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支配者の未熟者〜THE ORIGIN 〜  作者: まっつん
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第1話《全ての始まり》

荒野を駆ける装甲車が荒々しい音を立てる。


車は魔道具仕掛けで動いていて、操縦士が魔力を込めながら走る。


中には武装をした男が五人、鎧や武器を何一つ持たない男が一人。


外は雨が降り注ぎ、雷が時に遠くで鳴り響き悲壮感を漂わせながらとにかく進む。


「おい、まだ見えねえのか?目的の吸血族の住処ってやつは」


「そんなにすぐ見つかるわけないだろ。つい最近まで眉唾話でまともに信じる奴さえいないような状態だ。簡単に見つかるはずがない」


「へへ、中で吸血族を捕らえれば報酬はたんまりだぜ...。生死は問わないってことは殺したって文句は言われねえんだろ?」


五人のうち三人は話に盛り上がって報酬に思いを馳せていたが、残る二人は不安と少しの恐怖が頭の中に残って警戒を強めていた。


「馬鹿だな」


「あ?なんつった?」


その中でも一人、警戒も話もせずただぼーっと座っている男、武器も手に持たずに装甲車の端で小さな窓から外を見渡している。


馬鹿と言われて激昂した男はそのザヴァゴと言う名の男の胸ぐらを掴んで睨みつけた。


「おい、お前調子にのるなよ?特定魔法師だかなんだか知らねえが、俺たちに喧嘩売ってんのか?今ここで殺してやるぞ?」


ザヴァゴは胸ぐらを掴まれても大した動揺は見せず、掴まれた腕をじっと見ているのみだ。


その姿に気味が悪くなった男は馬鹿らしくなって手を離して視線を逸らした。


「気味の悪いバケモンだな」


「おいおい、そんなやつほっとけよ。どうせ戦いが始まったら出てこないでこん中潜って震えてるだけなんだからな」


「そうだな、関わるだけ無駄だ。それよりも報酬の分け前決めとこうぜ」


男三人はザヴァゴのことなど無視して報酬の話で盛り上がり、車の中は小さな喧騒で包まれた。


「報酬なんて馬鹿だろ」


「お前は金が好きじゃないのか?」


先ほどまで黙って警戒していた男の一人がザヴァゴのつぶやきに反応して質問してきた。


「金よりも命の方を大事にしろっての。金のために命を散らすようなことはごめんだな」


「それには同感だ。報酬は欲しいが死ぬのは一番ダメだ」


それぞれ実力こそ国内でも高いレベルをもつ者たちだが、統率のかけらもなくまもなく相対する敵に対して舐めきってるような態度までしてる者もいる。


調子に乗っている三人はゲンブ、ネイム、ネグマの三人、ザヴァゴに話しかけた警戒心の強い男はガウン、もう一人、装甲車を操縦しているユグッド。


事の経緯は、戦時中であるにもかかわらず戦線の最前線から外れるようにとの命令を受けてザヴァゴは母国であるアリアンロッド帝国の王都ベルマンに来た。


そこで、過去に何度も調査が進められていた謎の多い種族である吸血族の住処を特定、そしてそこに乗り込むための部隊を編成している途中だということを聞かされる。


そこでザヴァゴは強制的にその調査班に配属されて実際の現地に乗り込む任務を受けた。


そして、現在に至る。


しばらく時間が過ぎ、鬱蒼と茂る森の中を装甲車は走り、周りが窓からあまり確認できない環境となったところで、それまでぼーっとしていたザヴァゴが何かに気づいたのか喋り始めた。


