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むさ苦しいやつらに連れて行かれた場所は、冒険者ギルド近くの細い路地を進んで曲がった先にある、少しだけ広くなった路地裏。
大通りからは見えない場所だな。
すんなりとここまで連れて来た辺り、随分と手馴れている。
これまで何度も似たような事をやってきたんだろう。
で、次の標的が俺という訳か。
まっ、そうなるように軽いジャブを打ったのだから、寧ろ狙い通りだと、ほくそ笑みたいくらいだ。
背中に突き立てられていたナイフが離され、壁に押し付けられる。
俺が殴ったやつが、すごんできた。
「冒険者ギルド内では随分舐めたことをやってくれたじゃねぇか。ただで済むと思うなよ?」
「その前にこのジャケットに穴が空いてないか確認していい? お気に入りだからさ」
「てめぇ! まだ舐めてんのか!」
俺が殴ったやつが殴りかかってきたので、サッと避ける。
拳が壁に激突。
「がっ! てめぇ、避けてんじゃねぇよ!」
いや普通避けるだろ。
無茶苦茶言うな、こいつ。
それとも馬鹿なのか?
「こいつをやっちまえ!」
どうやら、俺が殴ったやつがリーダーのようだ。
むさ苦しいやつらが総出で襲いかかってくる。
馬鹿だねえ、こいつら。
こんな場所じゃ、数の利を活かすことも出来ないってのに。
まっ、活かしたとしても、俺が負けることはないけど。
「無事に済むと思うなよ!」
「そっちがな」
最初に殴りかかってきたやつの拳をかわし、すれ違いざまに膝蹴り一発で倒す。
まず一人。
次いで、蹴りを放ってきたやつは、蹴り足を受けとめて軸足のほうを払って倒し、顔面を踏んで黙らせる。
二人目。
二人やられた事で、次に襲いかかってきたやつは、腰に提げていた鞘から剣を抜いてきた。
確かに普通の路地裏より広いが、普通に考えれば狭い場所なのを理解していないのか?
案の定、剣を横薙ぎに払ってきたが、その途中で剣が壁にめり込んでそこから動かなくなる。
「くっ、ちょ」
「もっと頭を使って戦え」
アッパーカットで吹き飛ばす。
三人目。
瞬く間に三人やられた事で狼狽したやつが、逃げようとしてそこらのゴミで足を滑らせ転倒。
勢いよく転び、壁に頭をぶつけて気絶。
四人目。
「足元注意。毎回こんな感じだと楽なんだけどな……お前もそう思わないか?」
「っ!」
一人残った五人目。
俺が殴ったやつだけが残る。
「折角問いかけたのにだんまりか? 聞こえてる~?」
「………………」
手をひらひらと振ってみるが、反応なし。
面倒というか、もうこいつらに時間を割かれるのが嫌なので、さっさと終わらせるか。
殴ったやつの胸倉を掴み、強引に壁に打ち付ける。
「ぐっ! てめえ!」
「今更粋がってんなよ、うだつの上がらない冒険者レベルが」
「ざっけんな! Cランク冒険者舐めんじゃねぇぞ!」
「この状況で言う事がそれかよ」
殴ったやつの身形を上から下まで見て確認。
特に目立つのは装備品の汚れ。
きちんと手入れされていないのが見てわかる。
つまり、今はわざわざ手入れしなくてもいい状態って事だ。
嘲笑うように笑みを浮かべる。
「はっ。それでCランクって……限界感じて上に向かうことを諦め、もう怪我も出来ないと安全な依頼にだけ手を出し、己を鍛える事もやめ、小銭稼ぎに新人を利用するってところか?」
「ぐっ」
言い返せないところを見ると、思い当たる部分があるんだろうな。
まっ、襲撃に慣れを感じる時点で、そうだろうと思っていたが。
「いい加減気付けよ。冒険者として終わってんよ、お前ら」
「ざっけんな!」
胸倉を掴んでいる俺の手を払おうとしてきたが、微動だにしない。
笑みを浮かべたまま、首を少し傾げて言う。
「おいおい、俺は別に力を入れてないんだけど……そっちも手を抜いたとか?」
「てめぇっ!」
今度は殴りかかってきたので、胸倉は掴んだまま上半身の動きだけでかわし、殴ったやつの頬をそれなりの力で殴る。
ぐりん、と頭を回したかのように見えたが、そのままダウン。
まぁ、これで死んでいたとしても関係ない。
そもそも、脅して連れて来たのはこいつらなのだから。
……ピクピクしているから生きているようだ。
とどめは……面倒だからやめる。
「というか、俺に感謝して欲しいくらいなんだが」
もしセイギちゃんに絡んでいたら、この程度じゃ済まなかっただろうし。
無駄に強いくせに、そういうのが無自覚系だからね、セイギちゃん。
うんうん、と一人頷く。
こいつらに返事は求めていない。
……さて、では、わざわざ俺がこいつらの注意を引き付けた理由を行うか。
もちろん、セイギちゃんや新人ちゃんたちを助けるつもり……ではない。
倒れているむさ苦しいやつらの懐を漁る。
………………。
………………。
「Cランクで、こんなことをしているくらいだし……まっ、こんなもんか」
とりあえず、有り金の全てを頂戴しておく。
貯金にまではさすがに手が出せないので放置。
そこをどうにかしようとすると、国とかギルドから手配されかねない。
「じゃ、頂戴しまーす」
手に入れた金を硬貨入れにしまい、この場をあとにする。
おっと、起きているかはわからないけど、とりあえず一声かけておくか。
「仕返しに来てくれるなら、いつでもどうぞ。もちろん、その時はもっと金を持って来てね」
いつでも待ってます。財布諸君。
準備運動にもならなかったので、背筋を軽く伸ばしてから依頼に向かう。
―――
薬草採取の依頼達成のため、採取用のショルダーバッグを提げる。
町の外に出ようと大通りを進み、正門に。
「………………」
「もう、遅いですよ、アクニンさん! 出発時間が遅れると、このあとの行動時間にも影響を及ぼしますから、きちんとして下さい」
「いやいや、セイギちゃん。今、俺が言いたい事がなんなのかわかる?」
俺の問いに、セイギちゃんは少しだけ考えて答える。
「んー……遅れてごめん、ですか?」
「俺が謝る要素は一切ない」
「なら、今後気を付ける、ですか?」
「そんな気は更々ない」
やっぱりセイギちゃんは駄目だな。
まあ、わかるとは思っていなかったけど。
俺は無言でセイギちゃんのうしろに居るやつらを指差す。
「念のために聞くけど、そこに居るのはさっきの新人ちゃんたちだよね? どうしてそこに居るの?」
「先輩冒険者として、色々教えてあげようと思ったからです!」
えっへん、とない胸を張るセイギちゃん。
どこが自己主張をしているのか確認するのが難しいな。
「いや、セイギちゃんも冒険者になったのは少し前だから、そいつらとそう変わらないと思うんだけど?」
「一日でも先になっていれば先輩です!」
確かにそうだけど。
ただまあ、これまでの付き合いでわかるのは、俺がどれだけ言っても引かないって事だ。
「……好きにすれば? 俺は協力しないから」
「そんなのはわかっています! この先輩冒険者に任せて下さい! さあ、行きますよ!」
セイギちゃんが新人ちゃんたちに声をかけて歩み出すが、その歩みは直ぐにとまる。
「……それでアクニンさん。どこに向かえば?」
はあ……と溜息を吐く。
しっかりしろよ、先輩冒険者。




