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冒険者ギルド内で、むさ苦しいやつらが襲いかかってきた。
どうやら、俺を殴り飛ばそうとしているようだ。
そもそもの原因はセイギちゃんの方だと思うのだが、どうしてそこで俺に向かって来るのかがわからない。
だが、黙って殴り飛ばされる……訳がない。
世の中には、相手に先に殴らせてから、正当防衛として相手をボコる、なんてことをするのもいるらしいが、そんなの手間なだけだ。
それに、なんで殴られないといけない。
こんな大勢が見ている中で先に襲いかかってきたのだから、殴られる前に殴り返して、そのままボコってしまえばいい。
どちらに非があるかなんて明白なのだから。
それが俺の取るべき手段だ。
先に一発殴ってそのままボコろうとしたところで、チリンチリンと鐘の音が鳴り、俺とむさ苦しいやつらの動きがとまる。
「ギルド内で暴力行為は禁止です!」
女性の声が、ギルド内に響く。
首だけ動かして、声の主を確認すると、依頼受付カウンダーに居る受付嬢だった。
小さな鐘を手に持ち、私憤慨しています! と表情が物語っている。
はいはい。大人しくしますよ、と両手を上げると、むさ苦しいやつらも同じように両手を上げてアピール。
それで満足したのか、受付嬢はカウンターの上に鐘を置き、こちらから視線を外す。
他の者たちも鐘の音と受付嬢の声に反応して、注意がそちらに向けている一瞬の隙を突き、むさ苦しいやつらの中で手前に居るやつの頬に軽くジャブ。
「へぶっ」
変な声を出しやがった。
笑っていい空気じゃないが、笑ってしまいそう。
目を付けられそうだから笑わないけど、心の中で笑ってやろう。
ははははは!
変な声に反応して、受付嬢がこちらに視線を向けてくるが、俺はその前に両手を上げたポーズに戻っているので、何もしていませんよと知らぬ存ぜぬの顔。
殴ったやつが睨んでくるが、受付嬢がこちらを見ている限り、それしか出来ない事は知っている。
だから、思いっきり半笑いを浮かべて見せてやった。
「……殺す」
殴ったやつが、俺にだけ聞こえるようにそう呟く。
返答として、舌出して、べ~。
「………………」
受付嬢は睨んだままだったが、俺も殴ったヤツもギルド内でもう暴れる気がないとわかると、視線を外して業務に戻る。
それがきっかけとなって、むさ苦しいやつらはギルドから出て行った。
……なんとまあ、このあとの行動が読みやすい事。
となると……。
「ほれほれ、セイギちゃん」
「なんですか?」
セイギちゃんを呼び寄せ、むさ苦しいやつらに絡まれていた新人ちゃんたちを指し示す。
「困っているようだから、先輩冒険者として色々教えてあげた方がいいんじゃないの?」
「むはー! そうですよね! その通りですよね! アクニンさんの言う通りですよね! ちょっと行ってきます! 先輩冒険者として色々教えてあげないといけませんから!」
むはーって。
セイギちゃんが、新人ちゃんたちの方に向かう。
ものすっごい笑顔で。
どれだけ嬉しいのやら。
そんなセイギちゃんの背中に声をかける。
「それじゃ、正門前で集合ねー。でも待つ気はないんで、居なかったら勝手に行くからよろしく」
「そこは待っているからと言うところですよー!」
セイギちゃんはそれだけ言い残して、新人ちゃんたちの方に行く。
いやいやセイギちゃん。
俺がそんなことを言う訳ないでしょ。
もちろん、言葉通り、居なかったら放っておこう。
俺はきちんと言ったし。
ということで、まずは依頼を受けよう。
当然、受ける依頼は「薬草採取」。
見つけた群生地を誰かが先に荒らす前に、俺が採取しておかないと。
依頼ボードから「薬草採取」の依頼の紙を取り、受付カウンターへ。
空いている受付嬢が、先ほど鐘を鳴らした受付嬢だけだったので、そこで依頼を受けることにする。
依頼の紙と、レザージャケットの内ポケットからギルドカードを取り出して、カウンターの上に一緒に置く。
ギルドカードは身分証も兼ねているので、その表面には名前とランクが記されている。
もちろん、俺のギルドカードに書かれている名前は「アクニン」だ。
たとえ仮だろうが偽名だろうが、それで通ったのだから、これが俺の名前。
あと、実際にはこのギルドカード一枚で色々な個人情報がわかるらしいのだが、それらを確認するためには専用の道具が必要なため、誰しもが確認出来る訳ではない。
まあ少なくとも、冒険者ギルドであれば本微支部問わず、ギルドマスターの許可があれば確認はできるが。
受付嬢が依頼の紙とギルドカードを取るのを見つつ、ついでに挨拶。
「先ほどぶり。こうして依頼の受付までお願いすることになるとは……これって運命?」
「そこら辺に棄てたい運命ですね」
ニッコリ笑顔でそう返される。
うーん。キツイ。
受付嬢というのは、大抵顔で選ばれる。と言っても過言ではないくらい美女美少女で揃えられている。
つまり、今俺の前に居る受付嬢も美人。
紫色の髪がよく似合っていて、スタイルも抜群。
カウンター越しからは見えないが、受付嬢の服のスカート丈は短く、立ち姿はエロい。
ただ、受付嬢は基本座り作業のため、冒険者がその姿を見る機会は少ないのが難点。
誰がそんな受付嬢の服を採用したか知らないが、グッジョブ! と言いたい。
握手もお願いするレベルだ。
そんな制服が似合う受付嬢から拒絶されたのだ。
誰だって傷付くだろう。
「だから、心の慰謝料として、今晩一緒に食事でもどう? あっ、もちろん制服姿のままで」
「一言で言って、最低ですね。そのまま回れ右して帰って下さい」
同じようにニッコリ笑顔でそう返される。
「いやいや、もう食事くらい大丈夫でしょ? これまで何度も顔を合わせている訳だし」
「ここでこうして何度か依頼受注の処理をした程度の話ですよね? プライベートでも会っているかのように言わないで下さい」
「今、俺はプライベートのつもりだけど?」
「もう仕事の時間ですので働いて下さい」
最早鉄壁とも言えるニッコリ笑顔の表情を張り付けた受付嬢から、受理の判子が押された依頼の紙とギルドカードが返される。
ギルドカードと一緒に依頼の紙も、レザージャケットの内ポケットにしまう。
「それじゃあ、お互いに今日の仕事が終わったら」
「まだまだ夜は冷えますからね。風邪を引かないように大人しく帰ります」
受付嬢の断固とした構え。
仕方ない。今日は諦めるか。
それじゃあ、薬草採取に向かう前に一言。
「いつか落とす」
「もっと稼げるようになってから出直して下さい」
ナチュラルに返してくるな。
口説こうとする冒険者があとを絶たず、自然と対応技術が身に付いたってところか。
まあ、これは受付嬢ならどこでもそうかもしれない。
だからといって、諦める気もないが。
受付嬢と一晩は、全男性冒険者が一度は夢見ることだろうし。
しかし今は退散するしかないので、大人しく冒険者ギルドを出た。
すると、出て直ぐのところで俺は数人の男たちに取り囲まれる。
ご丁寧に、後ろに居るヤツは俺の背中にナイフを突き立てて。
このレザージャケットは高いから、もし穴でも開いていたら許さん。
「ちょっと一緒に来いや」
そう言ったのは、俺が先ほど軽くぶった男。
むさ苦しいやつらに取り囲まれて、早くも吐きそう。
とりあえず、舌を出して、うえ~……と吐き真似だけしておいた。




