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別章 防衛 2

 魔物の大群がフォードの町に向けて襲いかかってきている。

 その様子を、町の外壁の上で見ている騎士が居た。


 その騎士は魔物の大群を見て異変を覚える。

 通常、魔物大侵攻で構成される魔物は、一種類のみ。


 他の魔物が居た場合は共食いが起こるからだ。

 それなのに、その騎士の視界に映っている魔物の大群は、多種多様。

 ゴブリン系。オーク系。ウルフ系。オーガ系。統一性がない。


 通常ではまずあり得ない事であり、原因として考えられるのは、指揮官のような魔物が率いているか、我を失っているかのどちらか。


 その騎士が望むのは後者。

 指揮官クラスの魔物が率いていた場合、脅威度が段違いになるからだ。


 だが、その騎士にとっては、どちらであろうともやる事は変わらない。

 スッ、と手を上げると、外壁の上に陣取っている者たちが、魔物の大群に向けて矢を構える。


 その構成は、騎士、冒険者、住民と様々だ。

 割合としては、住民が多い。


 魔物の大群の中に飛べるモノが居ないのは、不幸中の幸いだろう。

 戦闘が起これば、外壁の上が最も安全な場所であるため、住民が多く配置されているのだ。


 手を上げた騎士が待っているのはタイミング。

 町まである程度近付いた瞬間、騎士は叫びながら手を振り下ろす。


「放てぇ!」


 外壁の上から、雨のような矢が降り注ぐ。

 大地に刺さり、大地に弾かれ、魔物に刺さり、魔物に弾かれる。


 結果は様々だが、これで死ぬ魔物はほぼ皆無に近い。

 今ので死んだのは、運悪く当たりどころが悪かっただけ。


 矢が数本当たったところで関係ないとばかりに、魔物の大群はフォードの町に向けて進む。

 だがそれは、外壁の上に陣取っている者たちからすれば、わかっていた事。


 一回の斉射で望む結果が出るとは思っていない。

 だからこそ、放てるだけ放ち続ける。

 それこそ、矢がなくなるまで。


 同時に、ある程度魔物の大群が町に近付けば、外壁の上から魔法が放たれ始める。

 至るところで爆発や火柱が上がり始めた。


 それでも、魔物の大群はフォードの町の外壁まで到達する。


 矢が刺さろうがお構いなしだ。

 魔物の大群は勢いそのままに外壁に体当たりをする。


 激しい衝撃が外壁を伝わるが、なんとか持ちこたえる事は出来た。

 魔物の大群の侵攻はそこでとまったが、それは次のフェーズに進むだけの事。


 一部の魔物はそのまま外壁に体当たりをかまし続けるが、大半の魔物の狙いはただ一つだけ開いている門に向けられる。


 そのから中に入ろうと押しかけた。

 入った先は、それなりの大きさの広場。


 いくつもの馬車が渋滞しないように、広く作られた正面玄関口であった。

 ただ、入った瞬間、魔物は大量の矢で射殺される。


 ここにも当然、騎士や冒険者たちが多く、というよりは大部分が配置され、ローレンもこの場に居た。


「入ってきた魔物を倒すのだ!」


 外壁の上から矢を放ち、門を一つだけ開けて魔物の侵入を一か所に定め、そこから入って来る魔物を物量で倒して町を守る。


 これがローレンの考えた策だった。

 この策を支えているのは、三つの要因。


 まず一つは、外壁。

 魔物に壊される事なく侵入を防いだ。


 ただ、外壁がただの物体である以上、自然に回復するような事はないため、このまま体当たりを受け続ければ壊れてしまう。


 次に、正面玄関口。正確には、その門。


 広場が戦闘を行うのに充分な広さというのもあるが、ここの門だけが木製の両開き扉ではなく、城門などでよく見る重厚な鉄格子を上から落とすタイプだったのだ。


 ある程度の数の魔物を町中に入れれば、鉄の扉を下ろしてそれ以上の侵入を防ぎ、町中に入れた魔物を掃討。


 掃討後に再び鉄の扉を上げて魔物を入れ、下ろして掃討の繰り返し。

 これもいずれは鉄の扉に限界は来るが、どちらにしろ充分な時間は稼げる。


 最後に、これは時間稼ぎに徹底しているという事だ。


 ローレンが魔物の大群の姿を直接目にした時に、わかった事が一つあった。

 それは、物量差があり過ぎるという事。


 安易に町の外で戦闘を起こせば、物量差で一気に押し切られてしまうのがわかったのだ。

 だからこそ、時間稼ぎに転じた。


 幸いにして、この町には大河という脱出路がある。

 魔物大侵攻スタンピードは陸地のみで、大河にはその影もない。


 この町から脱出する逃走経路として、充分使う事ができた。

 既に脱出は始まっている。


 戦う力を持たない住民たちから、船でこの町から脱出を行い、下流にある別の町に向かっていた。

 ただ、これにも懸念はある。


 現在、町の中に居る人数が一時的に増えているため、船の数が足りないのだ。

 それを解決したのは、冒険者ギルド。


 冒険者ギルドは、本部支部問わず、魔力通信という特殊な通信網で連絡を取る事ができるのだ。

 それを利用し、フォードの町、ギアの町、双方の冒険者ギルドから、大河で繋がっている町に緊急連絡を発信して、救援を求めていた。


 特に、避難先である下流の町には詳しい事情まで伝えている。

 あとは、避難と、避難するための船が到着するのを待てばいいだけ。


 現在戦っている者たちは、その時間を稼いでいるのだ。


     ―――


 玄関口の広場に入れた魔物が一掃される。


「死体を片して邪魔にならないところに運ぶんだ! 急げ! 急げ!」


 ローレンの指示で、玄関口の広場で横たわる魔物の死体が片付けられていく。

 指示するだけではなく、ローレンも自ら魔物の死体を片す。


 魔物の死体を片すのを急いでいるのには理由がある。

 時間をかければかけるほど、鉄の門の崩壊が早まり、もし崩壊してしまうと、魔物の大群が一気になだれ込んでくるからだ。


 今も、無理矢理にでも中に入ろうと、鉄の門を叩く魔物が何体も居た。

 魔物を片し終われば、戦闘準備に入って一呼吸。


「……ふぅ。よし! 次を入れろ!」


 ローレンの指示で鉄の門は上げられ、新たな魔物の群れが侵入してくる。

 ある程度侵入させれば、鉄の門は再び下げられ、玄関口の広場は再び戦場と化す。


 この繰り返しが行われる。

 ローレンは指示を出す時もあれば、自ら戦う時もあったが、その胸の内にはある懸念が残り続けていた。


 それは、グロウリア国側のギアの町。

 同じように時間稼ぎの策を取っているのだが、それがいつまでもつかわからない事だ。


 多くの住民を逃すために、なるべく長く耐えて欲しい、とローレンは内心で願う。


 しかし、その願いは叶わない。

 先に瓦解したのは、ギアの町。


 もちろん、それには様々な要因があった。


 ギアの町の方が、耐久値が低かった事。

 フォードの町と比べて防衛にあたる人数が少なく、総戦力が低かった事。

 などなど。


 だが、一番の要因は……グロウリア国の騎士団長であるカイル・ディザインの姿が、戦場から早々に消えた事だ。

 指揮系統は副団長がどうにかしたのだが、これは致命的でもある。


 ギアの町の防衛は、予定よりも早く瓦解して終わる……はずだった。


 そうならなかった理由はただ一つ。

 とある少女によって、事態は大きく変わったからだ。


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