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 朝食を食べ終われば、フォードの町に向けた準備を始める。


「それじゃ、手分けして行いましょう!」

「……やっぱ、別々に」

「いいえ! 一緒に行きます! そもそも、私の目下の目標は、アクニンさんの更生ですから!」

「できもしない事を目標にするのはどうかと思うぞ」

「できます!」


 その自信はどこからくるんだか。


「じゃあ、フォードの町に着くまでの飯を用意しといて。あっ、普通の量ね」


 俺は普通の量でもいいが、セイギちゃんはどれだけ食べるかわからん。

 セイギちゃんが食べる分の余りでもいいが……そもそも余るかが怪しい。


「普通、ですか?」


 う~ん、と考え始めるセイギちゃん。

 その姿は不安を覚えるな。


「……予め言っておくが、セイギちゃん基準の普通じゃなくて、世間一般で言うところの普通だからね」

「わかりました! 任せてください!」


 ……本当に大丈夫だろうか?

 でもまあ、たとえ大量買いしてきたとしても問題はない。


 なんといっても、セイギちゃんの持ち物の一つは「収納袋」と呼ばれる魔導具。

 魔導具を簡単に説明すれば、魔法が組み合わされた道具。


 収納袋を簡単に説明すれば、見た目は普通の袋だが、見た目以上に物が入る袋だ。

 その内容量は質によって変わる。

 また、物によっては、収納したモノの時間の流れがゆっくりになるのもある。


 セイギちゃんのは、最上級クラス。

 まだ入る……まだ入る……ん? まだ入るの? と言いたくなるくらいに入る上に、入れたモノの時間の流れも非常にゆっくりとなっている。


 もちろん、俺もあるにはあるが、せいぜい着替えと下着類が何枚かと小物が入る程度でしかないので、最上級クラス……欲しい。


「という訳で、その袋、俺に頂戴」

「あげませんよ! これは私のお姉ちゃんが、旅に出るのなら、これぐらいは持っておきさない、と渡してくれた物の一つですし、くれぐれもアクニンさんには渡さないように、と強く言われていますので」


