ハラス越しの恋人
北海道が忘れられない。
あの人が、育った町だから。
ずっと、愛していた。
ずっと、頭で考えていた。
あの人は、今どこで何をしているのだろうかと。
北海道に帰ると言い残して、あの人は姿を消した。
帰るとは言われたが、さよならの言葉はなかった。
もちろん、別れようとも言われていない。
連絡しても繋がらないが、まだ、付き合っていることに変わりはない。
そう、自分に言い聞かせてきた。
あれから、二年の月日が流れた。
ついに、北海道に来てしまった。
北海道に家を借りて。
あの人が好きだった、鮭ハラス飯を、気付けば頼んでいた。
運ばれてきた、鮭ハラス飯を勢いよく、かっ込みながら誓った。
もう、執着するのはやめようと。
何も考えず、あの人のことは忘れて、ありのままに過ごした方が、いいかもしれない。
あの人のことを、考えずに過ごした方が、再会できる確率が高いってこともあるから。
運命って、そういうものだから。
一気にかっ込んだ鮭ハラス飯は、あっという間に無くなり、器の底が見えた。
ふと、顔を上げると、正面にあの人がいた。
しかも、視線をこちらに向け、ぐちゃぐちゃに顔を濡らしながら、かっ込んでいた。
あの人が食べていたのは、同じ鮭ハラス飯だった。