ゴミ掃除と古いゲーム機
「お宝はっけーん!」
俺の名は絵札ヨシオ。高校1年生だ。
今は母親に頼まれた倉庫の整理をやってる。いらないもので溢れかえってるので、どんどん捨てていけってさ。最終判断もほぼ全権が俺に任されてる。
流石に数万円もしそうな高価そうなやつは母親に聞いてみるけどね。
数時間も整理しつづけていたし、いつでも切り上げれる準備をしていた。
そして、先程見つけて脇の方に置いておいたお宝へと話は繋がるわけよ。
「ハミコン? 正式名称はハミダシーコンピューター?
古そうなゲーム機だなあ」
手のひら大の大きさのゲームカートリッジをハミコン中央にある穴へ差し込んで遊ぶ機械のようだ。電源や、おそらくテレビ用の端子のコードも付いてる。
俺は倉庫整理は終了して、ハミコン一式を居間のテレビに接続してみた。
適当なゲームカートリッジを差し込んで電源を入れて見ると、ゲームのタイトル画面が表示される。画面がカクカクしてドットが荒く見えるのは、ものすごく古いゲームであることを主張している。その割にはキャラもそれなりに見えるし、文字もちゃんと読めるしで、そこには昔の人が綺麗に見せようとした努力が感じられた。
「やべ、飽きた……」
始めた直後は見たことのないゲームにワクワクしながら遊んでいたのだが、画面が1画面しかなく単調だったり、何をやっても死んでしまい難易度が高すぎて先に進めなかったり、ヒントも目的も何もなくただ歩かされて敵や罠で即死したりとどう楽しめばいいのかが分からない。最新のゲームは目的や操作方法がわかりやすいように丁寧に作ってあるんだなと思い知らされる。
いや、俺が根性ないだけかな。
一通り遊んだのだが、1つだけ遊び方が分からないゲームカートリッジを見付けた。カートリッジに貼りつけてあるラベルには「パーフェクトアクティブリプレイング(PAR)」と書いてあり猫みたいな動物の絵はパッケージにあるが内容がちっとも想像つかない。電源を入れて遊んでみても、黒い画面に英単語が並んでいるだけでゲームが始まらない。倉庫に長年しまわれていた事もあって壊れたのかな?
あ、このカートリッジに更にゲームカートリッジを差し込めるな。ゲームを繋げて遊ぶ補助的なものかなとは思って接続してみたが、普通に繋げたゲームの方が立ち上がった。説明書もないしで遊び方がわからない以上は諦めるしかない。
「ヨッチャン? 何を遊んでいるのかな?
あなたに任せた倉庫の整理は終わったのかな?」
ヨッチャンとは勿論俺のことだ。俺は壊れたロボットのようにギギギ……と振り向く。
「そこには鬼のような形相の母親が仁王立ちしているのだった」
「誰が鬼なのよ!? って心の声が漏れてるじゃない」
「ひぃ、ごめんなさいごめんなさい。
終わってます! 倉庫整理は終わらせました!」
「もう、報告してから遊びなさいよ。
あと要らないものがあったならゴミ捨て場まで捨ててきてよね」
「分かったよ、捨ててくる。
あー、このゲーム機も倉庫の奥から出てきたんだけど、捨てた方が良い?
ハミコンって言うんだけど」
母親はじっとハミコンを見つめて考えている。
「捨てて良いわ。お父さんもハミコンでピコピコ遊ぶような年じゃないでしょ」
「おっけー」
俺も捨てることに未練もないわけで、遊び終わって配線も抜かれたハミコンとゲームカートリッジを透明のゴミ袋に放り込んだ。
――
俺はハミコン片手にゴミ捨て場へ向かっていた。
ゴミ捨て場は倉庫型の施錠するタイプで、次のゴミ出しの種類さえ間違えていなければ前日から出していても文句は言われないようになっている。家から往復4分の距離だ。
ふと目的地のゴミ捨て場の方角から学生が歩いてくるのが見えた。知り合いだったので声をかける。
「よーす、アキラ! 部活帰りかい?」
「よーす、ヨシオ! 今日は練習試合勝ってきたぜ!」
彼は日野アキラ。学年は1つ上で先輩にはなるのだが、俺が生まれる前から家族ぐるみで付き合いがあり年齢差を感じない大の親友だ。今日はサッカー部の試合があったみたいだな。ちなみに俺は帰宅部。
「何だよごみ袋なんか持って家の手伝いか?」
「倉庫の整理だよ。俺の知らないゲーム機が出てきたぜ。もうこのごみ袋の中だけどな。ハミコンって言うんだけど」
「おーい、それ貴重なレトロゲーじゃないか。勿体ない骨董品だぞ」
アキラが食い付いてきた。そういや俺よりゲームに詳しかったな。
「親は捨てていいって言ってたぜ、あと遊んだけどイマイチ面白くなかった」
「は? あり得ねえ!
現代っ子にはレトロゲームの良さが全然分かんないようだな。
おいおいおい、このちらっと見えるのあの名作じゃないか!
原点なんだよ、ここからあの壮大なストーリーが始まってるんだよ!」
「ああ……そうか……はいはい……」
アキラの熱い語りは続く。こうなると暫く言いたいことを言い尽くすまでは止まらないので適当に相槌を打ちながら聞き続けるしかない。
「……でな、横スクロールで忍者の軽快さと敵の隠密性を表現してだな……」
アキラの話が止まらねーとか思っていたら、足元が突然光りだした。
「ヨシオ! これマジかよ、魔法陣だぞ!」
「魔法陣ってなんだ、おい、逃げないとやばくないか?
あ、足が動かない!」
逃げようかと思ったが足が言うことを聞かない。地面に吸い付いたように張り付いている感じだ。
そして、視界を白く覆い隠すほどの強い光が俺を包み込む。すぐ近くに居るはずのアキラも光に覆われて見えなくなった。
眩しすぎて、これ以上は目を開けていられなかった。