「十五...いや十七か。姿を消して木陰に隠れてやがるな。それも全員魔力量も桁違いだ」


「あ?何言ってやがる。ここら辺には誰もいねえぞ。さっきから音ひとつしねえじゃねえか」


「馬鹿が、隠れてる奴が音を出すわけねえだろ。そっちが信じないなら別にいい。放っておけばこの乗り物ごと俺たちまとめて吹っ飛ぶだろうけどな」


「はんっ、何を言い出すかと思えば戯言じゃねえか。さっきも言ったろうが、特別な立場にいるからって調子にのるなよ」


周りが一向に信じないのに若干の苛立ちを覚えるザヴァゴだが、それを悟られるわけにはいかないと、表情に出さないように気を配り仕方がないと吐き捨てながら立ち上がる。


「おい、なんのつもりだ」


報酬の話で盛り上がっていた男の一人がザヴァゴがいきなり立ち上がったのを不審に思い問いかけたが答えは返ってこない。


「お前ら死にたくなかったら死に物狂いで走らせろ。俺は外に出る」


走行中であるにもかかわらず車体の重厚感のあるドアを開けると、外に飛び出した。


「馬鹿馬鹿しいな。幾ら何でも無能すぎる」


ザヴァゴが振り向くと、装甲車はいくつもの魔法に被弾し、ちょうど爆散したところだった。


あまりにも悲惨な光景が広がり、目を細めるが、感情に流されている場合ではないと敵の元へ走り出した。


あまりにも酷い光景だ、数分が経過し、今ザヴァゴの状況は一言で言えば大勢の吸血族に囲まれている。


「流石は、長年正体を隠し続けてきた精鋭種族だな。連携もバッチリか」


ザヴァゴを取り囲んでいる吸血族の数は見えるだけでも数十人はくだらない。


多少楽観視して60といったところだろう。


「おい、あいつらは死んだのか?」


ザヴァゴは全く顔色も声色も変えずに、かつ余裕を持った態度で目の前の吸血族の一人に聞いた。


だが、それも言葉ではなく特大の火炎が返ってくるだけだった。


「はいはい...答える気はゼロ...か」


火炎の魔法に便乗するように周りからも様々な魔法が飛んでくるが、それをまたしても余裕の表情で傍観する。


「今回に関してはこっちが侵略者だ。あんたらに恨みはないしあんたらは間違ってもない。正当防衛だ。けどな、今は戦争中だ、弱いやつはとっとと死ぬんだよ」


ザヴァゴの手から無数の光があふれ、それは数々の降り注ぐ魔法にあたり、相殺する。


魔法の術式を書き換え破壊する、ザヴァゴが持つ魔法、改変魔法だ。


「《霧化ミスト》」


ザヴァゴのもう片方の腕からは白い霧が溢れ出し、辺りを瞬く間に包み込む。


「全員まとめて殺す」


「ガァァァァ、グ...苦し...」


「いや...まだ...死にたく」


霧に包まれたものたちは、体がどんどんと肉体が剥がれ落ち、蒸発して行く。


霧に含まれる改変魔法によって、肉体そのものが霧へと改変させられて行く。


防御不能、抵抗もままならずに霧へ溶けて行く者たちにさして興味を示さずに苦しむ声も耳に介さず通り過ぎていく。


「俺一人で本拠地に行く、お前らはそこで終わりだよ」


霧から逃れた者も何人かはいたが、最初から全滅させる気など微塵もないザヴァゴからしたら心底どうでもよく、その場を後にした。


<><><>


俺などの調査隊含め、軍部全体の最終目標は、吸血族の首魁である真相と呼ばれる化け物の討伐だと言われた。


帝国の役人は最早吸血族を種族として見てなどいない、むしろ魔物の方が近い認識だ。


その考えを否定したいわけでもないし、人間側からすれば不穏因子は確実に潰すに越したことはない。


なにせ、本来の強さならば人間が奴らに勝てるはずはない。


俺やその他少数の化け物を除けば、だが。


仮に吸血族と全面戦争して勝利を収めたとしても疲弊はできるだけ避けねばならない。


俺がここにきているのも調査と言う名の殲滅、短期決戦でリーダーを潰すこと。


幸い、短期決戦かつ一対一ならば俺の力があれば負けることはほぼない。


だが、奴らの本拠地をある程度割り出しても王なんかのいる場所を割り出して、なおかつすぐさま乗り込まなくてはならない。


