ハルカ
「私もペット彼女を飼いたい!」
「はいはい、寝言は寝て言いましょうね」
「少しは構ってくれても良いんじゃない!?」
時は昼休み、場所は光城高校中庭
親友である柊あかりは私、氷川美里に馬鹿な事を言い放った。
「いやいや…絶対無理でしょ。女子には絶対なつかないって有名じゃん」
実際、女子でも飼えないか実験を行った人は多数居るが、その全てが失敗に終わっている。
「大丈夫だって!私ほどの愛嬌があれば性別の差なんて!」
「愛嬌って言葉は自分で言う事じゃないと思うけど…」
確かにあかりの気持ちも分かる。私だって飼えるのなら飼いたいと思った事は何度かあるしね。ホント、何で女子にはなつかないんだろ。
「…で、ペット彼女ってどこで会える?」
…こいつは飼う以前の問題だったわ。
「えー!?何で!何で!」
放課後、見るくらいならと思い近所のペットショップに向かった私とあかり。だが、入ろうとしたら店員に入店を断られてしまった。
「ペット彼女達を刺激してしまうので、女性のみの入店はご遠慮願います」
よく見ると入り口に貼り紙が貼ってあった。これは読まなかった私らが悪いね。
「ま、そりゃそうよね。ほら、帰るよ」
あかりの首根っこを掴んで引っ張りながら、ペットショップを後にした。
「ちょ…タンマタンマ…首絞まってる…」
あれから他のペットショップにも行ったが、どこも門前払いされてしまった。流石のあかりも買うのは諦めたのだが、野良ペット彼女を狙い近くの草むらに連れてこられた。
「よーし…絶対捕まえるわよ!」
虫取網を片手に意気込むあかり。私は特に参加しないで近くで休んでるつもりだ。
余談だが、野良ペット彼女を捕まえるのは禁止されていない。万一捨てる時は群れに責任持って帰すのがルールになっている。
「無駄だと思うけどね」
何だかんだ言って付き合ってる私も、どこかでペット彼女に会えないか期待してるのだろう。
そのまま探すこと2時間…
「ちょっとー!どこにも居ないじゃない!隠れてないで出てきなさいよー!」
ペット彼女は一度も私達の前に現れなかった。
「私らが居るから警戒してるんでしょ。近付くだけで逃げるのも多いし」
「よし!こうなったら…」
バックの中からネズミ取りを取り出した。
「いや、何これ」
「罠だよ罠!」
「罠って…」
余りにも幼稚すぎる発想に呆れるも、あかりは淡々と準備を進めていた。
「よし!後は待つだけ!」
罠にかかるか、あかりが先に飽きるかは分からない。
結果を見届ける意味も込めて一緒に待つことにした。
とはいえ、待ってる間は暇なので携帯に入っているアプリで暇を潰す事にした。
「あー!また角取られた!」
「あんた相変わらず弱いわね」
「もう一回!今度は勝つから!」
バチンッ
「ん?」
「お!この音は!」
音が聞こえたので、仕掛けた罠を見に行ってみたらそこには…
「ほら!かかったよ!」
「いー!いー!」
「え、マジ?」
ネズミ取りには10cmほどのペット彼女が捕まっていた。でもお腹を挟まれてるのでとっても痛そうだ。それにしてもペット彼女は群れで動くって聞いてたのに、周囲に仲間が居ないなんて事あるのだろうか?
「捕まえたー!私のペット彼女!」
「いー!いー!いー!」
捕まったペット彼女はイヤイヤと首を振りながら大泣きしている。痛さもあるだろうが、飼われるのがよっぽど嫌なのだろう。この子は特に悪いこともしてないし、純粋に可哀想に見えてくる。
「あのさ…流石に可哀想じゃね?帰してあげたら?」
「やだよ!折角捕まえたんだし!」
あかりは浮かれてるのか、私の話を聞いてくれない。ペット彼女の意志を全く考えてない。
本当はもっと説得したかったが、時間も時間なので、責任持って育てる事を約束して持ち帰っていった。
次の日、あかりは眼にクマ作って登校してきた。
「何そのクマ」
「それが聞いてよ!ハルカったらあれからずーっと泣いてたんだよ!お陰で寝不足だよ…ママにも煩いって怒られたし…」
あかりはどうやらハルカと言う名前を付けていた。だが話を聞く限りでは上手くいってないようだ。
「そりゃ無理やり連れてきたあんたが悪いでしょ。それに飼うって言ってもちゃんと水槽とかの用意はしてあるの?」
「え?今日用意しようと思って今はビニール袋に入れてるけど…」
…いやいや。馬鹿なの?生き物をビニール袋に入れて放置とか正気とは思えない。ハムスターとか飼ってる人がビニール袋に入れておく?しないでしょ?
