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ペット彼女~リアルの女に用は無い~  作者: 31
1章 ペット彼女のあれこれ
6/12

No.10

ペット彼女が発見されて、それなりの月日が経過した。凄まじい勢いで世の男性を虜にする一方で、ペット彼女に対する研究も進められている。


とはいえ、あまり進歩はしていない。特に身体系の研究はほとんど進んでいない。研究するに当たっての欠点は、ペット彼女に投薬や解剖と言った作業をするときに罪悪感が半端ない、あの表情を見ながらやるのは辛いからだ。発達した表情筋等がこんな形で障害になるとは思わなかっただろう。


多くの研究者がペット彼女を飼ったは良いが、そのまま育ててしまう人が多発している。


そしてこの研究所でも日夜研究をしようとして、断念してしまう2人が居た…






「もうこの研究も潮時ですかね?」


「そうだな…」


とある研究所に勤める水木健はとある論文を片手に、上司に呟いた。

論文の表紙には『群れにおけるペット彼女の行動』と示されていた。


野生産の個体を様々な所から数匹捕まえ、共同生活を行わせてるのだが、どこか人間に見せる為の動きをしてる気がしている。

最近では芸を覚えたり歌を歌おうとしたりと、俺らにアピールするような動きが多く見られた。


これはこれで貴重なデータだが、もっとこう、群れで遊んだり、喧嘩したりと自然な動きが見たかったのだ。

研究失敗とまでは言わないが、望むような結果は得られなかったのである意味では失敗だ。


そんな時、ふと時計を見ると12を指していた。


「あ、時間なので餌あげてきますね」


簡易的な調理場で人数分の餌を作り、ペット彼女を放し飼いしてる部屋に向かった。







「ほらみんな、飯だぞ」


声をかけると仲良く遊んでる中から一人が出て来た。


「すっ!すー!すー!」


「むっ」「とっ 」「ゆっ」「るっ」「こっ」


この個体の声に反応し、他の個体が一斉に一列に整列した。


これも分かった事だが、群れではリーダーとなる個体が生まれ、基本的にはその個体の指示に従う姿が確認された。

飯も喧嘩が発生しないように、このように整列して順番に貰うようになり、上手く統率出来てるようだ。


ちなみに今日の飯は期限ギリギリのエビピラフだが、仲良く分けながら綺麗に完食していた。

試しに期限切れを出した時は、ほぼ口を付けなかったので廃棄処理には使えない。残念だ。

期限切れを判別する術が何かあるのだろう。









時は過ぎ次の日


今日は朝から上司が出払ってるので、今研究所は健一人だ。

研究も今日は休みで、ペット彼女が使ってる一室の定期整備の日、研究させてもらう以上それなりの待遇を持たせるのは当然だ。


掃除道具を取り出し、ついでに朝飯を取りに向かおうとした時だ。


「みゅっ!みゅー!みゅー!」


「ん?どうした?」


声をかけてきたのは比較的大きめの個体、No.6だった。

ちなみに数字呼びの理由だが、上司から「名前呼びだと変な保護欲が出るから止めてくれ」と言われたので数字呼びを徹底している。

ペット彼女達も納得してるので特に問題も起きてない。


「みゅっ!みゅっ!」


ズボンの裾を引っ張って何かを訴えようとしている。

何かあったのだろうと察し、付いていった。








「うー?」


そこにはコンコンと瓶を「内側」から叩いているかなり小型のNo.10がそこに居た。


このペット彼女はNo.6の子供らしく、常に一緒に行動していた。

飼い始めた最初の数週間は、噛み砕いた餌を口移しであげており、懸命に育てていた。


好奇心がかなり旺盛で、珍しい物を見つけたら何でも興味を示していた。

時にはおもちゃを見たら口に入れたり、貰った餌を投げ捨てたりしてた事もあり、その時はNo.6がしっかり注意していた。

正に子供を躾る親の構図である。


だが今はその親が人間である我々に助けを求めている。

よっぽどのピンチなのだろう。


それもそのはず


「おーい。親が呼んでるぞ。早く戻ってこい」


「うー」


言葉が届いたのか、ポテポテと瓶の入り口に足を運んでくれた。


「う゛っ!」


しかし外に出ようとするも、頭が突っかかって瓶から出られなかった。

…いやいやどうやってこの中に入ったんだ?


