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別章 防衛 1

 魔物大侵攻スタンピードの一報が耳に届いた瞬間から、ローレンは思考を巡らせる。


 何故今……フォードの町とギアの町の両方で同じ事が……同じタイミングで……と、入ってくる情報を一ピースにして、ジグソーパズルのように組み立てていく。


 それほど時間はかけず、ローレンが導き出した答えは、この出来事は第二王子派の策謀ではないか、という事だった。


 以前失敗した自分の殺害を、再び行ったと考えたのだ。

 しかも、より被害を大きくして。


 確かに、以前の襲撃をローレンは乗り切った。

 エイリールと出会うきっかけにもなり、そのあとの対応で第二王子派の勢力はかなり削いだ。


 その時ばかりは、清廉潔白なローレンでも後々の事も考えて、本気の徹底的な対応をしたのである。

 しかし、また襲撃が行われた。


 その上、今回は二つの町を巻き込んで。


 感知出来ていない第二王子派が存在している事を、ローレンに自覚させた。

 ローレンの中で、第二王子派が首謀であるという考えに疑いはない。


 そうなってくると、これからの対応はローレンが共に来た騎士団の面々をどれだけ信用できるかにかかってくるが、魔物大侵攻スタンピードで死ぬつもりはないだろうと疑いはあと回しにして、騎士団と共に魔物大侵攻に対応する決意を固める。


 フィルフィート国の第一王子として。

 その矜持を胸に、ローレンは行動を開始する。


「バリッシュ騎士団長。今直ぐ騎士をフォードの町の門に集めてくれ。それと、報酬は出すので冒険者にも協力を願い出て欲しい」

「かしこまりました。今より、騎士団の指揮権を、フィルフィート国第一王子ローレン様にお渡し致します」

「確かに受け取った。では、迅速なる行動を」

「お任せを」


 バリッシュが騎士団に指示を飛ばしながら、この場から移動を開始する。

 ローレンに指揮権が移ったのには理由があった。


 以前の第二王子派への対応の際に見せつけたのだ。

 戦いの才能を。


 だからこそ、フィルフィート国側はローレンが指揮を執るのだ。

 ローレンは、腕の中に居るエイリールを見る。


「すまない。どうやら、まだ終わっていなかったようです」

「……なるほど。あの時の勢力は未だ健在、という事ですね」


 ローレンの言葉を、エイリールは正しく理解した。

 やはり聡明な方だと、ローレンは内心で思う。


「そのようです」

「……敵が潜んでいるであろう騎士団を率いて、戦うのですね?」

「はい。第一王子として、民を守るために戦います。もちろん、エイリールを守るためにも」

「知っています。ローレンがそういう方だからこそ、私も嫁ぎにきたのですから。ですが、一つだけ約束を。死なないでください。私を未亡人にしたら許しませんからね」


 ローレンが苦笑を浮かべる。


「そうですね。許されないとなると、私ではエイリールにとても敵いませんので、そうならないように必ず生き延びます」


 ローレンはエイリールを離し、フィルフィート国の騎士団が待つ場に向かう。

 その姿は冷静でありながらも、内面の怒りを隠しきれていない。


 何故なら、自分の命を狙うだけではなく、関係ない町の者たちを巻き込み、なおかつその中にはエイリールも含まれているからだ。

 故に、ローレンは魔物大侵攻を退ける事が出来れば、本気で第二王子派を叩き潰す事を心の中で決めた。


 国内にこれ以上の混乱を起こさないために。

 自身とエイリールが平穏に過ごせるように。


 その背を心配そうに見つめていたエイリールであったが、振り返れば毅然とした表情に切り替わる。


「バーネット・ハイン」

「はっ! ここに」


 エイリールの呼びかけに、直属の騎士であるバーネットが直ぐ答える。


「私たちは水門を開き、船で避難する方々を誘導します」

「かしこまりました。直ぐ準備を行います」

「ディザイン騎士団長」

「はっ!」


 エイリールの呼びかけに、グロウリア国の騎士団長であるディザインが直ぐ答える。


「戦闘に関して私は素人ですので、騎士団をお任せします。それと、協力していただける方々には充分な謝礼も用意すると、エイリール・グロウリアの名の下にお約束します」

「かしこまりました。冒険者の協力も得られると思いますので、魔物の方はお任せください」


 よろしくお願いしますとエイリールは頷き、祈る。


「……神よ。どうか、勝利を。皆の命をお守りください」


     ―――


 魔物大侵攻に向けて、二つの町は対抗するための準備を進めていく。

 しかし、そう時間は残されていない。


 町の外壁に登れば魔物の大群の姿が見えているのだ。

 既に限られた時間であり、カウントダウンはもう始まっている。


 取れる手段の多くは削られ、限られた手段しか手元には残っていない。

 切れるカードは少なく、総合的な戦力も足りない。


 それでもどうにかしなければ、結末は破滅。死、のみ。

 だからこそ、ローレンは思考を続ける。


 見えない勝ち筋を探し得るために。


 ローレンはそのために、フォードの町やその周囲の地理に詳しい者から話を聞いたり、騎士団の人数、冒険者の数と質など、手に入るだけの情報を求めて得る。


 しかし、それはより希望を失う結果だった。


 今回の出来事でフォードの町に多くの人が集まり、元々の住民も含めた中で戦闘の心得がある者たちが加わるのは希望的部分だったろう。


 だが、騎士団の次に戦力として期待できる冒険者たちの中で、高ランクの者たちが盗賊退治のために居ないという情報には、ローレンは頭を抱えた。


 何故。よりにもよって、こんな時に……と。


 一瞬、策略なのでは、という思考が過ぎるが、確証はないと切り捨てる。

 高ランク冒険者が居ないという事実は変わらないのだから。


 ローレンが頭を抱える事になったのには、当然理由がある。

 個の力が集の力を上回る事があるからだ。


 その最たる事例を多く作り出しているのが冒険者であり、その中でも高ランクの者たちなのだ。


 高ランク冒険者が居ると居ないとでは、総戦力は大きく違ってくる。

 そのクラスの者たちが居ないのだから、ローレンが頭を抱えたくなるのも仕方ない。


 もしここで、グロウリア国側のギアの町でも同じ状況が起こっている事を知れば、策略に関してもう少し思考を続けたかもしれないが、そもそも知ったところで状況は何も変わらないので、結局はその思考を切り捨てていただろう。


 事態は既に大きく動き、今のところローレンは完全に後手に回っているのだから。


 グロウリア国側のギアの町でも、バーネットはローレンが得た情報と全く同じ情報を得て、同じように頭を抱える。


 フォードの町とギアの町。

 二つの町は不利な状況のまま、魔物大侵攻に立ち向かう事になる。


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