最近話題になってるけど、見た目が良いって理由で写真を上げようと飼いたい女子が増えてるとか。
だが決してなつかないのに上手くいくわけも無く、写真を撮ったらそのまま放置する人が増えて問題になっているのだ。
女子になつかないって言われてるのはこう言う所から来てるのだろう。
少なくとも、あかりは写真目当てでは無く、ちゃんと飼いたいと思ってるだけマシ。でも行動が伴ってないのよね…
「あのさ…生き物を飼う事を甘く見てない?餌は?住む所は?日々のケアは?最後まで面倒見れるの?男子の話聞いてると皆ちゃんとやってるよ?」
「い、一応袋の中にパンの耳は入れたから…」
「そういう問題じゃなくてね…」
「じゃ、じゃあさ!詳しい人に直接聞けば良いじゃん!」
「ちょっと!どこ行くのよ!」
「武田君!ペット彼女の飼い方を教えて!」
何を血迷ったのか、クラスメイトの武田君に突撃していた。確かに彼もペット彼女を飼ってるし、みーみー鳴いて甘えて来るのを聞くと羨まし…じゃなくて躾も上手くやってるのだろう。
あかりがそこまで考えて突撃したのかは知らない。もしかしたら、飼ってる男子なら誰でも良かったのかもしれないが…
「…え?飼うって、もしかして柊さんが?」
「そうだ「あー急に悪いね。私の弟が飼いたいみたいだから、どんな風に飼ってるか聞きたくてね。それ聞いたこいつが勝手に暴走しただけだから」」
余計な事を言いそうな口は塞いで、とりあえず、それらしい事を行って誤魔化した。
「まあ、僕に答えられる事なら教えるよ」
「とまあ、こんな感じかな?」
「最後に聞いときたいんだけどさ、女子が絡むとどんな反応するか分かる?」
「んー…そうだね。母さんに対する反応の話になるけど、ほとんど無視されてるらしいよ」
これは意外。ペット彼女はもっと攻撃的なイメージがあったけど、案外違うようだ。嫌うと言うより無関心が近いのかも。
「無視だけ?攻撃してきたりとか無い?」
「今のところはね。仮にしちゃったら、ちゃんと躾をする予定だよ」
武田君に一通りお礼をして、私達は席に戻った。
「ほら聞いたでしょ?ズボラなあんたが飼うのは無理なんだよ。諦めて帰してきな」
「ぬぐぐぐ…いや!まだ諦めないよ!出会ったばかりだからきっと緊張してるんだよ!」
「…まあ好きにすれば?」
ここまで言っても駄目なら、もう何を言っても無駄だろう。
私に出来るのはせめてハルカが死なないように祈るくらいだ。
また次の日
「おはよ…なにその絆創膏」
「引っ掛かれた…しかも昨日の夜に逃げられた…」
「あんた何やったのよ…」
回想…
あれからハルカは泣き止みはしたが、私の事を全く相手にしてくれない。
入れておいたパンの耳も一切手を付けてないし、コミュニケーション兼餌やりとして食べ物を近付けてみた。
「んー…食べないなぁ」
ビニール袋を開けて菓子パンで釣ってみるが、全く食い付かない。他にもグミとか米粒とかも近付けみたけどこれも駄目。雑食ってなってたのになぁ。
ピンポーン
そんな時不意にインターホンが鳴らされた。誰だろうと思い出ると、そこには誰も居なかった。
「あれ?イタズラ?」
「なっ!」
声のした方を見ると、かなりの数のペット彼女が家の前に居た。正確な数は分からないけど、軽く見ても20匹は居そうだ。
「え!?何この子達?」
このペット彼女達だが、木の枝や小石を持っており、あまり友好的は雰囲気は感じられない。
「なーー!!」
その鳴き声を合図に、ペット彼女達があかりに襲い掛かって来たのだ。
ある者は小石を投げつける
ある者は露出してる肌に噛み付く
ある者は顔を引っ掻く
もうめっちゃくちゃだ。
「い、痛っ…や…やめてって…」
何とか振り落とそうとするも引っ付いてて中々離れない。
そんな中、二匹があかりをよじ登り耳元まで行ったと思いきや…
「るーーー!!!!」
「にーーー!!!!」
突然大声で叫びだした。元々甲高い声だった事に加えて、二匹同時だ。あかりには一溜まりもない。
「あ、頭クラクラする…」
まともに立ってる事が困難になり、そのまま床にぶっ倒れた。
その間にとある個体がハルカが入れられてるビニール袋を引き裂き、中に居たハルカに抱き付いていた。
「いー!!」
「おっ!おっ!」
どうやらこの二人は親子だったようだ。強引に連れ去られてしまった野良のペット彼女達が連れ戻しに来たのだ。
連れ戻した群れはぶっ倒れたあかりを無視してそそくさと家を出ていった。
「で、気が付いたら逃げられて…」
それを聞いて感心と同時に恐怖を感じた。不意討ちとは言え、何も抵抗出来ずにやられたのだ。数十センチと侮ってると痛い目を見る事を再認識させられた。
「…まあ今回はあんたも悪い所があるし、少しは反省したら?」
「うん…」
あかりは良くも悪くも素直な子だ。これで少しは改善するだろう。もし、また本気で飼いたいと言うなら手伝ってあげるからさ。…こんなんでも親友だしね。
数日後…
「私分かったよ!男の人のお面を常に着けていれば飼えるかも!」
そう言ったあかりは雑誌から切り抜いた俳優の写真を顔に貼り付けていた。
「全っ然分かってないわねあんたは!」
もうやだ!友達止めたい!