出られないと分かると瓶の口とは逆に向かい、瓶の底をコンコンと叩き始めた。


「みゅー!みゅっ!みゅー…」


どうやらこの赤ん坊は出られなくなってしまったらしく、俺に助けを求めてきたのだ。






「マジでこれどうやって入ったんだ…?」


考え付く仮説は現実味が無いものばかりだが、全く謎が解明されてない今はどれも『絶対違う』とは言い切れない。


それはともかく、このままでは良くない。

こんなイレギュラーな事態で研究に支障が出るのは困る。

今回の研究が終わったら、新しく別の研究を始めようと思ってるからだ。

さっさと救出しようとノコギリを手に取った。


「う!?うー!うー!」


「みゅー!みゅー!みゅー!」


すると中の赤ん坊は半泣きになって縮こまり、親は小さい手を大きく広げて瓶の前に立ちはだかった。刃物を持ったから守ろうとしてるのだろう。


「いや、瓶を切らないと多分救出出来ないぞ?」


「みゅー…みゅ!みゅ!」


No.6もそれは理解してるのだろうが、破片が飛んで怪我をするリスクを考えるとやってほしく無いのだろう。イヤイヤと首を振っている。

破片を飛ばさず、中の赤ん坊も怪我させず救出しろと。知らない間に随分とワガママになったもんだ。


ならちょっとイタズラをしてやろう。


「すまんが、破片も飛ばさず救出するのは無理だ」


「みゅー…」


「だから助かるまでは責任もって育てよう」


「みゅ!?」


No.6は驚いた声をあげた。いくら男相手でも自分の子供を預けるのは嫌なのだろう。


「心配なのは分かるが、それしか方法は無いぞ?明日から2日休みだから誰も居ないし、飯とかどうするんだ?」


「みゅー…」


まだ悩むか。ならもう一押した。


「友人にガラスに強い奴が居るんだ。そいつに頼めば安全に切れるぞ?」


安全

この一言の効果は大きかったのか、さっきとは違う態度で顔を向けた。


「みゅー」


納得してくれたのか、No.6はぺこりと頭を下げた。

余程子の安全が大事だったのだろう。

そのまま今日の仕事を終わらせ、2日分の飯を置いてから、No.10の入った瓶を持ち帰った。


持ち帰る時にNo.6の顔がどこか悲しそうな感じがしたのは気のせいだろうか…








基本プロフィール

身長 3.1cm

体重 0.6kg

実年齢 推定0~2歳

見た目年齢 18~20歳

性格 好奇心旺盛、アホッ子

知能 低い

運動能力 やや低い

鳴き声 うー

備考 サンプルNo.6の子


「うー?」


瓶の中を覗いてみると、No.10は不思議そうな顔をして見つめ返している。


「しかしいざ育てるとなると…」


瓶詰めされてるから実際に触る事は出来ないし、餌やりや掃除はかなり困難になるだろう。

もし水を入れようなら溺れてしまう可能性もあり、両者共にかなり不便だ。


その辺は追々考えるとして、別の部屋に移動しようと席を立った。


「うっ…うっ…うー!うー!うー!」


だが席を外そうと立ち上がると、No.10は急に泣き始めた。すぐに座り直したが、それでも泣き止まない。何が原因だろうと思っていたら…


「うー!うー!(クゥー)うー!」


よーく耳を澄ましてみるとお腹の辺りから別の音が聞こえる。どうやら空腹を訴えてるようだ。確かに夕食時だし、俺も腹が減ってきた。


だが何を食べさせるのかが問題だ。瓶の口はかなり小さいので、入れられる物はかなり限られる。

かと言って熱い物や冷たい物だと、狭いこともあり温度の影響をモロに受けてしまう。加えて3cmしかない超小型生物だ。ダメージも大きいだろう。


常温かつ小さい食べ物…可能なら汚れない物。そんな物があるのだろうか?

そう考えながら冷蔵庫を漁ってみると、とある物が目に入った。







「ほら、食いな」


持ってきたのは野菜スティックだ。これなら小さく出来るし、常温でも美味しく食べられる。ドレッシングを付けなければ汚す心配も無い。

とりあえずキュウリを小さくして瓶の中に入れてみた。


「うー?うー…」


見たことない物で警戒してるのだろう。瓶の端まで逃げて低く唸っている。もしかして食べ物と認識してないのではないか?

好き嫌いは別として、食べてもらわないとこちらも困る。


そこで俺もスティックを取り、No.10の前で食べた。少なくともこれで食べ物だと認識はしてくれるだろう。


「うー…」


それでもまだ不安なのか、そーっと近付いてはキュウリをツンツンしてる。こりゃ時間がかかりそうだ。


「うー」


20分経ってようやく食べてくれた。体も小さく、食べるのにはかなりの時間がかかり、最終的に食べきるまでに30分もかかってしまった。










「うー…うー…」


食べ終わったらすぐに寝てしまった。食べて寝るとは流石赤ちゃんと言うべきだろうか。

俺は子供は居ないが、子供が居るとこんな感じになるのかなと思う。


しかし暇になってしまった。目覚めるまでやることも無いので面白い番組がやってないかテレビを点けた。


『次の中から正しい答えを』


ピッ


『見てくださいこの大きなヒラメ!』


ピッ


『ではペット彼女による男女間の縺れについて…』


興味深い内容を放送していた。


『では交際中にペット彼女を飼うのはありか、意見を聞いてみましょう』




肯定派の意見


30代男性 「所詮ペット」

『ペット彼女と言っても結局はペットと同じですし、全然問題ないと思いますよ』


20代男性 「楽」

『犬とかに比べて安上がりだし楽だし、手軽に飼えるのは楽っすね』


20代女性 「負け?」

『ペット彼女を飼っただけで縺れが出るようなカップルなんか別れた方が良いと思いますよ。…こちとら彼氏すら出来ないってのに贅沢言って…』



否定派の意見


40代男性 「病気の心配」

『まだ研究が浅くどんな病原菌を持ってるか分からないので、衛生面が心配です』


30代女性 「結婚後について」

『ペット彼女を飼い始めてから旦那が全く構ってくれなくなりました…うぅ…』


10代女性 「不手際?」

『もー本当に!あいつら顔に引っ掻くし石は投げるし噛み付くし散々な目にあっ『ほらほらその辺にして、もう行くよ』ぐぇ…首絞まってる首絞まってる…』


『肯定的な意見、否定的な意見多くありましたが、肯定的な意見が多く出てますね』


『やはり見た目はどうであれ、ペットの一種として見てる人が多いようです』


ピッ



言われてみれば本当に不思議な生き物だ。

野良で生きる力がありながらも人間に気に入られようとする行動。

人間の女性に似た容姿。

身体構造も人間にそっくり。

言葉を理解する知能。

なのに何故か人語は喋れない。


考えれば考えるほど謎が深まるばかりだ。


まあそれでも…


「うー…うー…」


今はこの寝顔を見てるだけでも充分だな。


さて、今の行動を記録しなければ…

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