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別章 企みを持つ者たち

 フォードの町。玄関口の広場での戦いは続いている。

 時間の経過によって当然のように疲労は溜まっていくのだが、戦闘の激しさはより増していっていた。


 だから、なのかもしれない。

 誰もが途中から戦いだけに集中し、視野が狭まっていく。


 視界に入れるのは、倒すべき魔物と、共に戦う騎士や冒険者たちの姿だけ。

 己の周囲のみに気を配り、範囲外は既に見えていない。


 ローレンだけはより広い視野を維持していたが、それでも意識は魔物に向けられている。

 指示まで行っているのだから、他に割く意識はないと言ってもいい。


 故に、気付いていなかった。

 いつの間にか、フィルフィート国の騎士団長、ルイド・バリッシュと、数名の騎士の姿がこの場にない事を。


     ―――


 騎士団長であるバリッシュは、数名の騎士を引き連れて、町中を駆けていた。

 その足取りは確かで、目的地が既に定まっている事を示している。


 バリッシュはこれまでの事を思い返すと、自然と笑みが浮かんできた。

 何故なら、現在フォードの町とギアの町に起こっている出来事に対して、誰が主犯かと問われればバリッシュである。


 だからこそ、こうまで上手く事が運ぶとは、と内から湧き出る歓喜が抑えられずに笑ったのだ。

 バリッシュが数名の騎士を連れて向かった先は、避難のために多くの人が居る河川港……の近くにある倉庫場。


 普段であれば輸出入物が収められ、人の出入りが頻繁に行われている場所なのだが、今はその影すらない。

 そのような場所に、バリッシュと騎士たちが人目を避けつつ辿り着き、大扉がある倉庫の一つに入る。


 まず目につくのは、小窓から差し込む陽の光に照らされた船が一艇。

 次に、乱雑に積まれた箱と、船の陰に隠れるように佇む者たち。


 その者たちが、バリッシュに向けて武器を構える。


「安心しろ。私だ」


 バリッシュが顔を見せると、中に居た者たちは安堵の息を吐き、武器を納めた。

 その中の一人が、バリッシュに近付いて声をかける。


「予定より遅かったな」

「ローレンの注意を私から逸らさねばならなかったのだから、こればかりは仕方ない。だが、確かに予定よりは遅れてしまったが、まだ許容範囲だ」

「そうだな。まさか、戦いが始まって直ぐ、私たちが居なくなるとは誰も思っていないだろう」


 ニヤリ、と笑みを浮かべるのは、グロウリア国の騎士団長、カイル・ディザイン。

 また、この場にはグロウリア国の騎士が他にも何人か居て、バリッシュと共に来たフィルフィート国の騎士たちと、再会を喜ぶように拳を打ち付け合ったり、握手を交わしたりしている。


「それで、こちらはこの通り船を用意した。そちらの手筈はどうなっている?」


 バリッシュは船を指し示しながら、ディザインに尋ねた。

 ディザインは醜悪な笑みを浮かべたあと、グロウリア国の騎士たちに合図を送る。


 すると、グロウリア国の騎士たちは、奥の暗がりから何かを連れて戻ってきた。

 それは……手足が縛られ、身動きが取れなくなっている状態の女性が二人。


 陽の光に照らされると、誰かというのは容易にわかる。


 一人は、グロウリア国の王女の直属の騎士、バーネット・ハイン。

 もう一人は、グロウリア国の王女、エイリール・グロウリア。


 グロウリア国側の河川港で避難誘導しているはずの二人が、バリッシュとディザインの前に連れてこられる。


 ディザインの姿を視界に捉えたバーネットは怒りを露わにする。


「これはどういう事だ! ディザイン騎士団長! 魔物大侵攻を抑え込んでいるはずのあなたが、どうしてここに居る!」

「そう吠えるな、バーネット・ハイン。所詮お前はおまけなんだからな」


 バーネットに向けて、ニヤニヤと見下すような笑みを見せるディザイン。

 だが、バリッシュは眉間に皺を寄せながら、ディザインに尋ねる。


「これはどういう事だ? 何故、ここにバーネット・ハインが居る。予定では、エイリール・グロウリアだけだったはずだが?」

「これは仕方ない措置だ。何しろ、エイリールの傍にずっと居たからな。引き離せない以上、時間も差し迫っていたという事もあって、バーネット・ハインにもご同行願った訳だ。それに、部下たちも楽しみが必要だろう?」