そして、俺の行動によって吸血族の動きが過激化するリスクも高いしどれだけ個の力が強かろうが限界はある。


一対一ならまだしも、一対種族全体となればいくらなんでも勝ちようがない。


「まず、奴らの国がいくつあるか、規模がどの程度かもわからない状態だからな。調べる時間もない」


先ほど壊滅させた吸血族の集団を通り過ぎて真っ直ぐ進むこと数十分、森の中は霧がどんどん濃くなる一方で目を凝らさなければ数寸先の景色さえ見ることは困難だった。


「侵入者を惑わせる魔法か?それも結構強いな。魔力を探っても邪魔される」


周りの様子がわからない以上、これ以上の探索は困難でかつ道も十分に分からない状態で迂闊に行動するのは危険と判断した俺は、ある博打に出ることにした。


「スゥー...。フウ...」


気開法、精神を体内魔力に極限まで浸透させることにより、意識的に魔力を操作できるようになる手法。


血液の流れ、鼓動の波長、神経の隅々まで届き渡る魔力により、全てが全力以上の活性化を呼び起こし、五感と身体能力が一時的に限界を引き起こす。


さらに改変魔法を使い、消耗した体を常に修理し続けることによりその力を維持することができる。


「駆け抜けるのが一番手っ取り早いよな」


体のいたるところから魔力の光が漏れ出し、瞳も白く光る。


それと同時に、高負荷により目は充血し、血管がはち切れんばかりに膨張していてとても痛々しくもあった。


一呼吸入れ、足を踏み出し全速力で霧の中を走り抜ける。


木々は機敏になった視覚と反射神経を駆使して避けつつ伏兵がいないか見回しながら森を抜けようと駆ける。


「バレバレなんだよな」


魔力で伏兵の位置がある程度わかるお陰で不意打ちを受けずにすみ、かなり移動が楽だ。


数十分間程度走り、数は進むにつれて多くなり、どうしても接触を避けられないほどの数にまで増えている。


「ここまでくると伏兵じゃなくて軍隊だな」


目の前に扇状に展開された部隊は、俺を囲うようにあからさまに誘導していた。


まず俺の行動を予測して、その上で察知される前提で伏兵を配置して、俺がこの大人数に囲まれるように誘導していた。


進行方向的には絶対に避けられない場所でもありもう迂回は間に合わない。


後ろから追撃されるのが目に見えている状態で進行方向を変えるのはどう考えても悪手だ。


結論は、もう正面衝突しかない。


だが、ただぶつかっては多大な消耗を被ることになるためにそれ以降の戦闘が不利になる。


魔力ももう三割は消費してしまっている以上さらなる消費はどうしても避けたい。


(賭けに...出るか)


可能性はなくはない、ただ決して高くはない。


方法はいたってシンプル、一瞬だけ全力で魔力を使い体を強化して包囲網を突破、ここを抜けた先が吸血族の住処ならばそう時間もかからずに首魁を潰すことができる。


だが、逆にまだまだ距離が離れている場合どうあがいても魔力的に倒せる見込みがなくなってしまう。


「邪魔だ!」


一瞬魔力を足に全力で注ぎ込み爆発的な脚力をもって踏み出し急加速する。


幸いにも部隊が包囲するための布陣だったため突破するのはそう難しい事じゃない。


目の前の吸血族数人を勢いに任せてなぎ倒して森をかける。


突破には成功、だが...。


「この先に魔力の気配がない、賭けはハズレか」


この速度のペースを維持しながらではたどり着く前に魔力が枯渇して詰む。


空は霧がかかっていてよく見えないがまだ夜には早く太陽が少し傾いているが空は明るい。


休もうにも動きを止めればさっきのやつらが確実に追撃に来る、夜になればなおさら奴らの動きが活発になる。


だが、動き続けていては体力が持たないので音を立てずにバレないように木陰に座って携帯していた飲料水を飲む。


「ぷはっ、はぁ。クソが、明らかに強さが尋常じゃねえ。あんなのが何百といるなら勝ち目は薄いな。正面から突っ切るわけにもいかねえし、そもそも夜になるまでになんとかしないと俺の身が危ねえ」


