エピローグ 3
朝。起きてからいつものように身形を整えていく。
ワックスを手に取り、なじませ、前髪をかき上げるようにしてやる時は一気に。
洗面所の鏡で確認。
……うし。セットバッチリ。悪人顔とよく合っている。
着替えて、一階の食堂へ。
広い食堂のバイキング。
今日は、焼けたパンにバターを塗り、分厚いソーセージ、スクランブルエッグ、サラダ、コンソメスープを選択。
定番とは安定である。
本日最初の活力を得るのに、突飛なモノは必要ない。
ゆっくりと噛み締めるように朝食をいただいていると、声がかけられる。
「……なんで居るのですか?」
「そりゃあ、大事なお客様だからじゃない?」
「受け付けた覚えがありませんが?」
「ああ……そういえば、宿泊受付したのは別の人だったね」
夜遅かったし、アナちゃんに似た妙齢の女性だったから、多分アナちゃんのお母さんじゃないかな?
「くっ。私だったら受け付けなかったのに」
「それはそれで酷くない? アナちゃん」
アナちゃんの眉間に皺が寄る。
こらこら。そんな幼い時からそんな表情するもんじゃないよ。
「けど、俺としては、宿泊してよかったと再確認していたよ」
「どうしてですか?」
「こうしてわざわざアナちゃんが声をかけてくれたんだ。そこらの他の客とは違う事の証明だよね」
忘れずに笑顔で。
「……どうにかして出入り禁止に出来ないでしょうか」
「それは無理じゃない? だってほら、俺は他の客に迷惑をかけている訳じゃないし。お会計も明朗会計だよ。俺ほど優良なお客は居ないと思うけど?」
「既に私が迷惑を被っていますが?」
「んー、アナちゃんに迷惑をかけた覚えがないけど?」
「既に存在自体が迷惑です」
そういう直球なの、嫌いじゃない。
アナちゃんはこうじゃないとね。
「ニヤニヤしながら見ないでください。鳥肌が立ちます」
「いや、ごめんごめん。やっぱり違うなって思って」
「違うって何がですが?」
「フォードの町のファミリアに居る、イナちゃんって知ってるよね?」
「従妹のイナの事ですか? もちろんです」
「外見はそっくりなのに、中身は全然違うなって再確認していたんだよ」
そう言うと、アナちゃんは大きくため息を吐く。
「がっかりですよ。本当にがっかりですよ。私とイナは全然違うのに、アクニンさんはその違いがわからないなんて」
………………。
………………。
「ああ! そうだね! 改めて見ると、全然違うよね!」
「どこがどう違うんですか?」
「……目?」
「似ていると思いますけど」
「うん。だよね」
ヤバい。全然違いがわからん。
アナちゃんも、どこか残念そうに俺を見ている……ような気がする。
このままだと、折角ここまで築き上げた関係性が崩壊するかもしれない。
それは避けねば……と思っていると、山盛りの朝食をトレーに載せたセイギちゃんが来た。
「おはようございます。アクニンさん。アナちゃん」
「………………」
「おはようございます」
「……黙ってないで、挨拶くらいしたらどうなんですか? アクニンさん」
「今は考え事をしているから無理じゃないですか?」
「考え事? 何を?」
「私とイナの違いについて、です」
「アナちゃんとイナちゃんの違い? え? 全然違うじゃないですか」
……え? 今、セイギちゃん、なんて言った?
「もしかしてわかるのか、セイギちゃん」
「当たり前じゃないですか。全然違いますよ。ねえ~」
「ねえ~」
セイギちゃんとアナちゃんが顔を見合わせて微笑む。
そんな馬鹿な!
俺ですらわからないというのに!
というか、セイギちゃんもわかっていなかったと思うんだけど……。
それとも、わかるようになったのか?
