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短編 後編

 冒険者ギルドで強制的に依頼を受けさせられた。

 内容がいいなら別に構わないのだが……下水道掃除。


 なんでも、下水道を徘徊しているネズミが複数体魔物化しているそうで、その退治が依頼の内容だ。

 本来なら、魔物化する前に退治されるのだが、今はその人手が足りない。


 フォードの町に人が集まり過ぎた影響だな、これ。

 つまり、実際にするのは魔物退治という訳だ。


 それは……まあいい。

 強制とはいえ依頼を受けたんだから、やるだけはやる。


 ギルドへの評価にも繋がるだろうしな。

 ここで評価を上げれば、受付嬢も俺におちるはずだ。


 だが……。


「ソロだなんて聞いてねぇぞお~!」


 ぞぉ~……と、下水道内が反響する。

 空しい反響だ。


     ―――


 下水道内はそこそこ広いので、それなりに動く事は出来る。

 そもそも、ネズミの魔物程度だと、そこまで動く必要はないんだけど。


 臭いに関しては……もう鼻が馬鹿になったので問題ない。

 でも、終わり次第、服の洗濯とシャワーは絶対だ。


 念には念を入れて、服はクリーリングに出した方がいいかもしれない。

 いや、いっその事、買い替えるか?


 だが、そもそも一番の問題は……。


「どこに居るんだよ……そのネズミ」


 魔物化したネズミは一目でわかるほどに巨大化しているそうなのだが、かれこれ一時間は捜して……全然見つからない。

 遭遇する気配すらない。


 下水道が広過ぎる。

 そりゃそうだ。


 一つの町の地下に張り巡らされているのだから、広くない訳がない。

 しかも、相手は動いているのだから……容易に見つかる訳がない。


「……体力的には問題ないけど、精神的な疲労がつらい」


 自然と足取りも重くなる。

 ……悪循環だ。


 このままじゃ埒が明かない。

 どうしたものか……罠でも設置するか?


 どんな罠にしようかな? と考えていると……人の気配。

 それも、一人や二人じゃなく……四人か。


 専門業者が入ったなんて話は聞いていない。

 ……となると、後ろ暗い系か?


 このまま進むと……次の曲がり角で鉢合わせるな。

 ……よし。ネズミ退治も進んでないし、別のネズミ退治でもするか。


 気配を消して曲がり角で待ち伏せ、刃は出さないが、魔力剣を鞘から抜いて構える。

 タイミングを合わせ……出会い頭にフルスイング。


「ひっ!」


 当たる直前でとめた。

 ……いや、とまってよかった。


 先頭に居たヤツが尻もちをつく。

 直前でとめたのには、もちろん理由があった。


「……なんかどっかで見たヤツらだな」

「ど、どうも」


 やはり、向こうも俺を知っているようだけど……。


「誰だっけ? お前ら」

「えっと……あの、前にお連れの方に……」


 ………………あ、あぁ!


「そうかそうか。あの時、セイギちゃんが助けて連れてきた新人冒険者たちか」

「はい。そうですけど……あの、そろそろ新人は脱するので、その呼び方はちょっと……」

「え? 脱するの?」


 上から下まで確認。


「いや、まだまだだな」

「そんな事ありませんよ。今回の依頼でランクアップしますから」

「という事は『F』から『E』に?」

「はい。そうです」

「ふ~ん……待てよ。今回の依頼って、もしかして」

「ネズミ退治ですけど?」


 やっぱり同じ依頼か。

 ……まあ、この広さなら俺一人に任せる訳ないか。


 あの受付嬢ならそう仕向けてもおかしくないけど。


「しかし、丁度よかった。そういう事なら、お前たちに聞きたい事があったんだ」

「それはこちらもです。先輩冒険者に会えてよかった」

「「ネズミの魔物がどこに居るか知らないか?(知りませんか?)」」


 ……ん?

 俺と一緒に、新人冒険者たちも首を傾げる。


「もしかしてだが、見つけられていないのか?」

「残念ですが、一体も……先輩も?」

「ああ、こちらも一体も見つけていない」


 確かに下水道は広い……広いのだが、さすがにこれはおかしくないか?

 というか、今気づいたのだが……。


「そもそも、下水道に入ってから、魔物だけじゃなく普通のネズミも見ていないんだが……」

「……あっ、言われてみればそうですね」


 新人冒険者たちの方もそうだったようだ。

 これは不味い予感がする。


 どう考えても異常事態じゃないだろうか?


