3
冒険者は、これこれこうしたらこれだけお金をあげるよ、と書かれた依頼の紙がギルドに置かれているボードに貼り出されていて、そこから自分で選んで受けて稼ぐ仕事だ。
で、当然、依頼は内容に合わせて難易度が設定されている。
それが冒険者ランク。
ランクが高ければ高いほど内容は難しくなるが、その分稼げる金は飛躍的に多くなる。
そのランクを決めて、依頼の安全性と受け付けをしているのが、冒険者ギルド。
まっ、要は、冒険者に仕事を斡旋している組織って事。
大体の町や村にあるそうだけど……本当かは知らん。
そんな冒険者ギルドに入って俺が思った事は一つ。
あっ、今日はアンラッキーデーだな、と。
もちろん、それは俺の事じゃない。
「なっ、いいだろ?」
「ですが……」
「大丈夫だって。俺たちがしっかりと教えてやるからよ」
「でも……」
「先輩冒険者から学べる機会なんて、そうそうないんだぜ? しかも無料で」
「む、無料で……」
依頼ボードの前で、いかにもな新人冒険者っぽい四人のガキに、むさ苦しい恰好の五人組が絡んでいた。
絵面だけで犯罪としか見えない。
聞こえてくる内容だけでも、むさ苦しいのが新人をカモにしようとしているのがわかる。
新人たちの行き着く先は、荷物持ちか、囮か、使い潰されるか、売られるか……。
まあ、ろくな結果にならない事は目に見えている。
……上手くいけばだけど。
でも、もう上手くいかないんだな、これが。
セイギちゃんに見つかった時点で。
だから、やつらにとって今日はアンラッキーデー。
「待ちなさい! 私の目の前で、不埒な行為は許しませんよ!」
早速セイギちゃんが介入しに向かう。
よかったな、新人諸君。
助かった事を心から喜ぶといい。
いや、待てよ。
セイギちゃんがこの時間に来る事になったのは、俺に合わせたからだ。
なら、俺のおかげって事でも間違っていない。
新人諸君。俺にも感謝するように。
助けはしないけど。
冒険者なんだから、自己責任でどうにかしろ。
俺はそいつらの脇をすり抜け、依頼が張り出されているボードに向かい、どれにしようかと吟味をする。
俺のオススメとしては、やはり町中の依頼だろう。
何故なら、近くて安全だからだ。
わざわざ町の外に出なくても良いし、魔物に襲われることもない。
それに戦いになるような依頼も少ないとくれば……楽の一言に尽きる。
まあ、その分、報酬としての金額はやっすいけど。
中には厳しいのもあるにはあるから、そういうのは高いが……大抵は誰もがやりたくない系だ。
もちろん、俺もやりたくない系。
あれだ。そういうのは、新人たちがやればいい。
いい勉強になるのは間違いない。
……まあ、どちらかといえば俺も新人の部類に入るだろうが、そこは他の新人とは実力が違うという事で流しておこう。
なので、実力が伴い過ぎている俺が受ける依頼は、町の外に出るヤツ。
町中でいいのがあれば、それに越したことはないが……やっすいのはそもそも興味が湧かない。
ここはやはり、どーんと魔物討伐系、といきたいが、これも駄目。
魔物を殺す事は別にいいんだが、返り血とか嫌だ。
剥ぎ取りとか、解体とか、なんでそんな汚れる事をわざわざしないといけないの? と言いたくなる。
直ぐに付いた血を流せる場所なんかある訳ないし、もし血の跡が残ったら、服を替えないといけなくなる。
昨今。服代だって馬鹿にならないし。
その時だけ安い服に着替えるとか、時間の無駄で手間だし、余計な荷物を持っていく余裕なんてない。
だからだろうか?
魔物討伐系は報酬金額がそれなりに高い。
もしかして服代込み?
でも、計算すると、買えるのは安い服分しかない。
なので、魔物討伐系はパス。
……金に困ったら手を出すけど。
冒険者ギルド内に、魔物をそのまま持ってくれば解体してくれる部署があるけど、町の外からここまで持ってくるのも重労働だ。
「収納袋」という、見た目よりも収納力があり、重さも大幅に軽減する特殊な袋があるにはあるが、質によってその振り幅が大きく変動して、俺も持ってはいるが、残念ながら質は最低のモノ。
なので、ここでの俺のランク的にオススメは、ずばり「薬草採取」。
薬草採取の依頼を侮ってはいけない。
提出した薬草の種類や質、それに数によって報酬金額は大きく変わる。
何より、手袋をすれば採取の時も汚れない。完璧。
そこから更に完璧なのは、先日、薬草の群生地をいくつか見つけている事だ。
これは今から報酬金額が楽しみで仕方ない。
依頼ボードから薬草採取の依頼の紙を剥がし、早速受付に――。
「ぐえっ」
フード部分が引っ張られて喉に食い込み、咳き込む。
誰だ! 俺を殺す気か!
フードは被るモノであって、絞めるモノじゃないんだぞ!
俺をフードで殺そうとしたのはセイギちゃん。
「……日頃から口煩く正義の行いと言っていたが、とうとうその行いをやめて、手を血に染めるか。まあ、絞殺だと血に染まらないから、この表現はどうかと思うけど」
「何を馬鹿な事を言っているんですか?」
「セイギちゃん……知らないの? 馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ?」
「そういうことを真剣な表情で言うアクニンさんの方が、馬鹿なんだと思います。……ではなくて!」
何を怒っているの? セイギちゃん。
訳がわからないと首を傾げる。
「アクニンさんからも、我を押し通すような勧誘は駄目だと言ってやって下さい!」
「いや、そんなの断ればいいじゃん」
「それが出来ない状況だってあるんです!」
ふ~ん。状況を確認。
新人たちはビクビクしていて、むさ苦しいやつらはセイギちゃんを睨んでいる。
邪魔されて怒ってんのかな?
「相変わらず、ああいうのを怒らせるのが上手いね、セイギちゃん」
「……アクニンさんは怒りませんけどね」
「そりゃ、俺は人間が出来ているモノ」
自慢するように言うが、セイギちゃんの向けてくる目は冷たい。
「……でも、そういうことなら、適当にボコっちゃえば? それで解決」
「短絡的思考です。アクニンさん」
「いやいや、それがそうでもないと思うんだよ、俺は。こういうのは、自分が強いと勘違いしていて、目の前の、今なら俺やセイギちゃんよりも強いと思っているからこそ強気に出て睨んでいる訳だから、まずはこっちの力を見せて思い知らせてやれば、途端に媚びへつらうようになる。そこから話し合いにもっていった方が、時間もかからずにスムーズに解決できるって訳さ」
「確かに……って、違います! 最初から力で解決すること自体が間違っているのです!」
「でも、そうしないと解決しないこともあると思うけど?」
「ぐっ……それは否定しませんが」
ふふん。勝った。
「だからまずはボコっちゃえばいいんだよ。ほら、やっちまいな。セイギちゃん」
「それでも、話し合いから始めるべきだと、私は思います」
「頑固だねぇ~」
「それはアクニンさんもでは?」
「そこに居るのとは一緒にしないで欲しいな。俺のは頑固じゃなくて、自分ってのを持っていると解釈してくれないと」
「……する訳ないじゃないですか」
うん。あの……セイギちゃん。
真面目に返さないでくれるかな?
なんかこう、恥ずかしい思いをしたみたいな感じを抱いてしまうから。
「つーか、なんだてめぇら! さっきから聞いてれば、俺たちをボコるだと? やれるもんならやってみろやぁ!」
むさ苦しいやつらが襲いかかってきた。




