17
翌朝。
ざわめきで目を覚ます。
……建物の外からのようだ。
窓を開けて確認すると、騒いでいる人たちで溢れ返っている。
何を騒いでいるのかと思えば、王子コールだった。
それで思い出す。
ああ、そうか。今日来るんだったな。
朝からご苦労な事で。
……うるさっ。
窓を閉めて支度を始める。
今日の髪のセットは……いまいち。
外のざわめきに乱されたのかもしれない。
食堂に向かい、外の騒ぎをBGMにしながら朝食をいただく。
今日の朝食は、食パンの上にベーコン、レタス、トマトをのせ、マヨネーズを格子状に垂らし、食パンをもう一枚使って挟む。あと、たまごスープ。
しっかり噛んで、ゆっくり食べていると、食材の追加にイナちゃんが来た。
「おはようございます」
「おはよ。外の騒ぎに行かなくていいの?」
「どこかの誰かのように、興味ない人も居ますからね」
「つまり、興味はないと?」
「いえ、興味は大いにあります。正直に言えば、一緒に騒ぎたいですけど、そういうのに興味ない人がお客様の中に居ると、お仕事を優先しなければいけません」
「そっか。それは大変だね」
イナちゃんが、ジッと俺を見てくる。
「気付いて言わないのか、本当に気付いていないのか、判断に悩みます」
「イナちゃん。元から気付いていてというか知っていて、それでも普通にしているって選択肢が残っているよ?」
「そうなんですか?」
「そうなんじゃないかな? でも、食堂には俺以外の客も居るし、俺だけの責任って訳じゃないと思うけど?」
「そうですけど、なんか言いやすいんですよね」
仲良くなった証拠だね。
「自分からアクニンだなんて名乗る、残念な人だからでしょうか」
おいおい。
それは酷くない? と思いつつ、朝食を一気に口の中に入れて、たまごスープで流し込む。
……そういえば、いつもなら朝食中にセイギちゃんが起きてくるんだけど、今日は来なかったな。
「あっ、そういえば、アクニン様への伝言を預かっていたので、それを伝えるために声をかけたのでした」
「それは最初に伝えるべき事じゃない?」
「アクニン様が先に問いかけきたので、ついつい脱線してしまいました」
「あれ? 俺のせいにされてる?」
「『祭りを楽しんでいます!』だそうです」
誰から? とは聞かなくてもわかる。
セイギちゃんだ。
俺よりも早く起きて、外の騒ぎに参加しているのだろう。
まだまだお子様のようだ。
伝える事は伝えたと、イナちゃんは仕事に戻っていった。
俺もトレイを片付けて、とりあえず宿屋ファミリアの外に出る。
通りは、まともに前を歩く事が出来ないくらい人が溢れていた。
あと騒がしい。熱気で暑苦しい。不快。
……部屋で居る事に決める。
どうせ、今日は何も起きない。
恐らく、今日は準備の最終確認にあてるはずだ。いつでも始められるように。
つまり明日以降。
エイリール王女と王子が会う時に事が起こる、という考えは間違っていないだろう。
今日の事は、あとでセイギちゃんにでも聞けばいいさ。
なので、今日は休み。
部屋に戻り、ベッドにダイブしてゴロンと横になった。
―――
ドアが叩かれる音で目を覚ます。
「起きて下さい! アクニンさん! そろそろ晩御飯の時間ですよ!」
おっと、いつの間にか寝ていたようだ。
ベッドから身を起こし、扉を開ける。
「ドンドンドンドンうるさい! 借金取りか!」
「出てこないアクニンさんが悪いと思いますけど? というか、もしかして今まで寝ていたんですか? 外は楽しいお祭りなのに、行かなかったんですか?」
「誰が好き好んで雑多な人の集まりに。真っ直ぐ歩けないとか、他人にペースが乱されるの、好きじゃないんだよね」
「ああ、アクニンさんはそれっぽいですよね。でも、参加すればわかります! 楽しい事に間違いはないんですから!」
まあ、セイギちゃんはそうだろうね。
話しながら準備を終え、セイギちゃんと連れ立って食堂に向かう。
晩御飯は、ミートソースパスタ、ロールキャベツ、コーンスープ、アップルパイ。
いつもよりグレードが高くなっているのは、祭りの影響だろう。
セイギちゃんが俺の三倍の量なのは通常なのだが、今日は更に分厚いステーキとこんもりサラダに、チーズケーキまで追加されている。
「相変わらずたくさん食べるね。しかも、今日はいつもより多いし。祭りの影響?」
「そうかもしれませんね。それに、なんと言うか、こう……たくさん食べて力を蓄えておかないと、明日もたないような気がして」
「……ちなみにだけど、エイリール王女と王子が会う日は明日?」
「そうみたいですよ。そういう話が流れています」
……明日は何かが起こると、本能で察知しているな、これ。
セイギちゃんは、こういう時があるから怖い。
でもまあ、そういう部分は信用している。
となると、事が起こるのは明日で間違いなさそうだ。
「そういう事なら、たんとお食べ」
「……アクニンさんが笑みを浮かべて勧めてくるなんて……何か裏があるんじゃ?」
「ないよ」
「……絶対何か企んでいますよね? 駄目ですよ! 明日は王子様と王女様が幸せになる日なんですから、祝福する事以外はしちゃ駄目なんですからね」
「祝福はするさ。……俺なりに、ね」
―――
翌朝。
今日の髪のセットは……完璧。
それだけで心が晴れやかだ。
あとは朝食をいただいて、その時を待つだけ。
「……マジか」
食堂。閉まってた。
ご丁寧に、「本日はイベントのため、夜からの営業となります」と看板が置かれている。
晴れやかだった心が沈んでいく。
肩を叩かれたので確認すると、セイギちゃんだった。
珍しく起きるのが早い。
楽しみで眠れなかったとかだろうか?
「おはようございます、アクニンさん。何か今、変な事を考えていませんか?」
「おはよう、セイギちゃん。いや、まったく」
「まあ、別にいいですけど……その様子だと、食堂が開いてないって知らなかったんですか?」
「……いや、そんな事はない。というか、セイギちゃんこそ、こうしてここに来たって事は、知らなかったんじゃないの?」
「知っていましたよ。昨日、イナちゃんが教えてくれましたし」
あれ? 俺、教えてもらってないけど?
イナちゃんはセイギちゃんと仲がいいのだろうか?
軽く嫉妬。
「だから、今日の朝は屋台で済ますつもりでしたけど……アクニンさんの姿が見えたので、ここにこうして居るのです」
はいはい。
「俺も屋台で済ませるか」
セイギちゃんと連れ立って、屋台で買い食いしながら、エイリール王女と王子が会う予定の、二つの町を繋ぐ橋に向かう。
大きなイベントに、町中が賑わっていた。
そして、そのイベント中……考えていた通り、事件が起こる。