……魔物大侵攻を切り抜けて成長したな。セイギちゃん。
でも、俺は違いがわからないまま。
落ち込んでいる間に、セイギちゃんとアナちゃんの会話は続いている。
なんかショックで食欲が……。
「そういえば、お聞きしましたよ。フォードの町とギアの町で、かなりのご活躍だったようで」
「ええっ! どうして知っているんですか?」
「イナとは手紙のやり取りをしていますので。お泊りのお客様が活躍された事を随分と喜んでいましたよ」
「私だとバレてから大変でしたけどね」
「それは仕方ありませんよ。皆が感謝していますから。その証拠に、今フォードの町とギアの町では金髪ポニーテール好きが増えて、真似する方が増えるくらい流行っているそうですよ」
「そうなんですか!」
「寧ろ、なんで当事者が知らないんですか?」
「あはは……注目されるのが面倒で、直ぐ出ちゃったんですよね」
セイギちゃんが苦笑を浮かべる。
「そう。それだよ、それ」
「え? どれですか?」
セイギちゃんが不思議そうな表情を浮かべる。
ついでにアナちゃんも。
「そもそも、注目されているのはセイギちゃんだけであって、俺は注目されてない訳でしょ? 言ってて悲しくなるけど、それは今は横に置いておいて。俺はフォードの町を出る必要なかったよね?」
「それはそうですね。なんで居るんですか? 今からでも遅くありませんので出て行っていただいて構いませんよ」
「……俺だって人。傷付く事だってあるんだよ、アナちゃん」
少し見ない内に、アナちゃんは口撃力を増したようだ。
「それと、俺がここに居る理由は単純に、そこのセイギちゃんがここまで無理矢理引っ張ってきたんだ。拉致られたと言ってもいい。もっとフォードの町を楽しみたかったのに」
うんうんと頷くと、セイギちゃんがいきり立つ。
「確かに意見は聞きませんでしたけど、拉致られたって表現はどうかと思います。それに、あのままフォードの町に居たら、私、揉みくちゃにされていましたよ! 間違いなく! 危機です! 仲間の危機だったんです! 助け合うのが仲間でしょう!」
「勝手に仲間カテゴリーに加えんな! 仲間になった覚えはない! セイギちゃんが勝手に付いてきているだけだろ!」
「私には、アクニンさんを更生させるという目的があります!」
セイギちゃんは、それがまるで真っ当な理由であるかのように、胸を叩きながら言う。
俺からすれば、全然真っ当じゃないから。
「いや、更生なんて必要ないでしょ。俺、完璧だし」
……おっと、二人から向けられる視線が冷たくなったような気がする。
「これは確かに更生が必要ですね。頑張ってください」
「応援ありがとう。アナちゃん。……それに、そもそもこうなった原因を作ったのは、アクニンさんじゃないですか!」
「俺が? なんで?」
「なんでって……アクニンさんの指示通りに動いたから、こうなっているんじゃないですか!」
「俺のせいだと?」
「そうです」
……ふむ。
「それは責任転嫁じゃないかな?」
朝食が載ったテーブルを間に挟んで、セイギちゃんとがっぷり組み合う。
「ふぐぐぐ……」
「ぐぎぎぎ……」
「一つ、いいですか?」
アナちゃんが質問してきたので、一旦休戦。
「今、アクニンさんの指示通りと聞こえましたけど、本当なんですか?」
「ええ、本当です。そこだけは悔しいですが、私は指示された通りに動いただけです」
「そうなんですか」
そこでアナちゃんが考え出す。
何事? とセイギちゃんと顔を見合わして首を傾げる。
「……でも、イナの手紙にアクニンさんの活躍は一切書かれていませんでしたけど、アクニンさんは魔物大侵攻の時に、何をしていたんですか?」
「あっ、そういえばそうですね。何してたんですか?」
「何してたって……そりゃ、色々と?」
「……怪しい」
「アクニンさんが動いたら目に見えて何か起こっていそうですけど……本当に何かしたんですか?」
「そりゃあ、パッと見は何も起こっていないように見えるさ」
ニヤリ、と笑みを浮かべる。
「だって俺は悪人だぜ。バレるような悪事は働かねぇよ」
二人が、何言ってんだ、こいつ? みたいな目を向けてきた。
これで一区切りです。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
正確には、このあと短編を投稿しますが。
とりあえず、このあとの構想とか色々考えてはいるのですが、全く手をつけていないので……一旦終わりにする予定です。
また目処がたったら再開しようと思います。
読んでいただき、ありがとうございました。