吸血族は資料によると日光に当てられると魔力が体に馴染まず魔力が弱まってしまう。


だからこそ日中での戦闘は向かないはずだ。


なのにも関わらず、俺を追跡して追ってくるし戦闘でも今の所負けてはいないがそこそこ強い。


これ以上状況が悪化しようものなら集団リンチでお陀仏だ。


「早いとこ終わらせねえと手遅れだ。どうするべきか...」


敵戦力があまりに多すぎる、別働隊も期待できないし何より同行していた仲間がそもそも使い物にならなかった上に全員死んだ。


「いや、ここから撤退するにしても戦闘は避けられねえ。どうせ上の奴らも俺のことは捨て駒としか思ってない以上は成果を上げないと何されるかわかったもんじゃねえ」


国の重要な国務や軍部管轄大臣は皆既に腐りきっている。


そんな国に何の成果も無しに勝てないことを理由に手ぶらで帰るのはあまりにも愚行だ。


「というか何で聖剣使いじゃなくて俺なんだ?もっと適任者がいるだろうが。あいつらの考えることはよくわからん。はあ、とにかく今はこの状況だ」


状況ははっきり言って最悪、夜が少しづつ近づいて来ていてそこら中に吸血族が待ち伏せしていたり他にも魔物が多く混在している。


一々対応しているわけにもいかないし魔力的にもう余裕も残されていない。


魔力を感じ取れる範囲で街と思われるものはないし、そこまで大きな魔力は感じ取れなかった。


「ん?まてよ...。陽の光が苦手な奴らがこんな必死に俺を迎撃するものなのか?それもまだ本拠地を発見されていない段階で...」


普通ならば相手だって警戒しているはずだ、俺が自分たちの住む場所を侵そうとしているのだから当たり前だ。


だが奴らは吸血族、何故か日の出ている俺に有利な環境でこうも必死に迎撃しているのがどうも違和感を覚える。


俺だったら暗い建物の中に誘導して日の光を遮断した上で罠にかけたり構造上の有利を作り出し、さらなる数の暴力で圧倒してしまおうとする。


それをしないということはそれ相応の理由が存在しているというのは少し考えれば予想がつく。


さらに言えばもう既に何体か殺しているのにもかかわらず変わらずに俺を追いかけてくる。


危険性を理解して何かしら策を練ってくると考えていたがどうもそんなこともないらしい。


可能性としては、一つ目はこの程度の戦力は吐き捨てられるほどに大きな集団である場合、そして二つ目は俺の戦力を削るためだけにこのように執拗に狙っている。


二つ目の場合、俺が撤退できない状態であると相手が知っている前提だからほぼその線はないに等しい。


一つ目もそれほどの数がいればいくら吸血族といえども他の種族の一つくらいはとうに滅んでるだろう。


ならば三つ目である、もはやここが本拠地の中という可能性が出てくる。


ここに限定しているわけではなく、例えば見えないように魔法を駆使して空中の遥か上か、もしくはこの地下深く。


吸血族が上にいるわけないということを考えると地下一択になるわけだが、奴らの行動を見ているとどうもそうとしか思えない。


第一に比較的陽の光を抑えられる森林地帯での迎撃体制と、その中を相当な距離走っても全く建造物や住みかとしているような形跡は見当たらなかった。


自然を利用した戦術に違和感はないが、だとしても警備網が脆弱すぎる。


あくまでも見張りって感じだったし、俺を見つけて追ってきていたが一人でも退けている俺からしたらそこまでの強敵とはいえない。


強力な兵器を複数運用した行軍ならこの程度の戦力豆粒と大差ない。


ならば、これがあくまで見張りとしての役割であるなら話は別だ。


見通しの悪い森林で身軽な吸血族が地下の本拠地と効率よく情報伝達を行うなどおそらく造作もないことであり、多分俺がここにいることも知られている可能性が高い。


今明確な対策が行われていない理由は、元々迎撃はするが深追いせずに情報を安全に持ち帰り、相応の戦力を夜になったら送るつもりなんだろうなと思う。


それまでに俺が撤退すればそれはそれで無駄な戦力の消費をなくすことができる。


「はあ、つまりは今は様子見ってことかよ。大体想像ついたぜ」


つまり、賭けは五分ってところか。


下に魔力の反応があるかを確認、ついでに建造物とかもないかどうか。


「やっぱりな」


地下、ただしそこまでの深さではないが明らかに集団での魔力反応がある。


その中でもとりわけデカイ反応もあるところを見ると多分大当たりだな。


「っし、覚悟は決めた。突撃するか」


撤退したとしてもあのクズ共がそれを納得するはずがない、それにこのままここにいたとしても消耗戦で力つきるのみだ。


「おっラァ!!!!」


掛け声とともに改変魔法を起動させ地面に亀裂が走る。


「待ってろよ、吸血族の親玉」


俺は暗い暗い穴の中に吸い込まれるように入っていった。



どうも、まっつんです。

この作品は《支配者の未熟者》の過去編、いわゆるスピンオフのような感じです。今後物語が進行するにあたってこちらの話も進めていきたいと思っています。主に《支配者の未熟者》の世界がどのように成り立っていったのかという物語です。

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