「……ここに連れてきた以上、好き勝手に動かれる訳にはいかない、か。好きにしろ。ただし」

「わかっている。ヘマはしない。部下たちにもきつく言い聞かせておく」

「そうしておいてくれ。ああ、それなら、ついでに私の部下たちにも」

「もちろん、そのつもりだ」


 バリッシュとディザインの会話で、バーネットは自身の身に何が起こるのかを察する。

 嫌悪感を露わにした表情で、バーネットはバリッシュを見た。


「……バリッシュ騎士団長も加担しているという事か」

「見ればわかるだろう。それとも、その目は節穴か?」

「……二国の騎士団長が、このような悪事を容認するとはな」


 今度は、見下し、侮蔑するような表情を浮かべるバーネット。

 今出来る抵抗はこれしかないのだ。


 それがわかっている上で、バリッシュとディザインはニヤニヤと笑みを浮かべる。


「先ほど」


 エイリールが呟くように声を発する。

 バリッシュとディザインが視線を向けると、エイリールはしっかりとした強い目で二人を見ていた。


「バーネットの事を『おまけ』と言いましたが、それは本当の狙いは私という事ですか?」

「……そうさあ! その通りだ!」


 ディザインは演劇でも行うかのように両腕を開き、芝居がかった口調で言う。


「私の狙いは、エイリール・グロウリア! お前だ! 安心しろ! お前は、私が丁寧に可愛がってやるからな!」


 ディザインは欲に塗れた目でエイリールを見る。

 自分がどう見られているのか、エイリールはその目で理解した。


「まさか、私をそのように見ていて、行動を起こすとは……グロウリア国を敵に回しますよ」

「………………」


 ディザインは答えない。

 国を敵に回すという事を恐れた訳ではなく、それはどうかな? と余裕の笑みを浮かべたのだ。


 だが、それでもエイリールの疑問は解消されていない。

 エイリールの視線は、自然とバリッシュに向けられる。


「……バリッシュ騎士団長は、どうして関わっているのですか? ディザイン騎士団長と同じ目的とは思えません。一体何を考えてこのような事を」

「本当に理解できないのか? いや、本当は理解しているはずだ。エイリール王女。あなたは聡明なはずだ」

「……ローレン、ですか」


 その通り、とバリッシュは口角を上げる。


「それでも理解できません。バリッシュ騎士団長。ローレンから、あなたは中立だと聞いています。狙う理由はないはず」

「ローレン王子ともあろう人が随分と勘の鈍い。私は元より第二王子派です。まあ、私的な理由で徹底的に隠していましたから、ローレン王子は知りようがないですが。エイリール王女。あなたを攫う理由は、これで充分では?」

「人質……ですか。魔物大侵攻という状況を上手く利用……」


 そこでエイリールは思い当たる。


「まさか! この事態も!」

「エイリール王女。やはり聡明な方だ。故に、理解もできてしまうのでしょう。ローレン王子には、ここで死んでもらう。何がどうなろうとも。……だが、世の中には奇跡と呼ばれる現象が起きる。もしかしたら、ローレン王子は生き残るかもしれない。あなたはその時の保険ですよ。エイリール王女」


 それ以上話す事はない、とバリッシュは部下の騎士たちに視線で合図を送る。

 合図を受けた部下の騎士たちは小瓶を取り出し、蓋を開けてエイリールとバーネットの鼻先に持っていく。


「これは!」

「瞬眠香か!」


 その名が示すように、小瓶の中の液体から漂う匂いは、相手を眠らせる効果があった。

 エイリールとバーネットは身をよじるなどの抵抗を試みるが、ほどなくして眠りについてしまう。


「船に乗せておけ。くれぐれも丁重に、な」


 ディザインの指示で部下の騎士たちがエイリールとバーネットを船に乗せる。

 その様子を見届けたあと、バリッシュはこの場に居る全員に聞こえるように言う。


「では、行こうか。崩壊する町から、私たちの輝かしい未来へ」


 ディザインは満足そうに笑みを浮かべ、部下の騎士たちも喜びを露わにする。

 そして、船を搬出するために倉庫の大扉を開けた。


 開けた先は、輝かしい未来を表すかのように照らし出される陽光と、


 不敵な笑みを浮かべ、行く手を遮るように悠然と佇む男性が一人居た。


「何者だっ!」


 大扉を開けた騎士の声に反応して、他の騎士たちが集まる。

 大勢の騎士に見られながら、その男性は言う。


「お前らを破滅させる悪人さ」


 アクニンは今日一番の笑みを浮かべる。


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