 ……あの女。ムカつく。


「へえへえ、そうですか。なら用はない。さっさと飯買って来い」


 財布から金貨を取り出し、ピンと弾いてセイギちゃんに渡す。

 自分の飯代くらいは自分で出す。


「ちゃんとお釣りは返」

「ありがとうございます! これでたっぷりと買えますね! それじゃ、早速行って来ます!」


 最後まで聞かずに、セイギちゃんが飛び出していった。

 ………………。

 ………………。


「いや! それで買えるだけ買えじゃないから! 必要な分だけ買って、お釣りは返せってことだからな!」


 聞こえていたかはわからない。


「それと、それは俺の分の金で、セイギちゃんのはセイギちゃんが払うんだからな!」


 ……これは確実に聞こえていない。

 もしセイギちゃんが自分の分を買ってきたら、きちんと請求してやる。


     ―――


 さて、旅の支度をしないといけないが……正直、俺が何かをすることはない。

 そもそも、服や下着類はある程度あるので必要になれば買えばいいだけだし、戦うための武器は提げているコレだけで充分。


 ワックスもまだあるし……一番の荷物になる食べる物は、セイギちゃんの収納袋に入れておくから問題ないが、何かの理由でセイギちゃんが居なくなると困るな。


 ……その時は収納袋だけでも預かっておこう。

 となると、俺が今すべきは……フォードの町までの道の確認だな。


 ついでに、持っていないから折り畳める近隣の地図でも買っておくか。

 迷ったら困るし。


 なので、まずは本屋。


 フォードの町までの地図を買うついでに、店主のおばちゃんと軽く会話を交わしておく。

 内容は主に、グロウリア国とフィルフィート国について。


 大したことは得られなかったが、こういう人が意外と知ってんだよね。色々と。


「んじゃね」

「若い兄ちゃんと話せて楽しかったよ」

「誰にでも言ってんだろ? それ」

「当たり前じゃないか。私から見れば、大抵そうだからね」


 そりゃそうだ。納得。

 本屋を出て、地図を確認。


 ……やっぱ徒歩だとギリだな。

 向こうに行ってからも情報収集の時間が欲しいから……馬車の方がいいか。


 財布の中身を確認。


 ………………。

 ………………。

 まっ、大丈夫だろう。


 向こうで儲ければ、プラスに傾くはず。

 ……儲かるかなあ……いや、儲かるはず。


 自分を信じろ、俺。

 なので、馬車で行くとなると、乗り合い馬車か。


 さて、新聞で大々的に宣伝された以上、フォードの町行きはあるはず。

 問題は馬車のチケットが取れるかどうか、だ。


 早速、乗り合い馬車乗り場に向かう。

 馬車本体と馬がいくつも並び、小さなチケット売り場と、小さなレストランが隣接している。


「明日、フォードの町までのチケット、大人二枚。空きがあるか?」


 チケット売り場に居る売り子の女性に声をかけると、ニヤッと笑みを浮かべられる。


「なになに? お兄さんも見物しに行くのかな?」

「そうだけど……なに? そんなに行く人が多いの?」

「そりゃもう、朝から多い事多い事」


 辟易してます、と表情が語っていた。

 それでも仕事だからと、乗り合い馬車の予定を確認していっている。


「うーん……そうだね。普通に乗っていくなら、明日の夜に出るのが最速かな?」

「……普通以外もあると?」

「そりゃもちろん。見たところ、お兄さんは冒険者でしょ? ランクは?」

「E」

「E? ほんとに?」

「もちろん。こんなところで嘘吐く必要性がないしな」


 冒険者ギルドカードを見せる。


「ありゃ、ほんとだ。おかしいな。というか、名前もおかしくない? アクニンって」

「自らそう名乗っているから問題ない」

「まあ、問題さえ起こさなければ、どうでもいいけど。それにしても、もっと上の方だと思ったんだけど……もしかして、登録してEに上がったばっかり?」

「正解。そんなに出来そうな冒険者に見える? 俺」

「雰囲気はあるかな」


 まあ、隠せない俺の実力ってヤツかな。


「それで、ランクを聞いてきたって事は、馬車の護衛としてなら、もっと早いのがある訳か」

「そうです。といっても、夜出発の便が、朝の便になるだけなので、本日中は無理ですが」

「まっ、それは仕方ない。で? どうすればいい? 腕前を見せればいいのか?」

「見せなくても大丈夫ですよ。そもそも、きちんとした護衛は付いていますので、お客様が安心するための人数合わせなだけですから。なので、護衛料は出ません。その代わり、馬車代もかかりません」

「んじゃ、それで」

「かしこまりました。では、こちらの用紙に名前と人数を書いて下さい」


 差し出された紙に、借りたペンを使って、「二人」、「アクニン」、「セイギちゃん」、と書いて渡す。


「……一緒に行く子も本当にこの名前?」

「セイギちゃんの本名は知らん。俺がそう呼んでいるだけだ」

「……ま、まあ、いいか。フォードの町に行くまでだし、一緒に行く訳じゃないし。それじゃ、馬車の出発は朝の十時。護衛の顔合わせもあるから、その三十分前にはここに来てください」

「あいよー」


 これで大丈夫だと、この場をあとにする。


 準備が終わり、宿に戻った。

 アナちゃんに言って部屋を取り、ついでに明日出発することも伝える。


「漸く居なくなるんですね」

「なんでそんなに嬉しそうなの? ここはもっとこう、寂しがるところでしょ?」

「まあ、それなりに泊まっていただけましたし、金づるが消えるのは悲しいです」

「言っている内容もアレだけど、もう少し悲しそうな表情しようよ」


 でもまあ、これはアレでしょ? 本当は寂しがっているけど、それを表に出すのが恥ずかしいから、あえて……でしょ?


 大丈夫。俺には伝わっているから。


「何故か殴りたくなりました」

「暴力的だよ、アナちゃん」


 そのあと、食堂でセイギちゃんを待って……合流。

 明日朝出発であることを伝えた。


「わかりました! 大丈夫です!」


 セイギちゃんの返事を聞き、見せるように手のひらを前に。


「……なんですか? この手は?」

「お釣りを返せ」

「ありませんよ。全部使いましたから」

「よぉし! 表出ろや! セイギちゃん!」


 表で軽くやり合った。


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