゃない。
明日からも色々とこの世界のことを勉強してもらうから、しっかり付き合ってもらうわよ」
「わかった、よろしく頼む!」
城に戻って今日は解散となった。
自分の部屋で作ってもらったギルドカードを眺めつつベッドでゴロゴロする。
この国に来たばかりの初日の説明では、兵隊さんたちと同じ食堂で夕食を食べる事になっていたのだが、今日は王様から同じ夕食に参加しろとの伝達があったので、飯前の今の時間を使って入浴することになった。
大浴場は使用中らしいので、少し小さめの浴場へ案内される。小さめとは言うがそれでも城内の風呂だ。そこそこ広い。
ああ、小さいというのは部屋の広さに対しての湯船の広さか。それでも日本の家庭の風呂よりは広い。ただ深さがなく浅かった。座って肩まで浸かる風習が無いのだろうか。
風呂でさっぱりし、呼ばれるまで部屋で待機。
迎えに来たメイドさんにより、特別な食卓へと連れて行かれる。
「勇者ヨシオ様、入ります」
メイドさんが俺の名前を告げる。
恥ずかしいなと思うわけで、部屋に入ると注目される。中央に置かれた長いテーブルに王様とその家族の方達が既に着席していた。
作法がわからないので、軽くお辞儀をする。座る位置が指定されていたので、引かれた椅子に座る。
「ヨシオ殿よくぞ来てくれた。
楽しく歓談してほしい」
「はい、ご相伴に預かります」
「ご相伴、それはヨシオ殿の国での言い方かね?」
「あー、そうですね。
皆さんとの交流を楽しみたいと思います」
「なるほど、ここは家族の団欒の場だ、ヨシオ殿も固くならなくて良いからな」
王様は気付くと常に俺へ楽にしていいと言ってるよな。
そんなに俺ガチガチなんだろうか。
だよね、他の人は知らない人だし、顔もちゃんと見られてないのが態度にでるのか。
そう思い、改めて王族の方々に顔を向けた。
ん? 1人笑顔でこちらに手を降ってるぞ。
ドレスに身をまとい、頭で光り輝くティアラは豪勢だ。これぞ異世界のお姫様。
いやー、本当に綺麗なお姫様だ……な……。
って、このにっこりフェイスは……。
「ええええ、リズさん!」
「やっほー、ヨシオ。
うふふふ、いい驚きっぷりだね」
「あーすまんな、ヨシオ殿。
事情があって公には立場を使い分けないと行けなくてな、最初はああいう紹介になったんだ。
改めて、あやつは第三王女のリディアディリア・リズリー・イラデベルポートだ。
筆頭宮廷魔術師のブレイブの一番弟子で魔術師の腕としても高位のやんちゃ娘だ」
「あ、改めてよろしくです。リディアディリア様?」
「リズで良いわよ、家族はみんなリズって呼ぶしね。気になってたけど、さんも必要ないわ」
「リズ、でいいんだね。
この世界に来て一番驚いたよ」
「私もヨシオには驚かされてばかりだからね、これでおあいこよ」
王様はなんでまた俺の世話役に自分の娘を充てがうかなあ?
というか、娘が冒険者とか危なくてヒヤヒヤしそうだけど許されているのが凄い。
その後も紹介は続く。
王妃様、リズの妹さんが二人、王様の弟さん、その弟さんの息子さんを紹介される。
この場にいなかったが紹介されたのは、王様の息子さんの二人。
兄王子と弟王子は現在魔王軍との戦いで前線を離れられないらしい。
そうか、この城はまだ戦場じゃないだけで、誰かが戦っているんだよな。
その時、戦争の話になったがアキラが一週間後に合流して前線を押し上げる予定だとか。
まだ俺が加わる話にはなっていない。
王妃様とは軽く挨拶だけなのだが、リズのことをよろしくされる。世話焼いてもらうのは俺なのだが。
妹の二人はとても可愛くて明るいお子さん達だ。どちらも小学生ぐらい?
あ、小学生ぐらいだとしても、この世界に来たばかりの俺よりは強いのか……。
王様の弟さんは、今は宰相をやっている。なるほど、この人初めてじゃないな。王様とほぼ一緒にいる人だわ。
その宰相さんの息子さんは農作物や家畜に関する研究員だ。年齢もリズより上に見える。研究内容としては魔法を使ってバイオテクノロジーぽいことをやっていて、戦時中の食糧確保のため大忙しらしい。
魔法で食事は出せなくても、その元になる材料をいかに増やすかが鍵らしい。熱弁を振るっていたので宰相さんが話を止めようと必死だったのが面白かった。
リズが第三王女だということで、上の姉もいるのかと考えていたが、第一王女と第二王女の話は一切出てこなかった。
他の国へ嫁いでいったとかで、いないのかな?
そう考えたところで、これは触れてはいけない話なのに気付いた。
そうだった。
この国以外の国は、既に滅亡したのだから……。