「あっ」

「どうした?」


 新人冒険者たちの一人が唐突に声を上げたので尋ねる。


「いや、大した事では」

「この状況では何が助けになるかわからない。それに、思い付きってのは、状況に対する解答を自身の記憶の中から無意識に探り寄せた結果だ。正解の可能性は高い。何を思い付いた?」

「いや、その、思い付いたというか、思い出したというか……冒険者になる前の講義で聞いた話なんですけど、森や山の中に鳥や獣の姿が見えなくなったら注意しろって言っていました。生存本能に従っての行動だから、更なる脅威が居る事の証明だって」


 場が静まり返る。

 よりにもよって、それか。


 いや、確かにこの場合に当てはまる事は当てはまるが……出来れば違って欲しい。

 心の底から違って欲しい。


 が、わかっている。

 こういう場合、それが当たってるって事を。


 ばっしゃあーん! と俺の背後で大きな水飛沫が上がる。


「「「「ひゃあああああっ!」」」」


 新人冒険者たちが恐怖の表情を浮かべて逃走する。

 俺も背後を確認。


 こっちを見下ろして涎をだらだらと垂らす、マナーのなっていないネズミの魔物が居た。

 俺は見上げている。


 ……ちょっと向こう側が見えないくらいに、おっきかった。

 それなりに動ける下水道内が窮屈に見えるくらいに。


 しかも、三体居た。

 ……育ち過ぎじゃないかな?


「フシャアアア!」


 手前に居るネズミの魔物が前足を振り下ろしてきたので、回避して反転。ダッシュ。

 先に逃げていた新人冒険者たちに追いつく。


「こら、俺を置いていくな!」

「いやいや、あんなの新人じゃ無理ですって! 逃げの一択ですよ! ここは先輩、お願いします!」

「「「お願いします!」」」

「あっ、こいつら、ここぞとばかりに俺を先輩扱いしやがって! というか、もう大丈夫だから! 逃げ切ったから!」


 新人冒険者たちが、速度を緩めず俺の後方を確認。


「サラッと嘘吐かないでくださいよ! 滅茶苦茶追ってきているじゃないですか!」


 知ってる。後ろでバシャバシャと激しい音が聞こえてきているから。


「違う! これは作戦だ!」

「どんな作戦ですか?」

「新人を囮にしている間に、俺がネズミの魔物共を倒すという作戦だ!」

「……それ、こちらの安全性は?」

「……運がよければ助かる」

「………………」

「………………」


 新人冒険者たちの速度が上がる。


「位置的に先輩の方が近いんで、囮は先輩でお願いします!」

「ふっざけんな! というか、俺を囮にして、お前たちはどうするんだよ!」

「助け、呼んできます!」

「呼ばれている間に死ぬわっ!」


 くっ。俺も速度を上げるが、新人冒険者たちを抜く事が出来ない。

 せめて、ブーツをきちんと履いていれば……。


 それに、ネズミの魔物共も速度を上げてきたので離せない。

 これは不味い。


 何が不味いって、俺と新人冒険者たちは、今出せる全力に近い疾走中だ。

 そんな疾走……そう長くはもたない。


 というか、休憩したい。

 その時、新人冒険者たちの一人が気付く。


「あそこ! 扉がある! 部屋かも」

「よし! そこでやり過ごすぞ!」


 先行している新人冒険者たちが扉を開けて中に入り、俺も続けて入って急いで閉めるが、ネズミの魔物の体当たりで扉が吹き飛びそうなので、新人冒険者たちと一緒に扉を押さえる。


 押さえながら室内を確認するが、恐らく下水道の清掃作業員が利用する休憩室だろう。

 問題は、出口が今押さえている扉しかなく、体当たりされ中だという事だ。


 しつこいな、このネズミの魔物共。

 だが、この扉しか出入り口がない以上、今は耐えるしかない。


 ――結局、俺と新人冒険者たちが下水道から脱出したのは、翌日だった。


 その後、このネズミの魔物共は、フォードの町に行っていた人が戻ってきて人海戦術で退治されるまで、下水道の覇者として君臨し続けたそうだ。


という訳で、これで一旦終わります。

読んでいただき、ありがとうございました!

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