表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/33

18

 魔物の大群が来ると叫びながら、騎士が俺の前を通り過ぎ、大橋の中央に向けて駆けていく。

 叫びながら魔物の大群が来る事をアピールしているのは、果たしてワザとなのか、それともただの馬鹿なのか、判断できん。


「アクニンさん! アクニンさん!」


 そもそも、普通ならアピールする事自体が間違いだ。

 いや、アピールする事は別にいい。問題なのはタイミング。


 今やっても逆効果。

 要らぬ混乱を巻き起こすだけ。


「ちょっ! 今の聞きましたか!」


 つまり、これはそれを狙っての事。

 何か後ろ暗い事を起こすなら、混乱を起こした方が紛れる。


 それを狙っての事だろうから、ワザとだな。

 つまり、アピっている騎士は後ろ暗い事を起こそうとしている側って訳か。


「聞こえているんですか! アクニンさん!」

「あー! もう! うるさいよ。セイギちゃん。淑女だったら、少しは落ち着きをもって行動しないと」

「いや、私は一度も自分を淑女だなんて……じゃなくて! 落ち着いている場合ですか! 魔物の大群! 魔物大侵攻スタンピードですよ!」

「ああ、みたいね」

「軽い! 反応が軽い! もっと驚いて、わたわた慌てるところじゃないんですか!」

「今のセイギちゃんみたいに?」

「そう、今の私みたいにって、ちがぁーう!」


 セイギちゃんが飛びかかってきたので、キャッチして地面に下ろす。


「まあまあ、落ち着いて、セイギちゃん。これも想定内だから」

「だから、落ち着ている場合じゃ……想定内?」

「そっ。想定内。多分、こうくるんじゃないかなあ? と俺はわかっていたよ」

「なら、どうして事前にとめないんですか!」

「セイギちゃん。いい事を教えてあげよう。世の中の出来事において大抵の場合、対処は事後だ。事前に対処出来るのはそれだけ稀で難しい。今回もそう。俺たちがこの町に来た段階で、これをとめる事は無理だった。そもそも、とめるために必要なヤツも居なかったし」


 そう言うと、セイギちゃんは納得していない表情を浮かべていた。


「難しかった?」

「いえ、言っている意味はなんとなくわかります。でも、こういう事態が起こるって私にはわからなかったのに、アクニンさんにはわかっていたのが納得出来ないだけです」

「そんなの、わかりきっている事じゃないか」

「なんですか?」

「俺が、悪人だからさ」


 ニッ、と笑う。


「そのギザ歯を一本抜いて、すきっ歯で笑えるようにしていいですか?」

「今する事じゃないし、やっちゃ駄目な事だよね? 引き籠るよ? 俺、外を歩けなくなるよ?」

「世の中が少し平和になるって事ですね」

「やるなら相応の覚悟をもってね。入れ歯を手に入れたら、間違いなく復讐に行くから」

「怖いのでやめておきます……って、ちがぁーう!」

「てんどん? まあ、一回目も笑ってないけど」


 セイギちゃんの笑いのセンスは、俺に遠く及ばない。


「意味のわからない事を言わないでください。今話し合うべきなのは、魔物大侵攻スタンピードにどう対処するかです」


 そうね。

 それが本当だと気付いたヤツから、慌ただしく動き出している。


 俺も、さっさとセイギちゃんに説明して、協力してもらわないとな。


「まずは戦えない人たちを逃がさないと」

「逃がすって、どこに?」

「どこって、大橋を渡ってギアの町の方に」

「いや、それは無理。俺の調べによると、フォードの町とギアの町の最近の出来事は全く同じ。つまり、向こうでも、同じ状況が起こっている」

「それって、ギアの町の方も魔物大侵攻スタンピードが?」

「そっ。きっともう直ぐ、その報告が届くよ。つまり、逃げ場はない。いや、正確には、大河を船で逃げればいいけど」

「そんなの、全員は無理です!」

「だろうね」


 エイリール王女と王子は、それでさっさと逃げればいいのに、きっとそうしない。

 そこら辺も踏まえて、向こうは動いている。


「なら、戦うしかないですね!」


 むんっ! とセイギちゃんが拳を握る。


「まあ、そういう結論になる訳だけど、戦力はどうすんの? この状況でまともに戦えるのは冒険者と騎士団だけだけど、今冒険者は雑魚しかいないんだよ? 忘れた? 上位ランクは盗賊退治に向かって、まだ戻ってきていないんだよ」

「そうでした!」


 セイギちゃんが驚きの表情を浮かべる。

 いや、この情報は、セイギちゃんから教えてもらったヤツなんだけど。


 偶に、この子の将来が不安になる。

 恐らく、周りが苦労しそうな大器になりそうだ。


 その時は近くに居ないようにしよう。

 でも今は、セイギちゃんが必要だ。


 多分、盗賊退治に向かった冒険者たちが戻ってくるのは、本当にギリギリというか、完全に予測できるもんじゃない。


 つまり、間に合っても、間に合わなくても、どっちでもいいようにしているはずだ。

 まっ、俺としても、どっちでも構わないけど。


「だから、魔物の方は任せたよ、セイギちゃん」

「任されました! どーんと任せてください」


 セイギちゃんが言葉通りに、どーんと胸を叩く。

 俺から見ればかなりの力だったが、微動だにしないし、セイギちゃんに通じたように思えない。


 殴られないように気を付けよう。

 そもそも俺に当てられるとは思わないけど。


「私の本気を見せてあげます! というか、魔物の方は? アクニンさんはどうするんですか?」

「俺? 野暮用。まあ、そっちが片付いたら、魔物の方に行ってもいいけど……多分、俺は必要ない」

「………………」

「………………何?」

「ここぞとばかりに盗みを働くとかしないでしょうね?」

「はあ……がっかりだよ。セイギちゃん。俺は確かに悪人だけど、コソ泥じゃない」

「………………違いはないと思いますけど?」

「いいや、違うね! 全く違うね!」


 わかってない! わかってないよ! セイギちゃん!

 全く違うという事を!


「いいかい? 俺はコソ泥と違って」

「その話、長くなりそうなので、あとじゃ駄目ですか? 今は、魔物の方に時間を割きたいので」

「……そうね」


 心の中で地団駄を踏みまくった。


「じゃあ、さっさと行った方がいいよ」

「言われなくても行きますよ!」


 町の外に向けて駆け出そうとするセイギちゃんの腕を掴む。


「待て待て。行くなら先に、ギアの町の方がいい」

「どうしてですか?」

「両国の戦力を比べた場合、グロウリア国の方が弱いから。ある程度は間引かないともたない。それと……」


 念のために、セイギちゃんに必要な事を伝えておく。


「……本当なんですか? それ」

「多分ね。でも、タイミングを間違えるとそのまま死んじゃうだろうから、気を付けておいた方がいい」

「うーん。わかりました! アクニンさんが念押しするって事は、確率的に高いって事だと思いますし、気を付けておきます! よーし! やるぞー!」


 気力を漲らせたセイギちゃんが駆け出していく。


「いってら~!」


 軽く手を振って見送った。

 さて、俺も動きますか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